呉 国翔 中国南方航空日本支社長
日中の航空業界の違いは教育にあり

グローバル経済の一体化が加速する昨今、中国の航空会社は、中国と世界を結ぶ架け橋としての役割がますます高まっている。中国の各航空会社は、空のマーケットを世界中に拡大すべく、日々成長を続けている。そんな中、航空業界で「世界一競争が熾烈な市場」と呼ばれる日本に、旅客数が33年連続中国第1位の中国南方航空は、一人の精鋭を送り込んだ。呉国翔氏は中国民航大学を卒業後、中国南方航空に入社。便の運航計画・運航管理・マーケティング等の部門で経験を積んだ後、2011年1月14日に日本支社長に就任。爾来、競争の熾烈な日本市場で中国南方航空のブランド・知名度・サービスの向上や輸送力の拡大を目指し、日々足場を固めてきた。7月3日、本誌は日本や航空市場に独自の視点を持つ呉氏にインタビューを試みた。

 

サービスに民族的な特色を

―― 中国の航空会社が海外市場に参入する際の、最大の課題は何ですか。

呉国翔 お客様の我々に対するイメージをいかに向上させるか、がもっとも重要になります。日本のお客様は、中国の会社はサービスが悪い、態度が悪い、言葉が通じない、と感じる方が多いようです。

率直に言って、中国の航空会社のサービスレベルは、まだ改善の余地があります。しかし私は、サービスを単純に一つのものさしで比較することは出来ないとも思います。たとえば、欧米のお客様が求めるサービスとは、「スピーディーさや個性的であること」でしょうが、中国や日本などの東洋文化圏では、「規則性、一貫性、親切さ、謙虚さ」がより重視されます。航空会社は世界各地からのお客様をお迎えしますので、どのようなサービスでお客様に喜んでいただくかは、世界共通の課題といえます。

近年、多くの日本企業が中国人を採用して中国人客の接客にあたらせています。しかし当然ながら、彼らは日本式の礼儀作法、日本式サービス方法を学習しなければなりません。こうしたことが、多文化共生を促し、お互いから学び合うことができると思います。

私は常日頃から、「まず共通点を見い出し、違いがあっても認め合おう」と話しますが、国際市場においては、異なる文化・言語・人種・宗教は、時には互いに理解し得ないことも起こります。

日本はサービスに長けた国です。そんな中、私たちのサービスはまだ日本の水準に達していないのは事実です。しかし、サービスレベルと文化的な差異は別個の問題です。サービスレベルを世界水準に引き上げつつ、さらに民族的な特色も保つことができれば、より多くのお客様に喜んでいただけると思います。

たとえば、中国南方航空では「空中茶苑」といって、機内で中国のお茶文化を体験できるサービスがあります。また、「八段錦」という、中国の伝統的な心身リラックス法を機内で体験することも出来ます。飛行機の着陸前に、「八段錦」で疲れた身体をほぐしていただくのですが、これが多くの外国のお客様からご好評をいただいております。このように、サービスを一般的な価値観にあわせるだけでなく、民族的な特色や、中国の伝統文化の要素を取り入れることも大切だと感じています。

―― 中国南方航空は今後日本でどのような計画がありますか。

呉国翔 昨年から今年にかけて、日本路線に30%近く増資しました。昨年12月には、ハルビン-東京間に直行便が就航しました。これは黒竜江省政府が10年以上前から計画してきたことです。中国東北地方の大連・瀋陽・長春には、東京発の直行便がすでに就航していましたが、ハルビンには直行便がありませんでした。弊社は現在、日中間を運行する航空会社の中で、中国東北地方への就航都市数・便数が最多の航空会社に成長しました。今年も日本路線の便数を強化し、引き続き利便性の向上を図ってまいります。

格安航空会社がマーケットを刺激

―― 春秋航空など、中国の格安航空会社(LCC)がすでに日本に進出しています。これらの動きは中国南方航空にどのような影響を及ぼすでしょうか。

呉国翔 確かにLCCの進出は航空業界にとって衝撃的なことです。しかし、まずはっきりさせなければならないのは、LCCが「(マーケットという)ケーキを切り分けにやってきた」のか、それとも「別のケーキを作りに来たのか」ということです。もしケーキを切り分けに来たのなら、マーケットの一部が食べられて縮小し、競争が激化します。それとも、LCCが航空マーケット全体のを拡大し、もっと大きなケーキを作るのでしょうか。

LCCの進出は、短期的にはこれまでの航空会社の客を奪い、ある程度の影響を及ぼすでしょうが、長期的にみると、むしろマーケットを成長させると思います。特に、航空運賃の高い日本国内市場では、これからマーケットを大きく成長させる可能性を感じます。たとえば東京-福岡間の航空運賃は、国際線運賃より高いことが往々にしてあります。それは、これまで主に2つの航空会社だけが日本の国内線市場を握っていたためで、充分な競争原理がはたらかず、運賃が下がりませんでした。

LCCの進出は、将来的にはマーケットを刺激し、発展させることにつながると思います。これは日本航空や全日空にとってもよいことでしょう。今の日本の航空市場、特に国内線市場には活力が必要です。

東京、大阪、名古屋、福岡、沖縄などの主要都市を除いて、中国の観光客は日本の都市をあまり知りません。実際には、日本の中小都市にもさまざまな空港がありますが、従来の航空会社はこれらの空港への就航にあまり積極的ではありませんでした。

その点、LCCはコストの高い東京を避け、地方の中小都市に路線を開設しており、各地方位自治体もこの動きを歓迎しています。LCCの進出によって、地方都市の知名度が上がれば旅客数が増え、観光業も発展するので、地方自治体の多くはLCCの参入に積極的です。LCCは中小都市で発展していくことにより生存空間を得ることが出来、同時に地方経済の活性化を促します。ひいては日本の航空業界、観光業界の発展をも促進するでしょう。

教育システムがもたらす人々の性格のちがい

―― 日本に来られて1年余りですが、日本文化のどんなところがお好きですか。

呉国翔 温泉に興味がありますね。温泉は庭園文化、飲食文化、宿泊文化を含む総合的な文化です。温泉には食堂が設けられていて、伝統的な日本料理が食べられます。また、宿泊施設があり、畳のある和風旅館などで宿泊文化を体験できます。

温泉は庭園の設計もすばらしく、日本の庭園文化も鑑賞できます。また、温泉には和風の工芸品を売っていたりします。友人と温泉につかって、和食を味わいながら酒を飲んで思い出話しにふけるのは、とてもよいものです。

―― 日本へ来る前と来てからでは、日本の印象は変わりましたか。

呉国翔 日本は製品とサービスの質がすばらしい国だと、中国で聞いていました。本当にそうなのだろうか。それは何故だろうかと考えていました。そして、日本へ来てから、そのことを実感しました。それはショッキングでした。

例をあげると、同じ飛行機の修理工が、もしこのボルトを右に3回しめてから、左に2回しめるように指示されたとします。中国の修理工なら、きっとこう考えるでしょう。右に3回しめ左に2回しめるのなら、右に1回しめればよいではないかと。

しかし、日本人は操作の手順をきちんと守るでしょう。機械学の手順からいうと、3回しめてから、違う方向から2回しめるのと、1回だけしめるのとは、機械に及ぼす作用は違うのです。

なぜ中国と日本の修理工にはこうした違いが生じるのか。日本人は中国人より規則を守るのか。問題は教育システムにあると私は考えています。同僚の子どもたちは日本の学校に通っています。

日本の小学校は、中国のように子どもにこれもあれもと勉強させません。日本の小学校は午後2時半で授業が終わります。1年生から6年生まで同じ先生で、すべての課目に一人の先生。学校で何を教えているのかといえば、先生たちにどうあいさつするのか、友だちとけんかしないようにとか。家でお父さん、お母さんにどう接するか。日本の小学校、中学校、大学での教育は、社会的規範と健康的な人格教育を一番においている。

ある意味で言えば、中国の教育は知識を教えるのを重視し、日本の教育は人を育てるのを重視しています。異なる教育システムで育成された人間は、社会に出てから自然と異なります。航空業に限らず、中国と日本の多くの分野で、仕事に対する態度、サービスの質などに違いがありますが、それは受けてきた教育が異なるからなのです。