肖 金泉 大成デントンズ法律事務所グローバル副主席
「一帯一路」建設における中日間協力を積極的に推進

「一帯一路」の四文字には、ずっしりとした重みがある。それは、新時代を迎えた中国が新たに打ち出した壮大な戦略構想である。平面的視点から言えば、伝統的政治、経済、文化を融合した発展へのロードマップであり、立体的視点から言えは、人類利益共同体、運命共同体、責任共同体を構築し、新たな公共財を一つまたひとつと打ち立てることである。現在、どれだけの人が、この戦略構想実現のために奮闘し、努力しているだろうか。先ごろ、「日中平和友好条約」締結40周年を記念して、東アジア共同体研究所、中国大成法律事務所、ベリーベスト法律事務所の共催による、「日中企業『一帯一路』フォーラム」が東京で盛大に開催された。『人民日報海外版日本月刊』、『環球網』、『日本新華僑報』はホテルニューオータニで、大成デントンズ法律事務所グローバル副主席で、著名なM&Aアナリストである肖金泉氏を取材した。

「一帯一路」建設に法律は不可欠

—— 私はこれまで、「一帯一路」建設に関する多くの報道をしてきました。この度、フォーラム開催のために、肖先生が団を率いて来日されたのは、法律の角度から「一帯一路」建設にアプローチするためですね。なぜ、そうお考えになられたのですか。

肖金泉 その通りです。現時点において、人々は主に政治、経済の面から「一帯一路」建設を考えています。文化面に目を向け、「経済と文化の両輪で」という建設的意見を唱える者もいます。しかし、「法律」という重要な要素は見落とされているのです。

「一帯一路」戦略構想の実現は、単なる政治的行為でも、単純な経済的行為でもなく、法律的行為であると言えます。「一帯一路」沿線の国家地域には、先進国もあれば発展途上国もあり、BRICs、上海協力機構加盟国、G20参加国、さらには「南南協力」(発展途上国間協力協定)加盟国もあります。社会システムはそれぞれ異なり、法律も当然異なります。これらの国家地域の法律に対する理解と研究がなければ、「一帯一路」建設は挫折するばかりか、重大な損失を被ることになるでしょう。従って、「一帯一路」建設は、片時も法律から離れることはできないのです。この点に対する人々の認識はまだまだ不十分です。ですから、当事務所がその責任を担い、国際社会で関係機関と協力して、法律を足掛かりとして、「一帯一路」建設を進めていきたいと願っています。

大成法律事務所の国際性

—— 全く新しい考え方だと思います。ある意味、「一帯一路」建設の弱点を突いているのではないでしょうか。この度の来日に際して、私は多くの日本メディアの記者から「大成法律事務所は中国の法律事務所ですか、それとも、海外ビジネスも展開しているのですか」と尋ねられました。この質問にはどうお答えになりますか。

肖金泉 私もその質問をしばしば受けます。それには、「大成法律事務所は中国の法律事務所であり、世界の法律事務所です」とお答えしています。当事務所は、改革開放政策が全面的に動き始めた1990年代初め、北京で設立された中国の法律事務所です。ところが、事務所の発展と中国経済のグローバル化の進展よって、企業のグローバル化に伴う法務需要が生まれました。当事務所は2015年、世界のトップ10に入る法律事務所であるデントンズ法律事務所との統合を果たし、70カ国以上の160カ所で9000人を超える弁護士を擁する、世界最大規模の法律事務所となりました。従って、当事務所は世界の法律事務所であるとも言えます。

私が特に強調したいのは、当事務所は、多くの国をカバーし、多くの弁護士を擁しているから世界的法律事務所になったのではないということです。なにより、国際的な視野と理念をもち、「多中心、多文化」の理念を主張しています。当事務所は優位な国の文化を持たず、多文化との共存発展を図っています。そして、グローバル本社を持たず、各地域を中心としたグローバルな統治機構を組織し、グローバリゼーションとインターネットの時代に適合しています。我々は世界中に、国際法及び各国の法律を熟知した弁護士を多数擁し、ワンストップでグローバルなサービスを提供できます。それが当事務所の中核的競争力になっています。

時代が賦与した歴史的使命

—— それでは、大成法律事務所が「一帯一路」建設に積極的に関わっているのは、どのようなお考えからですか。

肖金泉 その質問にお答えする前に、世界経済の発展史を振り返ってみたいと思います。15世紀の大航海時代以降、西欧諸国は東洋を発見すると、武力や軍事力をもって、経済交流ひいては経済の構築を強硬に行いました。目的は明らかに経済的利益でした。いま、中国は平和的発展を遂げ、世界の中心となりつつあります。世界には様々な考えから、中国の方向性や行動を懸念する国もあります。こうした背景のもと、中国は「一帯一路」戦略構想を提起し、過去の大国の発展史とは異なる道を選択したのです。簡単に言えば、過去の大国の発展の歴史はどれも戦争の歴史であり、大国となった国家は常に戦争という手段で経済的利益を求め、経済交流は戦火と血を伴うものでした。しかし、中国が提唱する「一帯一路」戦略構想は、平和と建設に立脚したもので、何よりも「ウィンウィン」の互恵関係に立脚しています。これは、世界の大国の発展史には見られなかった戦略構想であり、世界経済の発展史にも見られなかった動きです。グローバル展開する法律事務所として、我々は当然、中国の人類運命共同体の構築という道の選択を支持し、法的側面から積極的にサポートしていきたいと考えています。時代が我々にこのような歴史的使命を与えてくれたのであれば、勇敢に引き受けたいと思うのです。

行動をもって佳節を祝う

—— 大成法律事務所が、今回の中日平和友好条約締結40周年を記念する「日中企業『一帯一路』フォーラム」の開催を提起された動機は何ですか。

肖金泉 まず、その背景からお話ししましょう。周知の通り、中日平和友好条約は中日関係の重要な4つの政治文書の一つであり、中国の最高指導者は、中日関係の「バラスト」(安定装置)と呼びました。本年、締結から40周年という佳節を迎えました。近現代史を見ても、中国と日本が40年間戦火を交えなかったということは稀で、記念すべき出来事なのです。さらに、中日平和友好条約は、中日の数千万の命の犠牲の上に結ばれました。これは生易しいことではありません。今、我々はこの条約に思いを馳せ、歴史から痛ましい教訓を汲み取り、今日の平和を大事にしなければなりません。

重要なのは、中日平和友好条約40周年を口先だけで祝うのではなく、実際の行動を起こすことです。今年2月、私は北京で鳩山由紀夫元首相にばったりお会いしました。鳩山先生は、中国に友好的姿勢を貫いてこられた日本の政治家のお一人で、在任中には、東アジア共同体の建設を主張されました。中国が設立を呼び掛けた、アジアインフラ投資銀行の唯一の日本人顧問でもあります。北京でお会いした折、我々は、今年、中日の民間の経済交流が何かできないだろうかと話し合ったのです。

鳩山先生は退任後、東アジア共同体研究所を設立されました。その研究内容と「一帯一路」戦略構想には、合致する点が多くあります。そして、我々の話題は「一帯一路」建設に凝縮し、この度のフォーラムの開催となったのです。

嬉しいことに、フォーラムには80社以上の日本企業、40社以上の中国企業が参加し、空前とも言える盛況振りでした。例えば、世界のアパレル最大手である山東如意科技集団や中国の中国化工集団、中水集団遠洋等、そして日本の三菱商事、川崎重工等の有名企業も訪れました。

日本の対外援助から学ぶべき

—— 中国が提唱する「一帯一路」戦略構想は、新時代の「中国版」対外援助と見ることができます。戦後、特に、日本は経済復興を遂げてより、多額の対外援助を行ってきました。日本の対外援助から学ぶ点はありますか。

肖金泉 この問題は検討に値します。私は最近、南太平洋のフィジー共和国とバヌアツ共和国を訪れました。バヌアツ共和国では、日本が無償で建設したという、島を巡る国一番の環状道路を見ました。ブラジルにも行きましたが、産業や農業施設を含む多くの重要なインフラも、日本によるものでした。日本の対外援助にはプロセスがあることが分かりました。初めはインフラ建設に力を入れ、その後、インフラを建設しながら現地に訓練センターを開設し、現地の生活環境を変え、電気、水道、道路を整備し、学校や病院を建設し、現地の人びとに満足してもらうのです。その結果、被支援国の政府だけでなく、その国の庶民も日本に感謝するようになります。その国の政府が選挙によって替わり、対外政策に変化があったとしても、庶民の心は変わりません。彼らが得た満足感は民間外交の大切な基盤となります。この日本の対外支援の在り方を中国も学ぶべきだと思います。

中日が連携し第三者市場を開拓

—— 「一帯一路」戦略構想及びその建設については、日本社会でも様々な声があり、メディアの態度も一様ではありません。今後の「一帯一路」建設における中日間協力の展望についてはいかがですか。

肖金泉 まず、「一帯一路」戦略構想とその建設について、日本の社会やメディアに様々な声や考え方があるのは当然のことだと思います。それによって我々は、この戦略構想をより良きものとし、確かな成果を得られるように絶えず努力することを迫られます。

次に、私個人は、今後の「一帯一路」建設における中日の連携については楽観視しています。中国で改革開放政策が打ち出された当初、日本は積極的に中国に支援を行いました。今日、中国が堅固で広大な市場となり、日本の企業が成果を得ることができるのは、日本の支援に対する報酬であり、見返りでもあります。今、中日両国の今後について、「一帯一路」建設における競争関係がしきりに議論されていますが、それらはおそらく冷戦思考の延長です。私は、「一帯一路」建設は、全く新しい中日連携のチャンスであると考えます。中国の資本と日本の技術や経験をもって、双方が協力して第三者市場を開拓できれば、地域経済の発展のみならず、自国の持続可能な発展にも寄与することができます。

今一度、我々は日本に対して忍耐強さを持たねばなりません。日本の「一帯一路」構想に対する懸念は理解できます。そうであるならば、我々は丁寧に説明を続け、協力することで得られる利益を探求しなければなりません。利益になると分かれば、日本は最終的に「一帯一路」建設に積極的に参画するようになり、中日の経済交流にも「新常態」が訪れるでしょう。

■撮影/本誌副編集長 張桐