露崎 強 株式会社シーエイチアイ代表取締役社長
日本で中国事業を大きく展開

日本で数十年間必死に働き、学校、ホテル、旅行社、バス会社、新聞社と徐々に事業を拡大してきた露埼強氏は、30数年前たった一人で、日本にピアノを学ぶためにやってきた。中国の大柄な青年が飛行機から降り立った時、手元にはわずか5000円しかなかった。

彼は読売新聞に「北京出身、在日華人一の富豪」と報道されたが、それにはほとんど興味を示さない。「私はただ音楽家の道から外れてしまっただけで、富豪だとかどうとか関係ありません。音楽をやるもよし、商売をやるもよし、やるからには徹底的にやろうと思っているだけです」と泰然と語る。

彼は、現在、東京ベイプラザホテル、富士山ガーデンホテル、長崎マリンワールドホテル、ホテルセキア、神戸市立フルーツフラワーパークのホテル棟など7つの大型ホテル、東京日本橋外語学院、習志野外語学院、東京芝浦外語学院の3つの日本語学校を創業。

同時にバス会社、旅行社、新聞社等多くの関連企業も有し、固定資産は100億円を超え、グループの従業員総数は600人以上で、日本で最も影響力をもつ華人企業家である。

現在52歳の露崎氏は決して歩みを止めようとしない。彼は引き続き、少なくとも十数軒の日本のホテルの買収を計画している。同時に、より多くの中国の庶民が飛行機で日本を旅行できるよう、日本の民間航空会社の買収も計画している。

「私の中国名は那強と言います。先祖は清代の皇族でした。会社を設立する際、中国名の姓の“那”のピンインを社名に入れ、株式会社CHINAとしました」。知る人ぞ知る、彼は中国初の私立音楽学院である中華音楽学校の創立者でもある。

露崎氏の名声は、日本での毎回の見事なまでの買収行為で知れ渡った。NHK、朝日新聞、読売新聞など日本の一流メディアが大きく報道し、彼のビジネスストーリーは日本で有名になった。

数年前、日本への観光客が増加しているのを商機と見て資金を捻出し、東京湾に面した木更津市にある東京ベイプラザホテルを買収した。運び込まれた、そのままの中国色豊かな中華門が注目を浴びた。金文字で「東京湾花園酒店」と大きく刻まれた大門が完成披露された日、三台の車が玉突き衝突した。運転しながら門に眼をとられて衝突したのだ。彼は当時のことを、いつも得意げに喜色満面に語る。

彼は中華門だけでなく、九龍壁、垂花門、さらに四号院など古い北京の建築様式までそのままホテルに持ち込んだ。また、ホテルの庭園には亭台楼?などを配し、古色蒼然とした中国式のデザインにした。それは経営者として、彼自身に深く根差している「中国情緒」を表現するだけでなく、より多くの中国人観光客を誘致し、故郷に帰ったようなもてなしをするためであった。

さらに、東京ベイプラザホテルの客室は中日2タイプのデザインにし、宴会場は中華と和食を提供し、大規模な宴会が可能である。そうしたことから、昼間は日本人客をもてなし、宴会や結婚式を受け、夜は次々と中国人観光客の一団がチェックインする。

「中国人客を掴まなければ、日本のホテルを買収しても破産するしかありません」と、彼は非常に冷静である。

「ホテルを買収しても日本のビジネスだけしていたのでは、習慣、管理、スタイル、お客様への細かい心配りなど、日本人が経営するホテルにはかないません。新しい道を切り開くしかなく、独自色を出し、大きな潜在力をもつ中国市場に眼を向け、中国人客を誘致したのです」と、自身の経験を語る。

「規則は人が決めるものです。我々のホテルは中国人客のための規則に改めればよいのです」。箱根国立公園内にある富士山ガーデンホテルは、富士山麓の山中湖畔に建っている。ここは風光明媚で、高官や貴族が避暑地としてきた景勝地である。山中湖附近にホテルは少ない。大型ホテルは特に少ないなか、主に日本人が経営している。

露崎氏が買収したこのホテルは、元々、清水建設が40億円かけて建設していたが、建設中、日本のバブル経済に出くわし、未完成のまま競売にかけられた。不動産業界での長年の経験と人脈を生かし2億円で落札し、さらに10億円かけて改装し、400名を収容できるリゾートホテルを完成させ、富士山周辺では最大のホテルとなった。

彼には中国人客の気持ちがわかる。日本に観光に来る人たちのほとんどはホテルの豪華さなどは気にしない。それゆえ、彼は自身のホテルを冗談めいて「外観は(豪華な)五つ星ホテル、中身は(実用的な)ビジネスホテル」と表現する。内装材から家具、寝具、日用品、装飾品に至るまで、すべて中国から調達した。

中国人客の習慣に合わせて、富士山ガーデンホテルは多くの点で日本のホテルとは異なるかたちをとっている。日本のホテルの客室は通常18~20㎡であるが、スイートルームの設計を取り払い、客室はすべて狭くても40㎡以上とした。客室のベッドは特別注文で幅を広くし、シングルベッドでも1.4mある。布団も大きめのものにした。中国語のテレビチャンネルを多くした以外にも、客室内のコンセントの電圧を日本の最大限度である200Vにした。それによって、中国人客の電気機器のプラグをそのまま使用でき、出国前にわざわざ変換機を買う必要がなくなった。

さらに彼は、日本ではスリッパを履いたまま温泉浴場に入らないことに注目した。中国人はスリッパのままどこにでも行く。湯船まで行ってからスリッパを脱ぐが、日本人客には抵抗がある。「数日間の間にお客様の習慣を改めさせるのは無理です。ホテル経営者は、お客様を尊重しお客様に合わせるべきでしょう」と、氏は自身のホテルではスリッパを履いたまま浴場に入っても構わないという“特例”を定めた。「中国人客の多くの習慣に日本人は抵抗を感じるかもしれません。しかし、私にしてみれば、これは一つのおもてなしなのです」と笑う。

日本での投資に成功した華人企業家の模範として、彼は中国の投資家に警告する。「いま日本で投資して大儲けしたいと思うなら、大金を持って来なければダメです。買収事業ならば、中国市場とリンクしなければおそらく失敗します。よそ者が、もともと大きくはない市場を本土の経営者と争奪して、勝つことは難しいでしょう」。

彼は例を挙げて説明する。「日本人はサイパンで礼遇されます。サイパンの観光業は日本人の投資によって発展したからです。日本人観光客が最も多かった頃、サイパンのホテルのほぼ100%は日本人が投資したものでした。ところが、今では80%が撤退しました。日本人観光客が激減したためです」。

日本観光の過熱に伴い、日本の不動産への投資を考える中国人もいる。露崎氏は、日本の不動産は現在買い時で、安い物件も多くあると言う。例えば、日本で最も熱い観光スポットである富士山の地域には、安いリゾートマンションが多くあり、2LDK80㎡が500万円足らずで買えるという。

しかし、日本も他の多くの国と同じく、不動産を購入するときに注意しなければならないのは、維持費が高いことだと指摘する。先の80㎡のマンションは、毎月の管理費が2~3万円、それ以外に高い固定資産税がかかる。個人で使用するなら考えてもよいが、賃貸や投資は採算が合わない。

この日本の著名な華人企業家は、今まさに中日両国のために全力で、民間経済、文化の相互交流のためのプラットフォームを提供している。露崎氏は語る。「中国人事業の興隆は、地域経済に貢献するだけでなく、両国の民間交流を促進し、より多くの日本人に中国を理解させ、より多くの中国人に日本を理解させることになります。中日の企業家は手を携え、交流・協力し、日本での中国事業を大きく展開させ、共にウィンウィンの局面を創っていくべきです」。