日本に来た初日から「日本人ができることは中国人もできる」との信念の下、“在日華人の起業リーダー”と称される陳建代表取締役が率いる創業新幹線は、多くの波風を乗り越え、華人の起業を支援する日本で唯一の会社として成功している。そして陳氏は、常に学習し、人の何倍も努力をして、華人として日本人同様か、それ以上に成果をあげられることを証明し続けている。
常に学習することにより
心の中の差別や疑念をなくす
2001年6月、陳氏は故郷の福建省から日本にやって来た。頭の中は日本人に関する噂話で一杯だった。それは、日本人は「中国人にひどく当たる」、「中国人を軽蔑する」、「間違えるとすぐに殴る」などというもので、男子志を立て大望を抱いて来日はしたものの、こうした先入観が彼を不安にさせていた。
やがて、陳氏の不安は的中した。ある日、アルバイト先の整骨院で、彼は日本人店長にどなられた。外に出る時にドアを閉める音が大きかったという理由だった。「自分が悪いのではない。ドアに問題がある」と彼は言い返し、店長と激しく言い争った。こんな小さなことでここまで言うのか、中国人だからだろう、日本人だったらこんなにひどく言うわけがない、と憤慨した。
彼は、自分の考えを証明するために、日本人の同僚が外に出る時にドアを閉める音に注意を払った。彼は「もし、日本人なら店長はささやくような声で注意するに違いない。日本人などにバカにされてたまるか」と思っていた。しかし、1カ月、2カ月、3カ月経ち、彼はがっかりすることになる。日本人の同僚は「ミス」をしなかったばかりか、自分のドアを閉める音が一番大きいことに気づいたのである。
この「ドア事件」について店長は、「静かに閉めるのは日本人の習慣なんだ。日本人ができることは君にもできると期待していたから厳しく注意したんだ」と話した。
この時、相手の文化や習慣を知らなかったゆえに、自分が「差別されている」と感じていたことに気付いた。日本人と同じようにできれば、日本人同様か、それ以上の評価を得られるということが分かった。
そう納得すると、陳氏はあらゆる機会に日本人とコミニューケーションを交わすようになった。そして、日本ではゴミを分別して出す、電車の中では大声で騒がない、物事を始める時は綿密な計画を立てる、いわゆる「ホウレンソウ」を行うなど、少しずつ理解していった。
彼を知り己を知れば百戦危うからず、である。「日本社会のルールを理解せずに安易に差別的な見方をしてはいけません。まずルールや習慣を知り、学び、そして実行することによって、被害妄想にならずに冷静かつ客観的になれるのです」と陳氏は話す。
日本人と肩を並べるために
何倍もの努力を
大学卒業後、陳氏も日本の学生同様に就活を行うことになった。様々な就職説明会で、留学生の中には、日本人に及ばない点もあるが自分なりの長所があると、外国人であることを強調する者もいた。
しかし、陳氏のアプローチは違っていた。「あなたは中国人ですか」と尋ねられると、「外国人だからといって甘くしないでください。日本の方ができることは私にもできます。日本人の採用基準で採用するかどうか決めてください」と毅然と言った。
この心意気が買われ、3000人以上の応募者の中から、日本の上場企業であるソフトブレーングループに40名の1人として採用された。しかも、唯一の外国人だった。
入社以降、陳氏は上司や同僚から評判がよかった。しかし、「外国人としてはよくできる」と彼らが思っていることを薄々と感じていた。日本人と同じようにできると思ってもらえなければだめだ。
仕事の能力と効率は基本的に問題ない。だが、日本語能力が十分ではない。そこで、彼は考えた。会社の朝礼は日本語を上達させる絶好のチャンスだ。そのためには、何倍もの努力をするしかない。
彼は、数分間の朝礼のために、毎朝5時に起き、鏡を見ながら口がカラカラに乾くまで、何回も話す練習をした。この努力によって日本語が上達し、同僚に認められることになる。同僚たちのまなざしは、「外国人の陳建さん」から、「同僚の陳建さん」へと移り変わっていったのである。
共に進歩して達成させよう
ある時、日本に長く住んでいて、起業したくても、どうすればよいのか分からず悩んでいる在日華人が多いことに陳氏は気づいた。そこで、日本人同様に事業を成功させることができると考え、彼らの起業を支援することを決意する。
2009年、会社を辞めて株式会社創業新幹線を設立し、日本で華人がフランチャイズ店を開く支援を開始する。入念な調査の結果、華人が経営する飲食店は日本人の店と比べて、商品、立地、内外装はもちろん、特にサービスの内容を改善しなければならないことに思い至った。
「『外国人経営の店ではサービスが悪くても仕方がない』と、比較的に寛容な日本人が多い。しかし、それではダメです。サービスは日本人の店と同じレベルか、それ以上を目指さなくてはいけません。そうしなければ、長期的な発展を遂げられないのです」と彼は語る。
傘下のフランチャイズ店の華人従業員には、来日した頃の陳氏同様に、日本語が下手だからなかなか客と話そうとしない。彼は自身を振り返って従業員を諭す。「お客様が中国人なら、そういう態度をとりますか。日本人が、あなたが思っていることと同じかどうか知りたいのなら、理解しようとする態度が大事ですよ」と。
陳氏は華人従業員に対し、「お客様とコミュニケーションを取ろうとするなら、まず毎日お客様に興味を持ち、三つの質問をする」という課題を課した。すると、彼らの想像と相まって、客もコミュニケーションを望んでいることがわかった。三つのことを質問すると、客も三つのことを聞いてくる。その結果、客との絆を深めることができる。こうして、サービスの態度も自然とよくなっていった。
食材提供者に対しても陳氏は同じ態度だ。彼は、「こちらが金を払っている立場だ」などとは考えない。客、従業員、提携パートナーが一緒になって初めて事業が成り立つのであり、誰が欠けてもうまくいかないことを実感している。そして、互いに平等の精神で、一致団結し、共通の利益を得なければならないという信念を持ち続けている。ゆえに、数百人いる創業新幹線の従業員の離職率は1%未満で、業績は毎年倍増している。
現在、創業新幹線は約100の日本の加盟店本部と加盟店オーナー募集代行の業務提携をしている。さらに、自社ブランドの「ラーメン春樹」も2年という短期間に30店舗以上に拡大し、200人以上の華人の起業という夢を実現させてきた。このことが、陳氏が“在日華人の起業家リーダー”と呼ばれる所以である。
成功の秘訣は何ですかと聞かれる度に彼は、「秘訣なんてないですよ。ただ、自分は外国人だからと考えなければ、日本人と同じ様に、またそれ以上に誰でもできますよ」と答えている。
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