劉 暁軍 中国駐名古屋総領事
「ピンポン外交」50周年を迎えて

日本人なら誰もが知っているが、名古屋といえば、日本三大都市圈の一つである名古屋都市圈の中心都市である。ここはまた、中国が日本に置く6つの総領事館のひとつである中国駐名古屋総領事館の所在地でもある。本誌は先ごろ、劉暁軍中国駐名古屋総領事を取材し、今後の中日関係、「ピンポン外交」の今日的意義、中日経済の新たな足掛かり、コロナ禍の中での領事活動等、読者が関心を寄せる話題についてお話をうかがった。

 

コロナ禍の中、中日貿易額は3000億ドルの大台をキープ

—— 2020年、世界は百年に一度の大きな変化に直面しました。劉総領事は、外交の第一線で、こうした状況下における中日関係の変化をどう見ておられますか。2021年が明けた今、管轄地域の状況を踏まえた上で、中日関係の今後をどう展望しておられますか。

劉暁軍 日本はわが国にとって重要な隣国であり、世界第二位と第三位の経済大国として、中日関係の発展は両国国民に恩恵をもたらすだけでなく、アジアの発展と振興にとっても極めて重要です。大きく変動する現在の国際情勢下においては、なおさらです。中国政府は一貫して中日関係を重視しており、中日の四つの政治文書と四つの原則の共通認識の下、歴史から学び、未来志向の戦略的互恵関係を築き上げることを主張しています。双方の努力によって、中日関係は安定的な発展を続けています。中日両国の指導者は、新時代の要請にかなった中日関係を構築するという重要なコンセンサスを得ました。コロナ禍にありながら、2020年の中日間の貿易額は伸びています。中部地方を代表する企業であるトヨタ自動車の対中売上高は過去最高を記録し、中日経済協力の粘り強さを証明しました。日本の新内閣発足後、習近平主席と菅義偉首相は初の電話会談で、今後の中日関係の方向性を明確にし、弾みをつけました。王毅国務委員兼外交部長の昨年末の訪日では、五つの重要な共通認識と六項目の具体的成果を達成し、アフターコロナの中日協力の深化に向けて、具体的な道筋が示されました。


孔鉉佑駐日大使(右から3人目)と共にトヨタ自動車を訪問

2021年は、わが国の「第十四次五カ年計画」の初年度にあたります。中国は現在、国内大循環を主体とした、国内外の「双循環」が互いに促進する経済の新発展モデルの構築を精力的に進めています。昨年末、中国と日本を含むアジア太平洋地域15カ国は、地域的な包括的経済連携協定(RCEP)に調印し、世界最大の人口を擁し、経済規模が最大で、最も発展の可能性を備えた自由貿易区が出航しました。更に、中日は初めて関税引き下げ案に合意し、歴史的な突破口を開きました。中国はまた、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)への参加を積極的に検討すると表明し、中日関係を次の段階に押し上げる環境づくりを進めています。中日両国には、省エネ・環境保護、技術革新、ヘルスケア、デジタル経済、気候変動等の分野で、幅広い共通利益と協力の可能性があります。2021年、中日関係は新たな発展の時を迎え、コロナ禍と百年に一度の変化に直面している世界に、安定とプラスエネルギーをもたらすと信じています。

 

「ピンポン外交」の初心を忘れず

—— 中国駐名古屋総領事館は、「ピンポン外交」ゆかりの地にあります。当時の中国の「小さなピンポン玉が大きな地球を動かす」という戦略的外交思考は、現在の中日関係にどのような示唆を与えているでしょうか。駐名古屋総領事館は、「ピンポン外交」の精神をどうのように継承されていますか。

劉暁軍 「ピンポン外交」は、新中国の外交史において「民を以て官を促す」重要な実践でした。今年は「ピンポン外交」からちょうど50周年です。50年前、名古屋を舞台とした「ピンポン外交」は、中米の緊張状態を打破し、戦後の中米関係の重要なターニングポイントとなり、中日国交正常化にも大きく貢献しました。現在の国際情勢は不安定性と不確実性が増大しています。「ピンポン外交」の歴史を学び、友好の初心に立ち返ることは、重要な今日的意義があると考えます。


名古屋電気学園淳和記念館で「ピンポン外交」の精神を伝える展示を見学

日本の中部地方と中国との友好には確固たる基盤があります。「ピンポン外交」に尽力した後藤鉀二先生は、愛知県で長年教育者として活躍されました。魯迅の恩師である藤野厳九郎先生は福井県人です。更に、中日国交正常化に大きく貢献した政治家の松村謙三氏は富山県人です。中部地域に中日友好を切り開いた豊かな人脈資源があることは嬉しいことです。われわれは「水を飲むとき、井戸を掘った人のことを忘れない」との精神を忘れず、中日友好に貢献した先達の卓見を継承し、更に発揚していかねばなりません。

2021年は「ピンポン外交」50周年であるとともに、中日文化・スポーツ交流推進年でもあります。われわれは中部地域の各界と協力し、コロナの感染状況に応じて、様々な形で豊富な記念の活動を開催し、「ピンポン外交」の精神と中日の民間友好の伝統を継承し、両国国民の相互理解と友好を深め、新時代の要請にかなった中日関係の構築に貢献して参ります。

 

雄安新区の対日交流を促進

—— 中部地方には、トヨタ自動車に代表される製造業の企業が多くあります。総領事は、中国と取り引きがあるそれらの企業との交流を通して、中日経済交流の動向をどう感じておられますか。駐名古屋総領事館の「経済外交」について紹介していただけますか。

劉暁軍 中日両国は共に世界の主要経済国であり、お互いが大事な経済・貿易協力のパートナーであり、相互補完性が強く、産業チェーンやサプライチェーンは高度に融合しています。中部地方は日本の製造業の中心であり、実体経済は堅調で、中国との経済・貿易交流も盛んです。最新の統計によれば、愛知県だけでも、中国に事業展開している企業は1102社あり、日本全国3位にランクしています。自動車、機械製造業等の伝統的製造業から、自動運転、eコマース、高齢者介護等の新興産業まで、双方はそれぞれの強みを活かし、様々な分野で全面的な協力を推進し、幅広く多層的な協力の形が見られます。新たな形勢下、中日経済交流は科学技術革命と産業変革という新しい分野が焦点となっています。人工知能、5G、インダストリアル・インターネット等の新世代の情報技術と製造業の融合・開発の協力が深まり、世界経済復興への更なる貢献が期待されます。


東海日中貿易センターの小澤哲会長が率いる視察団が雄安新区を訪問

中国駐名古屋総領事館は、長年、中部地域の対中経済・貿易交流に積極的に取り組んできました。一つ目に、中日両国の企業活動の再開です。コロナ禍の中、中部地域の経済界の対中投資に対するニーズを広く聞き取り、多くの企業の中国での企業活動再開を支援してきました。二つ目に、経済・貿易分野における中日地方交流の強化です。愛知県-広東省間の友好都市交流を推進し、様々な分野で実務協力を進めてきました。愛知県と広東省は共に製造業が盛んで、強固な産業基盤があり、双方が協力することは相乗効果をもたらします。現在、トヨタ自動車をはじめとして、愛知県内には広東省で事業展開している企業が200社以上あり、協力には大きな潜在力があります。三つ目に、国内の経済・社会発展への貢献です。昨年末、われわれは雄安新区とトヨタ自動車の間でオンライン交流会を開催し、スマートシティ建設に関する戦略的連携を強化し、交流を深めました。われわれは、新しい年も引き続き、管轄地域の企業の対中経済・貿易交流の架け橋になっていきたいと思います。

 

日本の青少年に中国に触れる機会を提供

—— 世論調査によると、日本人の中国に対する好感度は悪化の傾向にあります。近年、駐名古屋総領事館は、民間交流、特に青少年交流においてどのような取り組みを行ってこられましたか。

劉暁軍 民間の友好は中日関係の重要な基礎です。習近平主席は「人民の友好は世界の平和と発展の基盤であり、互恵協力の前提である」と述べました。われわれは管轄地域の華人華僑とともに、季節ごとの公共外交活動を行っています。春の「桜二胡音楽会」、夏の「ど真ん中祭り」、秋の「中日友好・錦秋の集い」、冬の「名古屋中国春節祭」には、当地の日本人も多く来場し、中日の優れた伝統文化が披露され、中日民間交流を促進しています。民間友好交流の基盤は年ごとに堅固になり、両国国民の相互理解の増進に貢献しています。


「走進江蘇」中日友好中部六県大学生访中団の壮行会

中日関係の未来は青少年にかかっています。青少年交流は民間交流の重要な要素です。中日青少年交流促進年と銘打たれた2019年には、中部地方六県の百人から成る訪中団を組織し、江蘇省を訪問しました。また、中部地域の高校生の訪中団をサポートし、好評を博しました。昨年はコロナ禍の影響により、訪中団の派遣は叶いませんでしたが、われわれは新たなスタイルを模索する中、オンラインによる「長江流域生物多様性保護活動――第七回青少年環境教育サミット」等の活動を支援し、両国の青年の相互理解と友好を促進しました。

新型コロナウイルスの感染拡大以降、両国国民の対面での交流はできなくなりましたが、お互いに助け合い、共に防疫に取り組む中、「山川異域、風月同天」(山河は異なろうとも風も月も同じ天の下にある)の友好の美談がつづられました。中部地域各界と中国国内の地方都市との間で相互に贈り合った防疫物資は284万件にのぼり、両国国民のお互いに対する友好の思いを反映していました。駐名古屋総領事館は、これからも両国の民間友好交流を促進し、より強固な民意の基盤を形成し、中日関係の更なる発展に貢献して参ります。

 

コロナ禍の中、領事業務を絶えず刷新

—— 新型コロナウイルスの感染拡大以降、駐名古屋総領事館では、管轄地域の華人華僑とどのようなコミュニケーションをはかってきましたか。特徴的な領事活動についていくつか教えていただけますか。

劉暁軍 中国国内での感染状況が深刻だった時期、中部地方の華僑華人コミュニティは、直ちに金銭や物資の寄付を募りました。30以上の華僑華人の団体及び企業が行動を起こし、弛みない支援を行いました。日本で感染が拡大した際には、われわれは迅速に防疫物資を調達し、管轄地域の華人華僑、留学生や研修生に向けて、20万件の防疫物資と「健康セット」を配布しました。


中国人留学生に「健康セット」を配布

われわれは常に中部地域の華人華僑の生命の安全と健康を念頭に置き、全力で領事業務に取り組んできました。一つ目として、公式サイトとウィーチャットの公式アカウントを通じて、防疫ガイドラインや最新の情報をタイムリーに発信しています。二つ目に、領事保護業務に全力で取り組んでいます。緊急の心臓移植手術を必要としていた中国人技能実習生を帰国させるため、様々な障害を克服し、両国の外交、地方、出入国管理部門及び医療関係者と協力し、「生命のリレー」を実現しました。また、当地の医療機関、税関、空港、香港入境管理局とも緊密に連携し、「ダイヤモンドプリンセス号」で新型コロナウイルスに感染した香港同胞が、愛知県での応急治療と帰国をサポートしました。三つ目に、「グリーンゲート」を開設し、急を要する人々にパスポート、各種証明などの発行を行っています。駐名古屋総領事館は、「人民のための外交」、「人民本位」をモットーに、在日同胞の合法的権益を断固として守り、皆様とともに、中華民族の偉大なる復興という中国の夢の実現のために弛まず努力して参ります。