中島 恒雄 東京福祉大学総長
中国の高齢化社会に役立つ人材を

 
撮影/本誌記者 呉暁楽

中島恒雄氏は日本社会では伝説的人物の一人であり、見る人のフォーカスする面によって、中島氏の伝説的な部分もさまざまに表現されている。私は2000年という日本社会が高齢化社会に突入した「介護元年」に着目し、日本の高齢化社会のために人材を育成する目的で中島氏が創設した東京福祉大学にフォーカスした。中島氏が海外留学した経歴を持つことに私が着目したとき、東京福祉大学はすでに2000人以上の中国人留学生を輩出していたことを知った。そんなわけで2020年末、新型コロナウイルス感染拡大の第三波が日本で猛威を奮っている時期、東京福祉大学の中島恒雄総長を訪ねた。

中日米三国の教育の違い

—— 先生は昔アメリカに留学し、フォーダム大学で修士号と博士号を取得され、ハーバード大学の招聘学者も務められ、その後日本で東京福祉大学を創設されました。現在、貴校の外国人留学生のうち、中国人留学生が最多となっています。中日米三国の教育に触れた結果、この三カ国の教育にはそれぞれどのような特徴があるとお考えですか。お互いに学ぶべき点はありますか。

中島 日本にとっては、教育の原型は中国から伝来したものです。多くの日本の学者が日本は中国の隋・唐時代の科挙制度を取り入れていないと強調するのですが、日本は中国の儒学を取り入れ、さらに漢学へ発展させており、大きな影響を受けています。そのうち勉強方法については古典の暗記であり、丸暗記するのが良いとされています。ですから、日中両国の教育の共通点の一つは、学生が暗記した知識を引用することを好む点です。

アメリカにいたときには多くの中国人留学生と触れ合い、彼らの得意分野は暗記だと知りました。しかし、日本人留学生の暗記力は中国人留学生には遠く及びません。私は暗記がよくないと言っているわけではなく、それも学びの一つの基礎的技能だと思います。しかし、アメリカの大学では、学生が暗記しかできず、教授の講義内容を復唱しているだけだと、高い評価はもらえません。アメリカの教育は、学生が積極的に様々な情報を把握し、総合的に分析したあと、自身の観点を持つようにしなければならないのです。このようにして課題を見つけ、課題を解決できるようになるのです。

中国と日本の教育を受けた学生は、以前に生じたことのある問題に直面すれば、早く解決方法を見つけることができますが、今までになかった問題が生じたときにはどうすればいいのかわからなくなるのです。

日本の研究費の偏在は糾すべき

—— 教育の面では、「仏教圏」、「儒教圏」、「漢字圏」という分野で日本は中国から大きな影響を受けています。しかし、日本は1868年の明治維新以降、近代西洋の教育制度と内容を取り入れ、1945年の敗戦後にはアメリカ主導の教育改革をおこなっています。近年、ノーベル賞受賞者を続けて輩出していることは、日本の教育に変化が生じた結果だと思われますか。

中島 日本からの海外留学生の数は多いとは言えません。彼らの学習方法も中国の伝統的教育方法の影響を受けています。近年、ノーベル賞受賞者が増えている大きな原因の一つは、国家の研究費の多額な投入にあると思います。国家が教育研究に多額の費用を投入しなければ、そして教育研究によい環境を創造しなければ、多くの優秀な研究者と研究成果は生まれてきません。また、もう一つの大きな原因は、日本の研究者が勤勉であることです。彼らは「匠の精神」で研究に従事し、倦まず弛まず、失敗を恐れず、孤独に耐え、ついに研究の成果を出したのです。

しかし、日本のノーベル賞受賞者は主に理科系に集中しており、文学系、経済系の分野は少ないということも指摘しておきたいですね。ここから、教育研究の偏向、国家の科学研究に対する投資の偏在が見て取れます。これは今後ずっと調整し、糾していく必要があると思います。

留学にも「方法論」がある

—— 先生ご自身、留学経験があり、現在東京福祉大学では多くの外国人留学生が学んでいます。ご自身の経験から、今の外国人留学生に対して具体的なアドバイスや教訓はありますか。

中島 私個人の感想ですが、海外留学とは一種の異文化環境の中の学びです。これは自身の選択ですから、あえて大胆に異文化環境を受け入れ、積極的に異文化環境に溶け込む努力をすべきです。私はアメリカにいたころ、まず自分が日本人であることを忘れるようにしました。ですから、当時は日本人の友人はいませんでした。日本人と中国人は似たところがあって、海外に留学しても母国の人とグループを作りたがります。日本人留学生がアメリカで毎日日本語をしゃべっていては何も進歩しません。中国人留学生が日本で毎日中国語を話しているのでは進歩できません。

もう一つ参考にしていただきたい経験があります。私がアメリカに留学していたとき、ただ単にアメリカ人と交流したのではなく、積極的に自ら大学の教授と付き合うようにしました。一人の外国人留学生が大学教授と付き合いたいと思ったら、まず言葉の壁を乗り越えなければなりませんので、英語を必死で勉強する必要があります。それから、知識の面で教授と共通の言葉で語ろうと思えば、専門知識を身につけるよう努力する必要に迫られます。また、個人的な見解ですが、これには自身の思惟と思考能力を向上させ続ける必要もあります。

言ってみれば少し「功利的」かもしれませんが、現実を重視しているということです。しかし、日本人留学生として、アメリカ人学生としか付き合わなかったら大きな向上は望めません。思い切って教授と付き合わなければ、進歩できないのです。多くの場合、こうした学生に対する教授の印象は良くなり、評価も高くなりがちです。アメリカで他の学生が7年から10年かかってようやく取得する博士号を私は4年間で手にすることができました。これは私の「留学法」のおかげだと思っています。

また、現在では多くの中国人留学生が東京福祉大学の修士課程で学んでいますが、彼らの日本語はやはり能力不足です。それはなぜか。彼らがいつも中国人留学生と一緒にいたがり、言語面で向上しないというのも理由の一つです。こういう状況は改善しなければなりません。

弱点を強みに変える

—— アメリカ留学中の最大の悩みは何でしたか。それをどのように克服されましたか。

中島 最大の悩みはやはり英語でした。その後はどのように教授の考えを理解するかということでした。アメリカの教授は、学生がオウムのように先生の講義内容をそのまま繰り返すことを最も嫌がります。彼らは学生に自身の見解を求め、さらにその見解を文字と言語で表現することを求めます。アメリカの教授の多くは大変頑固で、他人の意見をなかなか受け入れません。学生として、相対的に弱い立場ですので、真剣に聞きながら、頑張って理解し、自身の考えをフィードバックしなければなりません。これが学生自身の総合的資質を向上させ続けることになるのです。これができなければ、よい評価は得られません。留学生の本分は勉強なのですから、よい評価が得られなくてどうしますか。自身の弱いところを強みに変えることを学ばなければなりません。

高齢化問題解決のモデルを提供

—— 日本はすでに高齢化社会に突入しました。2000年に誕生した東京福祉大学は、ある意味、時運に乗じて登場したと言えます。貴校では日本の高齢化社会をどのように見ていますか。

中島 高齢化社会は人類の歴史上未だかつてない社会であり、全く新しい社会問題です。この問題に対しては、理論上の研究だけでは、机上の空論であり、実効性のある結果は得られません。私は東京福祉大学を経営する一方で、高齢者施設も経営しています。このような具体的実践、具体的な事例を大学の教室の中に持ち込んで、学生に現実的に有用な知識と能力を学んでもらい、卒業後は高齢化社会に貢献できるようになることを望んでいます。

現在、日本はすでに「人生百年時代」に入っています。そこで、様々なスマート・イノベーションが必要であり、様々な制度の改革が必要であり、様々な福祉のイノベーションが必要なのです。日本はアジアで最も早く高齢化社会に入った国であり、また先進国の中で比較的早く高齢化社会に入った国でもあります。そこで、日本がいかに高齢化社会の問題を解決するかは、単に自国の問題にとどまらず、アジアの国々、欧米の国々に解決のモデルを提供するということでもあります。

この問題が、一つの国だけでは解決できないということは分かっています。これも東京福祉大学が多くの外国人留学生を受け入れている理由の一つです。外国人留学生が帰国後に「親日派」になることを希望している人がいますが、私は本学で学んだ外国人留学生が帰国後に自身の祖国の建設、特に高齢化問題を解決できる優秀な人材となってくれることを願っています。

日中両国提携の新起点

—— まさに今おっしゃったように、中国は日本と同様、高齢化社会に入っています。中日両国はともに高齢化社会の問題に直面しているわけですが、特に人材育成の分野で、どのような提携を展開していけると思われますか。

中島 私も、日中両国が同じ高齢化問題に直面していることに注目しています。私自身も中国で介護施設を視察したことがありますが、そこから日中両国には提携する余地が大きいことを痛切に感じました。

近年、日中両国の指導者が交流する際に、両国は将来介護の分野で積極的に提携をしていかなければならないという話題がいつも出されています。過去の歴史を見ても、日中両国は政治、経済、文化、科学技術の分野で様々な提携をおこなってきましたが、介護の分野の提携はまだありません。これは日中両国提携の新起点に違いありません。この問題に対する認識は、高所から見て、戦略的視点を持ち、大局の概念を持つ必要があります。東京福祉大学の外国人留学生の在学期間中の重要なカリキュラムの一つにアメリカ短期留学があり、この留学を通して欧米社会の介護を理解し、自身の目を広げ、自身の知識を豊かにし、自身の対応力を強化することで、自身を介護分野の国際的人材として成長させるのです。

取材後記

取材終了後、中島恒雄先生は自身の著作『できなかった子をできる子にするのが教育』を下さった。そして、「東京福祉大学を創設した当初から、ずっとこの教育方針を徹底して来ましたし、またこれからも守っていきます。この本は中国でも出版される予定で、将来はさらに多くの中国の教育学者と交流したいと思っています」と語った。また、オフィスの壁に掛けられた学位証を一枚一枚紹介してくれ、恒例の色紙には「心」と揮ごうして下さった。「人生には平坦な道はありません。どんなに挫折しても事業目標の追求をやめるべきではありませんし、社会のために貢献することをやめるべきではありません」と述べられ、中国の春節(旧正月)の頃に自身のインタビューが掲載されると聞くと、こう話した。「中国の皆様に新年のご挨拶を申し上げます。願いが叶いますように! 」。