潘 慶林 中国人民政治協商会議委員
犠牲の上に得た中日の「平和」を大切に

昨年は中日国交正常化40周年であり、両国は「国民友好交流年」と定めて中日関係を強化するはずであったが、野田政権(当時)による釣魚島(日本名「尖閣諸島」)の国有化により、両国の関係は冷えきった。そして本年は「中日平和友好条約」締結35周年、これを機に中日両国はどう対処しようとしているのか。はたして不測の事態は起こるのだろうか。これからの中日関係をどのように進展させるべきだろうか。新しい年が始まり、第10回、11回の中国人民政治協商会議の潘慶林委員に中日関係について聞いた。

「寄せ集め政党」が中日関係を悪くした

―― 潘委員は日本の新華僑から選出された人民政治協商会議の委員です。長い間中日間を往来していますから、今日の中日関係についてはいろいろと考えさせられるところがあると思います。民主党が政権を取って最初の首相となった鳩山由紀夫氏の対中姿勢はきわめて良好だったと思います。しかしその後はご存知のとおり低調で冷えきった関係になっています。ではなぜこんな風になったのか。この問題についてどのように考えていますか。

潘慶林 2009年に民主党が政権党となる前には、中国政府は民主党に期待していました。しかし民主党が政権を取ってから、第一代の鳩山元首相が「東アジア共同体」構想を提唱して中日関係の強化を主張したことを除き、菅直人元首相、野田佳彦前首相が中日関係をこじらせてしまったのです。

民主党政権が中日関係をこのようにしてしまった原因にはいくつかあったと思います。まず、民主党が左、右、リベラル派の「寄せ集め政党」であったことです。党内には元自民党員、元社会党員もいました。政界の序列や組み合わせが変わり、政党の離合集散も続く中で、民主党に入党した人もいました。彼らの政治理念、外交理念は統一されていません。また、民主党は自民党の派閥政治に反対しており、当然、党内に派閥がなく、牽引する領袖もいなかったのです。発言に重みのある大物やボスもおらず、ひとり一人が自己主張し、自分の所属する政党を顧みないのです。第3に民主党政権の中枢メンバーの多くが松下政経塾の出身であることです。松下政経塾はどちらかといえば民族主義的な政治家のゆりかごであり、育った政治家も多くが情緒的な政治家です。彼らは知識偏重で市民運動には長けていますが、基本的に外交は得意分野ではありませんでした。第4に民主党政権は2009年に初めて政権を担当しましたが、それ以前の13年間は野党でしたから、政権党としての経験がない民主党が与党になると、彼らはしばしば対処の仕方がわからなくて、中日関係をダメにしただけでなく、日韓関係、日ロ関係、日米関係も損ないました。5番目に民主党政権は自民党のように中国指導部とのパイプを持っておらず、問題が生じてもすぐに意思疎通ができず判断の上で問題が生じたのです。

自民党政権に望むこと

―― 昨年12月16日、総選挙がありました。野党になって3年3カ月の自民党が捲土重来をはたしました。米国の『ニューヨークタイムズ』を含む海外メディアはそろって安倍晋三首相を「右翼政治家」としていますが、自民党が再び政権党となったことで中日関係は改善されると思われますか。

潘慶林 結局は安倍首相をどのように評価するか、メディアの評価と政界の評価はときにより異なります。昨年9月下旬、中日友好7団体の代表が北京に集合し、前国務委員で中日友好協会の会長である唐家?氏と会談した際、唐氏は「安倍晋三氏はタカ派とは思わない」と述べたことを覚えています。実際、「極右政治家」であるかどうかはさして重要ではなく、大事なのは政治家として大局を把握できるか、全体を掌握できるかということです。

2006年9月、安倍首相は就任して12日後、中国に「氷を割る旅」に出かけ、小泉前首相(当時)の靖国神社参拝によって氷点下に落ち込んだ中日関係を修復し、中日間を「戦略的互恵関係」と定めたことは記憶に新しいことです。当時、これは大変な政治的な勇気と決断力を要したと思われます。ですから中国の人々も安倍首相を尊重しています。そして首相就任直後に、当面は釣魚島に公務員を常駐させないと発言、任期中に靖国神社を参拝しないと表明したこと、また、中国と再度戦略的互恵関係を構築したいとして自民党副総裁の高村元外務大臣を首相の特使として中国訪問させ、中国との意思疎通をはかろうとしていることに注目しています。これらは中日関係を改善するための安倍首相の努力と見るべきでしょう。

もちろん、今日の中日両国の社会や政局が2006年当時とは違うことも考慮する必要があります。ですから、この時期に中日関係を改善させるには、一方ではさらなる忍耐力が必要であり、一方ではさらに大きな知恵や勇気が必要になります。中日間には深刻な「政治不信」があり、すぐに改善できるわけではないからです。両国間の政治の相互信頼の再構築には、堅実にそして、かつてない努力が必要になります。

私は自民党が中日関係を改善すると楽観的に見ています。中日国交正常化以来の40年余の歴史を概観すると、中日間の四大政治文書はすべて自民党政権と中国政府の間で締結されたものです。自民党こそが中日関係の重要性を知っているからです。中日両国は引っ越すことのできない隣同士であり、近所付き合いが常に一触即発の状態であることは、双方にとってマイナスなのです。

戦争では釣魚島問題を解決できない

―― 今年は「中日平和友好条約」締結35周年ですが、釣魚島問題で中日関係は緊張しています。多くの人が両国間で軍事的摩擦や、さらには局部戦争が起きるのではないかと想像していますが、どう思いますか。

潘慶林 「中日平和友好条約」は中日関係の四大文書のひとつであり、中日の政治関係の礎ともいえます。中日両国間には悲惨な戦争の教訓があり、「中日平和友好条約」は数千万人の血と生命と引替えにしたもので、大変得難いものであるということは皆わかっています。両国間に領土問題が生じた今こそ、われわれは平和の重要性や意味を痛感するのです。日本の多くの場所に「中日不再戦」の石碑が建てられています。これは永遠に忘れてはならないことなのです。

歴史上では領土問題は戦争という手段で解決されていますが、戦争ですべての領土問題が解決できるわけではありません。現在、釣魚島問題を戦争で解決しようという意見もありますが、これは歴史に対して無知であり、民衆に対する侮蔑であり、国家に対する無責任な行動と言えます。釣魚島だけを見てはいけないのです。もし戦争という手段で領土問題を解決できるというなら、日韓間、日ロ間にも領土問題は存在しなくなります。

釣魚島問題は民主党前政権が自民党現政権に残した厄介な問題です。前回の総選挙期間中、自民党は再三にわたって民主党の3年間の外交を「外交敗北」とし、民主党は外交上の交渉力をすでに失っていると指摘しました。それなら、自民党政権は民主党政権と違うやり方を示し、問題解決に向けての糸口を開かなければなりません。