譚 馨 アクトトラベル株式会社代表取締役社長
強い信念が成功につながる

日本企業に就職する中国人留学生は増え続けている。このような若い華僑たちの多くは起業を希望しているが、中国国内とは事情が違い、さまざまな困難がともない、強い決意が必要である。10年前、広西チワン族自治区の桂林から来日した二十代の若い女性が、自らの信念を多くの人に伝えるため、東京で旅行会社を設立した。当初、自分が社長であることを名乗れなかった彼女は、今や自信にあふれたビジネスウーマンに成長した。アクトトラベルの譚馨社長である。

 

原動力は信念に対する執着

―― 日本に留学した当初抱いていた初志は何ですか。どのような信念を持って旅行業の道に進んだのですか。

譚馨 子どもの頃、私はテレビ番組『正大綜芸』を毎週かかさずに観ました。世界各国の風土や人情が紹介され、それに深く魅せられたのです。旅行業への関心が芽生え、チャンスがあれば自分も世界中を見てみたいと思ったのです。同時にその楽しさを旅行が好きな人たちにも届けたいと思い、その気持ちをずっと忘れずにいました。日本への興味は、私が幼いときに観た『一休さん』のアニメです。

大学受験のときにはまったく迷わずに観光専攻を選びました。私の故郷の桂林は有名な観光地なので、大学には珍しい観光専攻があります。私は日本語観光を専攻し、これは旅行業のために外国語をマスターするというものでした。

大学卒業後は桂林の旅行会社で半年間仕事をしました。桂林市と日本の群馬県太田市は友好都市となっており、両市の交流の仕事をさせて頂いたことで日本への親密度が深まりました。仕事を始めて半年後に私は日本への留学を決めたのです。当初1年の予定でしたが、日本語学校の先生に日本で大学院に進学するか就職するよう勧められ、日本の旅行社に就職したのです。

一瞬の気迫、十年の忍耐

―― 起業する際には、どのような悩みがありましたか。また最終的にはどのように決心したのですか。

譚馨 留学してわずか半年の留学生が就職するのは大変なことです。私は運が良かったのです。就職後は毎日楽しく仕事をしていました。成績も全社ナンバーワンでした。でも、会社の経営理念は私が受けてきた教育とは違っていたので、いつも困惑していました。

最初の職場では3年働き、会社の不利益にならない前提のもと、お客様に対してどのように良いサービスを提供するか、努力していました。しかし、再三考えた後、退職を決意しました。その後、複数社の採用面接を受け、日本の大手旅行会社からも内定を頂いたのですが、また会社の経営理念と合わないことを考え、起業の道を選びました。自分の努力によって信念を実現したかったのです。

初めの頃はよく問題にぶつかりました。外国人女性が日本で起業しても、まだ実績がない段階では疑いの目で見られます。男性社会の日本では、女性の起業はさらに変な目で見られます。みんな私が起業できるとは思わなかったようです。起業して何年間は対外的に自分が社長とは名乗りませんでした。名刺にも書きませんでした。その理由は、お客様が不安に思うのを恐れたことと、自分にその勇気がなかったからです。ですから、初めの数年間一番苦労したことは、お客様からどうやって信頼を得るか、ということに尽きます。

私は自分に言い聞かせていました、「何をするにも負けん気が必要です」と。ほかの人ができることは私にも出来、さらにほかの人よりも良く出来なければいけません。このような信念に支えられ、難問を一つひとつクリアしていきました。そして何年もの真面目な経営と努力が少しずつ成果につながり、いまでは多くのお客様が私に安心して仕事を任せられる、と言ってくださり、私にとってすごく嬉しいお言葉です。

蓄積してこそ成功できる

―― 企業は一朝一夕に成功するものではありません。信念を持ち続け、行動する気迫以外に日常的な積み重ねはどのように役立ちましたか。

譚馨 普段の仕事では、自分に厳しく目標を高くしています。私の本来の性格は、とてもおおざっぱなんです。でも、サービスを重視する日本で生き残りたいなら、「郷に入っては郷に従え」で、サービス至上主義の精神で取り組まなくてはなりません。細かいこと、そして小さなことからやらないといけません。お客様のスケジュールを作成するとき、私はお客様の習慣や好みを覚えており、できるだけお客様が旅を満足できるようにします。まさにこうした小さな心遣いで、お客様は私の誠意と熱心さを感じてくれます。お客様から認めてもらえたことで、私はだんだんと自分に自信が持てるようになりました。

そこでようやく私は、一部のお客様に対して自分が社長であることを打ち明けたのですが、みな非常に驚くと同時に喜んでくれ、また感動してくれました。大したものだと認めてくれたのです。2006年、当社は初めて商品をネット販売することを決めました。会社はその年から徐々に大きくなり、社員は当初の2、3人からいまは数十人に増えました。2013年の当社の売上高は4億円を超えました。

初めの10年で地盤を固め、今後の10年で家を建てる

―― 会社が発展してきた理由は何だとお考えですか。今後、どのようなビジョンをお持ちですか。

譚馨 小さい頃から、「世の中に難しいことはない、ただやる気があればいい」という言葉を信じてきました。心をこめてやれば、どんなことでもうまくいくと思います。今ではその気持ちを社員と共有して頑張っています。そして、今日までやってこれたのは、お客様の支持があってのことです。私は創業時の信念を持ち続けています。それはすべてのことに対し、心を込めて、真面目に取り組み、お客様に満足して喜んでいただくことです。お客様の満足度とお客様の私たちに対する期待が前に進むエネルギーとなり、今日までやってこれたのです。

今後の目標ですが、私は10年間で地盤を固めたので、今後はそこに建物をつくろうと考えています。特色のある旅行商品を開発し、会社のブランドを固め、同時に公益事業にも貢献したいのです。

―― この10年間で感謝したい人は誰ですか。

譚馨 まず、ご愛顧頂いたお客様に感謝します。お客様の応援がなければ会社は今日まで発展できませんでした。次に、社員の皆さんですね。創業当時は経営のことを何も知らず、経験もなかった私を見捨てることなく、彼らは私にコミュニケーション力やチーム管理を学ばせてくれました。

今後は社員一人ひとりがもっと才能を輝かせ、さらに力を発揮できるような環境を整えたいと思っています。それが今後の会社の発展につながると同時に、社員の皆さんへの恩返しにもなると思います。