陳 海騰 フォビジャパン代表取締役社長
中国のイノベーション技術で日本のブロックチェーン振興に貢献する


撮影/本誌記者 王亜囡

 

 

初冬の東京の空は晴れ渡っていた。午前9時50分、スーツに身を包んだエリートビジネスマンたちが行き交い、近くの美術館へと人々が吸い込まれていく。二種類の人種は緊張とリラックスという違う気分でここに来ている。科学技術と芸術がここで合流し、金融と規律がここで共生し、イノベーションと伝承がここで交流する。時代の変革もここで静かに芽生え、生まれ、移り変わる。ここは六本木ヒルズ・ノースタワーである。

 

ブロックチェーン技術が大々的に成長している時代である。『人民日報海外版日本月刊』編集長として、日本の金融庁に登録されている仮想通貨の取引所であるフォビジャパン株式会社の代表取締役社長である陳海騰にインタビューをおこなうことになった。金融政策とイノベーション技術に関するハイレベルな対談であり、中国の技術と中国の影響力がいかに国際的な包囲網を突破していったかについての高度な討論でもある。

イノベーション技術で

時代を先取りする

インターネットが猛烈な勢いで発展したこの二十数年間、ポータルサイト、検索、SNS、ネット販売、シェアリング・エコノミーなどのブームを経て、現在はブロックチェーンの時代に入っている。しかし、多くの人にとって「ブロックチェーン」とは未知のもので、手を焼きそうな新しい用語だ。皆、以前のネットを懐疑的に見ていたのと同様にブロックチェーンを見ているのである。

 

インタビュー開始後、陳海騰はすぐに専門技術の話に入り、ブロックチェーン技術の原理と強みについて詳細に分析してくれた。ブロックチェーンとは、分散型台帳技術ともいわれる。それは多くの人々が共同で維持するものであり、暗号理論によって訪問や転送の安全性が保証され、データストアの一致性が保証され、改ざんを防止、否認を根絶する新型の記帳技術であり、広範な運用領域と深層での実践の意義を持つものである。現在、ブロックチェーンはAI製造、IoT、デジタル金融、倉庫チェーン管理などの分野で非常に役立っている。中国政府もブロックチェーン技術の発展と定着を大々的に推進しており、中国で最もイノベーションの風が吹いている都市、深圳を例にとると、2019年11月1日までに、全市内ですでに1000万枚の電子領収証が発行されている。

 

監督部門にとって、ブロックチェーンの唯一性と遡及性は、国家と地方財政の税収の安全性を保証してくれるものだ。事業者にとって、ブロックチェーンの電子領収証は事前の申請や受領、残額還付などのプロセスを省くことができ、効率が上がり、手順が減らせる。また消費者の立場から見ると、スマートフォンなどユーザー端末からブロックチェーンの電子領収証を出すことができ、偽造領収証を受け取る心配もなく、発行にかかる時間を節約することができる。

 

フォビジャパンは事前に日本の仮想通貨取引所を買収するという方法で、日本の暗号資産領域への参入を実現し、日本の金融庁による21社の登録業者の一つとなり、同時に日本でもトップレベルの業者としての地位を固めた。フォビジャパンのこの買収は、ブロックチェーンと実体経済との結合を推進し、データ共有、業務手順の最適化促進、運営コストの低減、シナジー効果の向上、信頼できるシステムの構築など、5つの分野でのブロックチェーンの役割を発揮させた。将来、中国の国際的な発言力拡大と国際ルール制定の強化が実現すれば、そこで重要性と影響力を示すことができる。

 

フォビジャパンの計画はマクロ面だけでなく、民間のさまざまな面にも注目している。陳海騰が来日してはじめて学んだのは沖縄国際大学であり、在学期間中、彼は同大学の富川盛武教授と知り合い、その間柄は友情へと発展した。現在、富川教授はすでに沖縄県の副知事となり、陳海騰は恩師の近況を注視するとともに、沖縄の発展にも関心を抱いている。彼は自身の努力によって、第二の故郷である沖縄に何かしたいと願っている。

 

2019年10月31日早朝、沖縄の首里城で火災が発生した。全人類が共有する宝であり、貴重な文化芸術遺産である首里城に大きな損失をもたらした火災は、世界各国のネットユーザーの心を動かした。多くの人が寄付をし、皆できるだけのことをしたいと願っているようだ。

 

陳海騰はそのニュースを見て決断した。フォビジャパンは日本で認められた取引所であり、ブロックチェーン技術の安全性と速さの助けを借りて、この難局を乗り越えられるはずだ。彼は即断し、首里城のために暗号資産寄付プロジェクトを立ち上げた。ビットコイン(BTC)、リップル(XRP)、イーサリアム(ETH)の暗号資産の寄付で首里城の再建を応援できる。これはフォビジャパンにとってはじめての「ブロックチェーン+チャリティー」モデルであり、ブロックチェーン技術が温かく愛のあるものであることを証明できる。これもコンプライアンス市場の中でのブロックチェーンと実体経済との結合の代表的な例であり、将来はさらに多くのブロックチェーン技術が具現化されることだろう。

日本文化の開拓は、

華人華僑への啓示

2006年12月、バイドゥ(百度)ジャパンは陳海騰を代表取締役として招聘した。彼の日本文化への理解とNTT西日本やインデックスの発展を助けた経験を買われたのである。

 

当時はすでにヤフーとGoogleが日本のサーチエンジン市場を席巻しており、バイドゥの市場参入は難しかった。

 

バイドゥは中国のサーチエンジンの市場の多くを占めてはいたものの、日本市場と中国市場の間にはユーザー心理、企業文化、習慣など大きな違いがあった。そのほか、言葉の違いから生じる入力法の違いがさらに溝を越えるのを難しくしていた。陳海騰はそうした現実を踏まえ、中日両国の相違点を深く分析し、積極的に市場開拓しようとするバイドゥチームに冷静な判断を促した。

 

10年前の中国は、スマートフォンも普及しておらず、多くの人がパソコンで仕事をし、ネットを使っていた。しかし、当時の日本ではネットユーザーたちはすでに携帯端末の検索機能を使い慣れていた。ネット検索分野をリードしていたバイドゥが自身の短所で相手の長所に対峙し、直接日本の検索市場に進出するのは悪手である。よって、陳海騰は「資金力を持つ」バイドゥが日本市場を開拓するには、十分にその特殊性を理解する必要があると主張した。

 

この考え方は中国のバイドゥ本社のトップに認められ、バイドゥジャパンはサーチエンジン業務でヤフーやグーグルと競わず、迂回戦術をとり、携帯端末入力法を買収する方法で日本市場に参入した。

 

日本社会に精通していた陳海騰は、日本で広くユーザーに親しまれているsimejiに注目した。simejiは当時最も流行していたアンドロイド搭載の携帯端末の日本語入力法である。2011年12月、彼の主導のもと、バイドゥはsimejiを買収し、同時にこのシステムの開発者である足立昌彦と矢野凛をチームに加え、開発とオペレーションを担当させた。

 

会社の長期的利益と長期間の成長のために、彼は常に自身の考えを堅持している。バイドゥは中国での影響力は大きいが、日本市場を理解できていない。彼はあえて本社に赴き、トップに自身の考えを説明した。事業を推進するなかで愛国精神の使いどころがなければ役に立たない、祖国と日本の発展段階の違いに向き合い、日本の歴史風土、地域文化、民族心理、社会構造などを尊重し熟知しなければならず、さもなければ現地に順応できずに、すべてが水泡に帰すと率直に発言した。

 

陳海騰の日本社会と市場行動に対する洞察によって、彼の独自の人間的価値は日本政府からも注目され、国土交通省の「YOKOSO!JAPAN大使」(観光大使)に任命された。

 

2010年、陳海騰は東洋経済新報社から自著である『百度式600万人中国観光客を呼び込む方法』を出版した。この中で、彼はいかに日本社会に軸足を置き、文化を熟知し、地域の魅力を発掘するかを語っている。この書が刊行されたころは1年間の中国人訪日観光客は13万7000人余にすぎなかったが、その後数年以内に中国人観光客の訪日客数は倍々ゲームとなっていった。

 

2018年、延べ800万人の中国人観光客が日本にやってくるようになり、その爆発的な増加は日本の観光業界、飲食業界を席巻した。日本政府と業界は大きな収益を上げたが、困惑も広がった。駐日本中国大使館はこれに対し、中国人の財布はふくらんだ、もっと外に出て見てみよう、われわれは13億人いるから、来年はもっとも多くの中国人観光客が日本に来るはずだと反応した。

 

陳海騰もこれについて語った。中国人観光客が急速に増え、日本のホテルが予約しにくくなり、ハイシーズンには宿泊費も高騰している。これが日本のビジネスマンの出張に困難をもたらすようになり、ビジネスマンの多くが「出張できなくなった」と嘆いた。陳海騰は友人たちから、この「出張難」は彼の影響力のせいだと冗談交じりに「糾弾」された。

 

 


撮影/本誌記者 王亜囡

 

誠実なプロの精神が、

従業員の模範に

外の世界で論を張るクロスボーダーの人材、多才な仕事人として、陳海騰はずっと世論とメディアの注目を集めている。しかし、人々は彼の伝奇的な成功経験だけに注目することが多く、彼の栄光の蔭にある回り道や苦しい道のり、つねに新しい領域を開拓し続ける苦労を見落としがちである。

 

外の世界で活躍することについての疑問について、彼はこう述べた。「実はクロスボーダーはやむを得ない結果だ。前の雇い主に申し訳の立たないことはできないからだ」。同業ライバル社からの厚待遇の誘惑を拒絶することは、一般人にはなかなかできない決断だ。別の仕事にくら替えし、全く新しい分野での困難な道に甘んじるには、強い精神力と強靭な信念が必要である。いつも未知の分野で非凡な成功を収めることは、常人には及ばないプロ精神とコントロール能力を示している。観光、通信、サーチエンジン、人材リソース、金融……これらを立派にやり遂げ、専門家として成功させた。これらの道を歩んできた陳海騰は、多くの平凡な人たちにとって、あこがれの対象となっている。

 

2019年、中国は中華人民共和国成立70周年を迎え、日本は令和の新時代に入った。中日両国の関係はまた新しい時期に突入した。この1年が無事に終わろうとしている今、喜ばしいことに陳海騰はまた新しい地位を得た。11月22日、彼は『人民日報海外版日本月刊』の理事に就任した。

 

幼い頃から『人民日報』に親しんでいた陳海騰には、「人民日報」の4文字に深い思い入れがある。中国がブロックチェーン技術の発展戦略を進めるなか、『人民日報海外版日本月刊』の理事となった陳海騰はこれを契機として、中国そして日本社会にさらに貢献していきたいと願っている。

取材後記

秋と冬が過ぎていき、また新しい年が始まる。長年の物語が集結し、すべてが新しくなる時に新しい仕事を始める。2020年は陳海騰と『人民日報海外版日本月刊』にとって、真新しいスタートとなる。中国の影響力の更なる拡大とともに、フォビジャパン株式会社がブロックチェーン技術の後押しによって大きく成長することを期待したい。