「中国の海洋権益と 周辺環境座談会」を開催

中国の海洋権益、周辺環境情勢が舌鋒鋭く研ぎ澄まされた観点で論じられた。それは心穏やかな大国の姿を呈していた。7月3日午前、『人民日報海外版日本月刊』及びシンクタンク鍵叡は、東京の『日本新華僑報』社主催の「中国の海洋権益と周辺環境座談会」に出席した。

南京大学教授で中国南中国海研究協同イノベーションセンターの朱鋒執行主任、中国社会科学院の王鍵首席研究員が出席し、『人民日報海外版日本月刊』編集長で、北京大学歴史学部客員教授、シンクタンク鍵叡のシニアコンサルタントの蒋豊が進行役を務めた。座談会の要旨は以下の通り。

中国の海洋権益問題の三大要因

—— 本日は中国の海洋権益と周辺環境問題について論じていきたいと思います。海洋権益の問題は、近年特に注目されるようになった問題の一つと言えます。これまでは中国の対外関係において、決して重要な位置を占めてはいませんでしたが、今日では次第に重要な位置を占めてきており、中国と大国の関係、中国と近隣諸国の関係に影響を及ぼしています。朱鋒教授にお尋ねします。その背景についてどのように理解すればよいでしょうか。

朱鋒 中国の海洋問題は間違いなく、現在の我が国の対外関係、周辺外交、国家安全戦略において突出した話題です。なぜ、海洋権益紛争が起こり海洋の安全問題に纏わる外交衝突が過熱するのか。私は無視できない三つの重要な要因があると思っています。まず一つ目の要因として、中国の海洋意識と海洋戦略に新たな覚醒と進展があったということです。中国の経済発展に伴い、我々が海洋の生態、環境、資源の保護に一段と力を入れつつ、絶え間なく海洋へ向かい、海洋経済を開拓し海洋科学技術を発展させてきたことは周知の通りです。中国はこれまでずっと陸の大国であり、海洋大国であったことはありません。過去300年の中国の伝統文化の核心は、農耕経済によるものであったと言えます。ところが、過去400年の西洋主導の近現代史において、その文明の核心は海洋の発見と利用にありました。従って、海洋文明が新たに人類の文明史をつくり、東洋と西洋の過去400年間の歴史のあゆみを決定・変化させる根本的要因となりました。

中国では特に20世紀末になって、国力の台頭に伴い海洋への依存、海洋開発による国家利益に対する要求が次第に高まっていきました。その一つの重要な背景として、我が国は現在、世界最大の貿易大国となり、商業シーレーンは全世界に分布しています。ですから、中国の工業化が世界へ向かい世界に溶け込む過程において、陸の大国から海洋大国へと変貌する必要がありました。ここ数年の海洋問題の高まりの一つの重要な背景は中国人が海洋に目を向け始めたことです。

二つ目の要因として、中国は海洋を隔てて隣接する国が7カ国、陸続きで隣接する国が14カ国で、21の国と国境を接しており、隣接する国が世界一多い国家であることです。これは中国人の宿命です。従って、中国は1840年のアヘン戦争から近現代に至る歴史の転換にあって、未解決の陸上及び海洋境界線を多く残しました。陸上の国境線については、90年代初めから現在までに、交渉の末、11の陸上の隣接国家と領土境界線問題を解決しました。しかし、海洋領有権問題については、その複雑さ、技術上の難度、関連の国際法への適応において、陸上のそれを遥かに超えているのです。


南京大学教授で中国南中国海研究協同イノベーションセンターの朱鋒執行主任

海洋境界線と陸上境界線はまったく別の概念です。陸であれば線を引いて、こちらは貴方の領土であちらは私の領土で済みますが、海洋の場合は三つの問題に波及します。まず、海洋の地物はどの国に属し、どのような海洋権益を主張できるのか確認し、海洋権益の境界を決定しなければなりません。例えば、そこは排他的経済水域なのかどうか、国際海洋法に基づく領海等の問題は存在しないのかといった非常に技術的な問題です。90世紀初めから現在までに中国は11の国と陸の国境線の問題を解決しました。解決できていないのはインドとブータンだけです。問題は海洋に境界線は引けないということです。海洋領土の法律論争は簡単な陸の境界線より遥かに大変で、様々な方面の問題に波及します。二点目に、海洋領土論争の複雑性です。それは、占領しているから、実効支配しているから自分のものだという単純な話ではありません。そこには歴史的・法的背景があり、歴史的・法的根拠に基づいて改めて海洋権益・海洋領土の主張を反映した新たな境界線を決める必要があります。その法的複雑性は陸地のそれとは比べものになりません。東中国海、南中国海の海洋領土問題が遅々として解決しない根本原因もそこにあります。問題の複雑性が外交交渉の困難を招いています。

さらに三点目に、中国が周辺国と海洋権益や海洋領土紛争解決の道を積極的に探り始めた時に、払い去ることができなかった背景があります。それは中国の台頭です。中国の台頭の背景には海洋への勢力拡大がありました。それが大国の最も複雑で最も敏感な権力の闘争と衝突を生みました。誰もが知る魚釣島の問題も90年代にはあまり騒がれていませんでしたが、2012年に野田政権が「国有化」を強行しようとした際、中国は強く反応しました。

再び現在の南中国海問題に目を向けてみましょう。アメリカは一貫して、南中国海の主権に関して何ら実質的立場にないと主張してきました。ところが今では、中国のすべての動きを戦略的視点から監視しています。中国の台頭により、地域の主要国家との力関係に実質的変化が生じてきたためです。そこで、アメリカや日本は、中国が陸の大国から海洋大国に向かうべく、海洋権益紛争解決のプロセスとして利用するのではないかと懸念しているのです。大国間の力関係の変化が引き起こした安全への憂慮がそれに拍車をかけました。つまり、中国が海洋に目を向け、海洋権益問題の解決に力を注ぎ始めた時に、大国間の権益争いと戦略的駆け引きはかつてない拡大を見せ、単純な海洋領土、海洋権益紛争が大国間のパワーゲームになり、各国のメディア、シンクタンク、政界を騒がす重要なテーマとなったのです。

中国の海洋権益問題は、やり残した宿題

—— ただいま朱鋒教授から、中国の海洋国への転換、周辺諸国との地理的問題、中国の台頭という三つの側面から、中国の海洋権益問題が顕在化している背景的要因を分析していただきました。同時に気になるのは、海外においては別の事情が存在するということです。如何に釈明したとしても、中国は海洋国土の拡張をしていると見なされます。

日本を含む海外の一部の学者は、中国は陸の国土拡張によって強大になったが、今度は海洋の拡張によって強大になるのではないかと考えています。王鍵教授はこの点についてどうお考えでしょうか。

王鍵 先ほどは朱鋒教授から、歴史と現状からの詳しい分析をしていただきました。教授は中国の海洋問題研究の第一人者です。中国社会科学院の研究員として、私もこの問題には注目しています。海洋問題は現在の中国において国家レベルの最重要の課題です。

思い返してみるに、2012年の中国共産党第十八回全国代表大会の「政治報告」において、胡錦濤総書記が初めて公式に海洋強国建設の目標を打ち出しました。当時、これは多くの国の関心を集め、我々海洋領海紛争国家プロジェクトチームは、我が国の海洋政策の変化について研究を始めました。2013年以降、習近平主席が「一帯一路」構想を打ち出し、その重要な部分の一つが二十一世紀海上シルクロード建設でした。習近平主席が海上シルクロード構想をインドネシアで発表したことはよく知られています。なぜインドネシアだったのか。それは、中国と東南アジアは長年連携し合い良好な関係にあったからです。2010年には中国・ASEAN自由貿易圏協定を結んでおり、ともに構想を実現することを望んだのです。


中国社会科学院の王鍵首席研究員

中国の海洋強国建設については、いくつか見過ごせない点があります。まず、中国は今や世界の海洋貿易大国であるという点です。パナマ運河における中国の遠洋貨物船の利用回数は恐らく世界一です。マラッカ海峡を経由する貨物船についても上位です。これらのことからも、現在、中国は間違いなく海上貿易大国であることがわかります。二点目に、中国の歴史上有名な「鄭和の西洋下り」が、当時の中国人の海洋思想を具体的に表しています。その歴史を丹念に考察してみると、それは決して他国の領土・領海を占領したり、道中、海賊のようなことをはたらいたというものではなく、中国の文明を伝えたり中国の先進文化を紹介していたことがわかります。三点目に、数年前に国務院新聞弁公室が発表した中国の平和発展に関する白書に目をやる必要があります。そこでは、中国の今後の発展は平和的発展であるとし、海洋事業の拡大のために領土・領海の拡張はしない。中国は欧米や日本など海洋列強国が歩んできた道とは異なる道を行くと強調しています。

中国が海洋の拡張を企てていると言う人たちに対し、我々は訴えるべきです。「中国の海洋権益はまだ完全には確立されておらず、海外華僑の利益を含む海外における経済利益は今も損害を受けている。過去には中国の国力が弱く、それらを保護することができなかった。いま、それをしっかりやろうとしているのだ。我々は世の人々に、中国は戦略国家にはならない。しかし、自身の海外利益は護ると明確に宣言する」と。

本年、中国は初めて国産空母を進水させました。今後、八艘の空母建設を計画しています。それは中国の海洋権益を保護するためです。一部の周辺国が中国の海洋権益保護に関して、拡張だと言うのは間違いです。中国には取り戻さなければならない利益があるのです。

私が強調したいのは、中国はこれからも自身の海洋を護る力を強化していかなければならないということです。孫中山先生は生前繰り返し、中国は独自の海洋権益をもつ必要がある。海洋権益がなければ中国は強くなれないと叫びました。さらに、強大な海軍を構築しなければならないとも呼びかけました。ところがどちらも実現できませんでした。その夢を実現する時が来ました。強大な海軍が無ければ強大な海洋大国にはなれません。そうなれば、中華民族の偉大な復興と「一帯一路」戦略構想も保障されません。