王 富玉 貴州省政治協商会議副主席
地方政府は中日友好の促進に努力を

「貴州」という名は中国の宋朝に定められた。紀元974年、土着の領主、普貴以が支配した矩州が帰順し、宋朝の勅書には「貴州とは、遠くて荒れている」とある。これが「貴州」に関する最も早い記述である。

貴州には49の民族がいて、美しい山川、過ごしやすい気候、多様な文化があり、将来性のある省だ。しかし、地理的に辺鄙なために、交通が不便で、「閨房の美人が人に知られず」という感がある。

本年7月、中日国交正常化40周年を記念して、貴州訪日団は観光文化と経済に関する交流を行った。代表団団長で元貴州省党委員会副書記、現貴州省政治協商会議副主席である王富玉氏の率直でユーモアにあふれた話し方は、日本の人々に深い印象を与えた。

新中国に生まれ、新中国とともにあゆみ、博士号をとった回族の官僚は、河北、海南、貴州で勤務するなど、地方での行政経験が豊富である。

記者は7月18日、貴州省観光PR会の会場で王副主席に取材した。マスコミ的には人に好感を与えるタイプである。驕り高ぶったところがなく、形式にとらわれない人柄だ。貴州について語り始めると、少し強ばった顔がいきいきとしてきた。

 

中日の地方政府は共に友好を促進しよう

―― 先日、第13回中日友好交流会が貴陽で開かれました。この会議での主なテーマは「中日国交正常化40年を記念して、両国の地方政府の交流と協力を強めよう」というものでした。地方政府の交流と協力は、中日友好にどのような役割を担うとお考えですか。

王富玉 中日友好の鍵は民心にあります。国民同士が友好的であれば、両国政府の関係を良い方向に促すと思います。両国の政府は総体的にみれば、埋められないような溝はありません。最近の不愉快な事件については、両国政府の関係にとって障害になりますが、中日関係の大局を妨げるものではありません。

今回、私は中日国交正常化40周年の好機に、日本と交流を深めたいと思って来日しました。経済交流だけでなく、文化交流も含めた全方位的な交流です。私たちは自分たちの考えをお話して、また日本の方々のご意見も聞きたいと思っています。

中日双方が心を開いて、誠意をもって、互いに向いあって話すことによって解決できる問題もあり、互いに猜疑する必要もないと思います。これは貴州代表団が訪日した目的です。

中日の地方交流は重要な外交ルートであり、地方が交流と協力をうまく進めれば政府の外交を促すことになります。中国に「遠い親戚より近くの隣人」という言葉がありますが、中日は一衣帯水の隣国であり、代々仲良くしていかなければなりません。

ですから、両国の地方政府も役割を担っていかなければならないと思います。中日間で協力できることはたくさんあります。日本は第二次世界大戦以降、経済や科学技術の発展に力を注ぎました。そこには、中国が学ぶべき点がたくさんあります。

また、中国は新興国ですので、大きな市場と豊富な人力があります。中日の地方政府は経済、文化、科学技術、教育、農業、観光などの方面で広く協力できると思います。

地方が政府間で全方位的な協力を進めることにより、地方だけでなく、両国も発展していくことになります。ですから、中日両国が仲良くし、協力しあって発展していくために、両国の地方政府も努力すべきだと考えています。

 

日本の観光客に観光文化ツーリズムを

―― 貴州省は今、経済成長の転換期にありますが、観光を主としたサービス業に力を注いでいますね。日本の観光客にとって貴州の魅力はどんなところにあるとお考えですか。こうした旅行資源を、日本の人々にどうピーアールしていくつもりですか。

王富玉 貴州観光のメインは文化だと考えています。日本には美しい富士山がありますが、貴州の生態環境は富士山にひけをとりません。ですが、貴州のカルスト地帯は、貴州だけでなく南アフリカにも多く見られるものです。

中国だけでも7から8の省にカルスト地帯があるので、自然の風景だけではだめです。自然の風景と現地の文化とを結びつけることにより、日本の方にとって魅力的な観光地となるでしょう。

次に貴州の生物の多様性も、日本の方にとって興味があると思います。貴州の気候の複雑さが、生物の多様性をもたらしました。日本では生態環境と環境保護が重視されていますから、原生態の生物と自然の景色に興味があると思います。

貴州の生物の多様性と気候の複雑さは、日本の観光客にとってはおもしろいのではないでしょうか。例えば、貴州の冬は2度から12度で、夏は16度から30度です。しかし、日本では一番暑い時は40度近くなるそうですね。ですから、貴州に避暑に来て、「充電」したらどうでしょう。

第3に、貴州には日本に近い文化があります。それは酒の文化です。中国の「国酒」という誉れがあるマオタイ酒は、貴州が産地なのです。日本でもマオタイ酒をご存知の方は多いでしょう。

1972年の中日国交回復の際、周恩来総理が政府主催の宴会を開き、田中角栄首相にアルコール度数55度のマオタイ酒をすすめると、田中首相は一気に飲み干して、多くのテーブルを回ったそうです。田中首相の帰国前に、周恩来総理は外交部礼賓部にマオタイ酒2箱(合計48本)を田中首相に届けさせたそうです。田中首相は、両国の国民の共通のたしなみは酒を飲むことですな、と嬉しそうに話されたということです。ですから、酒の文化も日本の観光客には興味があると思います。

 

特徴的な貴州の少数民族

―― 貴州省には49の民族がいて、少数民族人口は全省の総人口の37.9%を占めています。多民族の文化が交わっている地域ですが、貴州人の気質はどんなものだと思いますか。

王富玉 貴州はどの民族も代々仲良く暮らしています。大きな民族紛争が起きたことはありません。民族が多くても団結しています。

交通が不便なので、戦争も少なかったのです。抗日戦争の時期でも、戦火は貴州にまで及びませんでした。そのため、昔からの民族文化がそのまま残っています。よく「秘境」と言われますが、特色あるものがたくさんあります。

貴州には3つの特徴があります。一つは祝い事が多いことです。「大きな祝い事は3、6、9の日、小さな祝い事は毎日」といわれるように、1年に1400回以上の祝い事があります。

苗族(ミャオ族)は146の祭日があり、平均して3日あけずに祝い事があることになり、祭りや催し物もたいへん多いです。どれも観光の見物となります。

第2に、貴州の少数民族は他の民族と異なり、「水を飲むなら酒も飲める、話すことができたら歌が歌える、歩ける人なら踊れるはずだ」といいます。ミャオ族のハトは、恋を伝える時は、山のふもとから山頂まで飛んでいきます。

というのも、ミャオ族は山頂に住んでいるので、谷間や山を隔て、ハトを使わなければ気持ちを伝えられないのです。また、貴州の?族(トン族)の歌が中華民族に名誉をもたらしました。

1993年6月にトン族の歌がフランスの音楽祭で世界の金賞を受賞しました。2005年7月にも第4回国際音楽祭で金賞を受賞しました。2回も受賞した原因は何でしょうか。

組織もなければ、指揮者も楽譜もなく、7部のハーモニーで歌うのです。世界的にも歌えるのは4部のハーモニーまでです。この民族の天籟の音、原生態そのものが、世界中の人々に情緒的で、優雅で、忘れがたい思い出をもたらすのです。

温家宝総理が日本に連れて来た15人の女の子たちが歌ったトン族の歌は、日本で喝采をあびました。温総理はどこに行く時も貴州の合唱団を同伴し、最近はドイツにも連れて行きました。この農家の女の子たちの歌声は、貴州の少数民族の文化の特徴の一つです。

第3の特徴は、貴州の各民族の習慣はそれぞれに異なり、49の民族の気風が違うことです。十里離れていれば風が違い、五里離れていれば風俗が異なり、山を越えると民族が違うというわけです。

山の上にはミャオ族が住み、山のふもとには布依族(プイ族)が住み、谷間にはトン族が住んでいます。どの民族もたがいに尊重しあい、仲良く生活しています。これが貴州人の気質です。