張 西龍 中国国家観光局駐日首席代表
中日観光交流の新たな好機を迎えて

驚きの数字である! 2014年の中国大陸からの訪日観光客が延べ200万人を突破し、前年同期比で80%以上の増加を見せ、過去最高を記録した。中日の「政冷経冷」の状況下での中国人の日本「観光熱」は、21世紀の第二の十年の中日関係の新たな風物詩になったとも言われる。習近平国家主席はかつて、「国家間の友好は民間交流にあり」と語った。観光を主とした両国の人文交流は、中日国交正常化後の大きな成果の一つであり、近年めざましい進展を見せている。今後も中国からの訪日観光客の爆発的な伸びが予想される。日本国民はいかに快く中国人観光客を迎えるべきか。中国人観光客はいかに日本の風俗・習慣に従い、マナーを身に付けていくべきか。在日華僑華人はいかなる役割を果たすべきか。すべてが衆目の関心事である。1月5日午前、中国国家観光局が日本に設立した初の駐外代表処に張西龍首席代表を訪ねた。

 

日本代表処は国家観光局初の駐外機関の一つ

―― 中国国家観光局は中国政府機関の中でも早期に設立された駐外機関部門ですが、駐日代表処は何年の設立で、具体的な業務は何ですか。

張西龍 80年代初期、国の改革開放路線に従い、中国国家観光局は5つの先進国に駐外機関を設立しましたが、その最初が東京でした。それから34年間、観光の宣伝・普及に力を入れ、改革・解放及び国の経済発展、観光地のアピールに寄与してきました。

この30数年で、特に中国経済の発展により、国民が国外に出るようになり、駐日代表処の業務にも調整を行いました。現在の主な業務内容としては、第一に日本人観光客の中国への誘致です。第二に中国文化の紹介、国家のイメージアップと中国の観光地のアピール、国の改革発展と新時代外交に寄与することです。

我々は一方では積極的に所在国での大型国際会議、国際観光博覧会や観光関連の国際コンベンション等の観光誘致活動に参加し、その国の国民が興味をもつスタイルとその国の言語で中国を紹介し、外国人に中国文化や中国社会の発展に興味を抱いてもらうことで、中国理解と中国観光の動機付けを行っています。また、中国の発展、変化、繁栄に直接触れて、日本人観光客のニーズに合った観光ルートおよび観光商品を開発、産出、制作していただくために、日本の観光関連団体・協会、業界団体、研究機関、主要メディアを招いています。

第二に、青少年の教育観光の推進に力を入れています。中国国家観光局には日本の青少年の教育観光に携わる委員会があります。この委員会は中国の改革開放の総設計師・鄧小平氏と日本の政治家・二階堂進氏が提唱し設立したもので、人民大会堂で調印が行われました。ちょうど私が大学を卒業し働き始めた年でした。 当委員会は設立から今日まで、一貫して日本の青少年の教育観光業務をやり遂げてきました。積極的に日本の中学・高校へ赴いて中国旅行を推奨し、日本青少年教育旅行財団や日本修学旅行協会と密接な関係を確立するとともに、中日韓青少年教育旅行機構を設立し、毎年定期的に中日韓青少年教育旅行シンポジウム等を開催し、青少年教育観光及び訪中のための環境づくりをしています。 

第三に、宣伝活動です。日本のメディアと密接な関係を確立し、日本の主要メディアと地方メディアに広報・プロモーションを行っています。駐日代表処は日本記者クラブの会員であり、長年、日本の主要メディアや業界メディアを視察に招いてきました。「産経新聞」が改革開放後、初めて中国に記者を派遣した時も我々が招き入れました。「産経新聞」の著名な記者である石井英夫さんは、中国の多くの地域を視察し、シルクロードの旅が人生観を変えたと語っています。

 

日本は要件の緩和で中国人観光客を歓迎 

―― 長い間、中国は観光の分野では「外資導入」に重きを置き、外国人観光客を誘致してきました。ところが近年は「対外進出」の傾向にあり、海外旅行者が次第に増えています。特に2014年には、中国からの訪日観光客が一挙に延べ200万人を突破しました。中日関係が「政冷経冷」にある状況下での中国人の日本「観光熱」の原因は何だとお考えですか。

張西龍 2014年は中日の観光交流に変化が現れた年でした。この変化は歴史の必然であり、中日関係及び両国の経済発展過程における必然の現象だと思います。国際社会の一般的な認識として、一人当たりのGDPが5000ドルを超えると海外旅行者が増えると言われます。中国の13億の人口のうち、およそ4億人が1万ドルを超えており、中国経済の発展と社会的富の蓄積により、庶民の可処分所得が増え、海外旅行の動きが出始めたのです。2015年の中国からの海外旅行者は延べ1億2000万人を超える見込みです。 

日本はアジアで最も早く先進国になった国であると同時に中国の隣国であり、国交正常化以来40年の友好往来があります。改革開放初期、中国が受け入れた海外の映画、テレビドラマ、アニメも日本のものが主で、日本文化はその世代の人々に大きく影響を与え、その世代がいま、お金と時間を持つようになり、訪日観光客もその世代が多いのです。

加えて、中国は海外の多くの国・地域と直行便があり、週平均800便が往来していますが、20以上の都市に直行便があるのは日本だけです。こうした経済的基盤、消費ニーズ、文化的影響に加えて交通の利便性もあり、訪日観光客の増加は必然の趨勢なのです。

小泉純一郎総理の在任中、日本は「観光立国」戦略を打ち出し、その後の内閣もその政策を継承しています。安倍総理も「アベノミクス」で「観光立国」をより強く打ち出しています。あまり知られていませんが、2000年9月に初めて訪日団体ツアーが組まれるまでは、日本は中国に対して観光ビザを発行したことはありませんでした。近年、日本政府の対中観光政策は次第に敷居が低くなり、調整と拡大が繰り返され、緩和の方向にあります。最近、日本政府はさらなる手続きの簡素化として、3年と5年の数次ビザの発行を検討しています。これは、引き続き中国人観光客市場を積極的に開拓したいという姿勢の現れです。

 

 「国家間の友好は民間交流にあり」を中日で実現

―― 習近平国家主席はかつて「国家間の友好は民間交流にあり」と語りました。現在、中日情勢は決して良好とは言えません。こうした民間の観光交流の伸展は、中日の相互理解の促進にどのような役割を果たすでしょうか。 

張西龍 「国家間の友好は民間交流にあり」――この言葉は民間交流の果たす役割を最も端的に表しています。特に、中国と日本は隣国なのです。

中日国交正常化から40年間、日本は常に中国の最大の観光客市場でした。2006年以降、韓国が徐々に日本を抜くようになりましたが、日本は今後も中国の第二の観光客市場であり、しかもそれは安定を保つでしょう。2010年に中国のGDPが日本を抜き世界第二位になってから、中国が日本の最大の観光客市場になったことは、ごく自然なことです。

小泉純一郎総理の在任中、中日は「政冷経熱」状態に陥りました。第二次安倍内閣になってからは、かなりの期間「政冷経冷」状態です。しかし、両国の社会、民間の主流は理解、協力を深め、平和を望んでいます。中国人観光客の増大は、ただ一時、観光旅行が増えたという見方にとどまらず、中国政府が長きにわたり堅持してきた善隣友好の理念が、民間交流の分野で現れた具体的な現象と言えます。

 

問題の即時解決でマナー違反を防止 

―― 中国人海外旅行者の激増は、確かに強国になった中国のシンボリックな現象です。しかし、気になるのは、2014年に習近平主席がモルジブで、初めて中国人の海外旅行先での振る舞いに言及した内容です。実際、日本社会でも 中国人観光客の様々な振る舞いが問題になっています。この件について、何かお考えがありますか。また、具体的改善策は講じられているのでしょうか。

張西龍 訪日中国人観光客の増大は始まったばかりです。私個人の理解では、「急騰」であることは言うまでもありませんが、今後この規模はさらに大きくなり、海外での中国人観光客の市場規模は誰の想像も、どの機関の予測も超えるものになると思います。

2014年の訪日中国人観光客の延べ人数は250万人に迫り、2015年は倍増することも考えられます。その過程において、他の先進国で体験したような文化摩擦や恥ずべき現象も現れるに違いありません。それは眼にしたくない許し難いもので、そのことで国や民族のイメージを失墜させ、善隣友好国の国民感情を損ないます。したがって、中国指導部はこれを重要視し、態度を明確にし、多くの指示を発しています。 

中国国家観光局は先頃、特別に管理強化のための具体的な規定を発動し、観光業界に向けて具体的且つ長期的要求を打ち出しました。 

我々が講じたのは団体ツアーの旅程管理者制度です。現場を監督管理し、一連の予防措置・対応策をとり、問題が起きた場合は現場を取り締まり、事後処理と教育を行いますが、すべてに具体的なやり方があります。実際には他国と比べて、中国人が日本を旅行中に起こすマナー違反は比較的少なく、およそ風俗・習慣に従い、積極的に日本のマナーを守ろうとしています。 

我々駐日機関がまず心得なければならないことは、日本政府の部門と密接な連携を保ち、問題を見つけたらその都度解決し、日本の観光業界の各部門にも問題解決に関与してもらう中で、マナー違反を防止することです。

日本には中国の団体旅行に専門に応対する組合があり、およそ300の旅行社が加入しています。我々は彼らと定期的に連絡をとり、中国人観光客が問題行動を起こさないように最大に協力していただくようお願いしています。さらに、日本旅行業協会、全国旅行業協会、日本国際旅館協会とも連携を強化しました。彼らは日本のほぼすべての観光関連企業を包括しており、我々は日本側に中国語版の宿泊ガイドを準備するよう求めています。このガイドは、温泉の入り方からスリッパや靴下の扱い方など、危機管理を前提に作成しています。観光業界の措置とサービスが周到であれば、中国人観光客の満足度とマナーは向上し続けるでしょう。 

さらに、中国国家観光局は携帯電話を積極的に利用し、文化的な旅行のための情報を全ての海外旅行客に発信しています。自己を高め、世界に貢献しようという中国人は、どの国の人々からも最も歓迎される旅行者になれると確信します。現在も将来も、中国の観光産業は世界の観光産業発展の大きな原動力です。世界観光機関の言葉を借りれば、「中国の観光産業の成長は世界の観光産業成長の原動力」なのです。

 

「一帯一路構想」は日本にも大きなチャンスをもたらす

―― 中国共産党の新たなリーダーが誕生して、新たな対外方針が打ち出されました。要約すると、「一帯一路構想」(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード構想)です。日本は恐らく、文化的側面から世界で最もシルクロードを親しみ好む国だと思います。中国の「一帯一路構想」は日本にどのような影響を与えるとお考えですか。また、日本に経済効果と観光収益をもたらすでしょうか。

張西龍 「一帯一路構想」は中国のニューリーダーの広大な平和的発展戦略、外交戦略、経済戦略思想を反映しています。シルクロードは中国を源とし、中国で発展し、また中国国土がその最長を有するので、観光産業はこの歴史文化遺産の恩恵をより受けます。

シルクロードはずっと、中国の観光ブランドとして世界中の人々、特に日本人に受け入れられてきました。確かに日本人はシルクロードに特別な感情をもち、シルクロードは朝鮮半島を経て、日本の正倉院が東の終点であると主張してきました。そこにはシルクロードゆかりの品が数多くあります。 

日本では、これまで何度もシルクロードブームがありました。最も影響力があったのは井上靖の小説『敦煌』を映画化し、日本アカデミー賞を受賞した映画『敦煌』と、NHKの特集報道です。竹下登元総理もかつてシルクロードの保護に関心を寄せ、『日本経済新聞社』も敦煌莫高窟の保護をサポートし、シルクロードや敦煌文化遺産専門の解説員を養成しました。 

「一帯一路構想」は、観光産業の発展に前例のない大きな発展のチャンスをもたらすでしょう。中国国家観光局はすでに、2015年を「シルクロード観光年」と定め、世界各国でプロモーション活動を展開するとともに、沿線の総合的な環境改善に一層努力し、必要な人材養成計画を制定します。シルクロードの発展に伴い、我々は多くの人材を養成し、観光インフラを建設する必要があります。日本は、インフラが整備され技術が発達し管理システムが完備された国です。この分野の投資や交流は日本に大きなチャンスをもたらすでしょう。このチャンスは改革開放初期の東部沿海地域のそれに劣りません。西部地域には潜在力があり、発展の可能性が大きく、ハイリターンが望めます。

 

訪日中国人観光客の激増は華僑華人の就業を促進

―― 中国人の訪日観光ブームの到来で、日本各地で華僑華人の存在感が強まっています。在日華僑華人はどの分野で力を発揮できるでしょうか。

張西龍 現在、日本には100万人近い華僑華人がいて、文化の普及や観光情報の宣伝といった分野で大きなかけがえのない力になっています。我々はずっとこの存在に注目し、積極的に助けを借りて来ました。

今後の中日観光の交流・発展と切り離すことはできません。主に二つの分野を考えています。第一に、観光関連産業分野です。中華料理レストラン、免税店などの多くは観光客を相手にしています。この分野はさらに拡大するでしょう。第二に、在日華僑華人の中にはツアーガイドの資格を持っている人が多くいます。日本の観光業界で最も不足しているのがツアーガイドで、特に中国語のツアーガイドです。200万人以上の中国人観光客に対して、日本全国で資格を持つ中国語のツアーガイドは2000人ほどです。中には学校の教師や主婦など専門的に従事していない人もいます。ですから、華僑華人によってツアーガイドを充足することができます。

2014年には日本全国で免税店が1万店舗に達し、その多くは在日華僑華人が開いたものですが、気になるのは彼らの仕事には問題があることです。店舗によって商品の品質に問題があります。我々は人を欺くような商売をしてはなりません。良店に客は途絶えないという儒教哲学を忘れるべきではありません。また、日本の旅行社にはツアーガイド不足のため、資格を持たないガイドを雇っているところもあり、解決が待たれます。

日本政府の環境整備に伴い観光ビザも緩和されて、日本の観光サービス業界大手も華僑華人を広く募集するようになりました。彼らが中国人観光客に、しっかりとより良いサービスを提供できることを望んでいます。観光産業の発展、特に訪日中国人観光客の増加が、華僑華人の就業や創業の道を大きく開いているのです。 

過去の訪日中国人観光客と言えば、その多くは観光とショッピングが目的でしたが、現在では高度化し、日本文化を学ぶという側面が出てきました。日本文化に対する関心が高まってきています。こうした観光ニーズの高まりにつれて、早くから日本の文化芸術分野で活躍する華僑華人にも、さらなる発展と前進がもたらされます。しかもそれは双方向のものです。在日華僑華人はこのチャンスを活かして思考を高め、高い付加価値を生み出して欲しいと思います。 

中日観光が新時代に果たす役割はより大きくなっています。日本経済の安定的・持続的発展や農村の過疎化改善への貢献、さらに、日本政府の新たな外交戦略に平和的要素をもたせています。当然のことながら、中日の観光交流の発展は中国が目指す安定的な経済環境と平和な環境を構築するという大局とも合致しており、貿易摩擦の解消だけでなく、文化理解や平和友好の促進にも貢献します。

 

取材後記

折しも、張西龍氏を取材した翌日の1月6日、岸田文雄外相は記者会見で、1月19日から、中国人の訪日ビザの要件を大幅に緩和し、過去3か月以内に訪日歴があれば3年の数次ビザを、相当の高所得を有する者とその家族に対しては5年の数次ビザを発行すると発表した。日本の度重なる要件緩和により、中国人の日本観光新時代が到来した。(写真/本誌記者 張桐)