郝 義 長城会(GWC)Co-CEO
中国流イノベーションと日本の永続性との衝突

2016年7月15日、長城会(GWC)主催の「GMIC(グローバル・モバイル・インターネット・カンファレンス)東京2016」が「Mobile Infinity ~世界の共振~」をテーマとし開催された。これには、日本、中国、アメリカ、台湾、イスラエル、インドなど十数の国と地域から891名のゲスト・参加者が出席した。大会は「ビッグデータ・サミット」「エンターテイメント・サミット」に分かれ、長城会のCo-CEOである郝義氏は両方のサミット会場において、中国での業界動向とGMIC北京の盛況について講演をおこない、日本で訪問した百年企業のエピソードと感想を伝えた。郝氏は、古河工業、無印良品から「寿司の神様」小野二郎氏に至るまで、日本の老舗には精密なモノづくりがあり、匠の精神が伝承され、さらにそれが極限まで発揮されているとし、「中国のネット業界は猛スピードで発展しているが、いかに冷静に日本のモノづくりの理念を学び、また中国の優秀な製品を日本に持ち込むかについて考えるべきだ」と語った。


撮影/ 本誌記者 呂鵬

真のクロスボーダーとは

—— あなたは以前中国最大のカラーテレビ企業であるTCLマルチメディアのCEOでしたが、なぜ長城会に加入されたのですか。

 私自身は中国家電業界で最も早くインターネットと提携し、TCLマルチメディアのCEOの時、真っ先に長城会のメンバーになりました。長城会が世界各地で大会を開催するたびに、シリコンバレーであれ、東京であれ、メンバーの知恵の火花を衝突させることができます。おもしろいことに、昨年私は日本ではゲストの立場でスピーチしたのですが、今年は責任者に変わってしまいました。

長城会には「イノベーションを行き渡らせ、リレーションをすみずみまで」という理念があります。私は企業人の視点はもちろん個人の視点からも、この理念は素晴らしいと思います。世界をつなげ、世界各地で本当に意義のあるイノベーションの価値を見つけることができるのです。

TCLを離れる時、私は自分自身にいくつかのキーワードを課しました。一つは「北京」です。私はさらに多くの時間を家族のために使いたい、北京に帰りたいと思いました。次は「インターネット」「レジャー」「テクノロジー」です。私はずっとテクノロジーの分野で活動してきましたし、インターネット、レジャー、テクノロジーを一つに融合させられれば、真の意味のクロスボーダーが実現できます。

今年、北京GMIC会議では超大型メイン会場と50カ所の分科会場を設けました。伝統的な意味のインターネット大会というだけでなく、さらに国家スタジアム・鳥の巣のテクノロジー・レジャーフェスティバルとオリンピック公園のテクノロジー縁日は、新しい時代の幕開けと呼べる盛会となり、ビジネスを企業向けから消費者向けへ変化させ、一般庶民にもテクノロジーの力を体験してもらいました。おかげさまで、北京の大会にはのべ20万人近くが来場し、世界最大規模のモバイルネット大会となりました。

中国のモバイルネットはすでに世界の最先端にあり、スピーディーに発展していますが、速すぎることが浮ついた社会の雰囲気をつくりだしており、みなが大きく速くと考え、長期を見据えた熟考をしていません。逆に日本では、ソニーは自らを歴史が4、50年しかない若い会社だとしています。しかし、中国では40年を超えられる企業は少ないのです。今回、私は幸いにも「寿司の神様」小野二郎さんにお会いしましたが、彼は命をかけて食文化を発揚させていると感じました。ですから、私も長城会をすべての企業が集まって、共に永続的経営の道を探り、いかに企業が社会貢献できるかを考える場にしたいと強く望んでいます。これもわれわれが提唱するシェアの精神です。

日本のポータルサイトはなぜ一強なのか

—— 中国のポータルサイトは百花繚乱であり、搜狐、網易、新浪、鳳凰などが林立していますが、日本ではヤフーだけが代表的なサイトであり、一人勝ちの状態であることにお気付きだと思います。日本のこうしたネット業界の状況をどう思われますか。

 まず一つには、日本の市場本体は中国ほど大きくありません。ユーザーには時間の集合と累積が必要です。インターネットの重要な基数は人ですから、十分な人が必要です。中国でこんなに多くのポータルサイトがなぜ急速に発展したかというと、数百万から億に上るユーザーを持っているからです。中国が世界でも最先端を行っているのは、まさに巨大なネットユーザーという基礎があるからです。

第二に、日本市場は進出が難しいことです。日本が閉鎖的で進入させないというのではなく、特に確かなベースがなければダメだということです。さきほど、あるメディアの取材があり、日本市場に進出する中国企業へのアドバイスを聞かれました。私はまず、確かな基本的な力が必要だと答えました。われわれはユーザーに究極の体験をしてもらうよう強調していますが、日本は長年それを実現し、「異常」なほどだとも言えます。つまり中国企業には生産力、研究開発力、サプライチェーン力、市場拡大力などの基本的スキルが必要で、それを総合させてこそ日本でビジネスバリューを実現するチャンスがあるということです。たとえばカラーテレビでは、日本の規則はかなり複雑ですので、研究開発に多額の研究開発費を投入しなければなりませんが、それに対して市場は大きくはないので、採算見通しはすぐ明確になります。

日本社会はネットと生活に距離を置く

—— 中国のインターネットと生活との関係は非常に密接であり、例えばネット決済や投資など、業界の壁を破っただけでなく生活も便利になっています。しかし、日本では基本的にそのようなことは起こりそうにありません。日本ではインターネットと生活との関係は中国ほど密接ではありません。この問題についてはどう思われますか。

 それは日本の文化と関係があると思います。日本では既存の概念を打ち破ることは普通ではなく、それは堀江貴文氏を見れば分かります。日本人は規則を守り、どんなことも規定を遵守し、規定外のことはしません。このような生活習慣と社会文化は、日本での常識を打ち破るようなイノベーションが不可能とまではいかないものの、阻止する大きな社会的な抵抗力を作り出しています。

中国のスピード対日本のスキル

—— テレビの分野ではここ数年、日本の家電業界では東芝にしてもシャープにしても業績不振で、日本経済の衰退の現れだととらえられています。しかし、そうではなく、家電が徐々に中国などに追いつかれてきたため、ロボットなどの分野に力を入れ、終始トップを走ろうとしており、今後日本は「コーナーの追い越し」をするだろうとの見方もあります。この予測に対してはどのように対応されますか。

 私は日本の内部の力は大きいと思います。家電分野は技術開発、ビジネスモデルはもちろん、コスト構造、サプライチェーンなどから見ても、日本の得意分野ではありません。サプライチェーンで日本は中国にはかないません。私の経験では、例えば広州で2時間車を走らせればすべての部品が調達できますし、何かしたいと思ったらできる人を探すことができます。

日本の強みはハイテクで、7、80年代には家電がハイテクだったのです。現在では工業用ロボットがハイテクで、日本ではロボットを製造できるだけではなく、ロボットを使ってロボットを製造できるところまできています。私がTCLにいる間、テレビは液晶画面には多くの精密機械が必要で、露光装置は一台2000万ドルで、キヤノンではなくニコンのものでした。つまり、日本は技術面では手堅く、特に基本的な技術が素晴らしい。アメリカのシリコンバレーはソフト面でのイノベーションですが、この種のハード面の手堅い技術の累積では日本とドイツが依然としてリードしています。

中国はビジネスモデルでのイノベーションが得意です。今後はさらに落ち着いて工夫していく必要があります。先だって、われわれと中国社会科学院の下部機関である中科創興と共同で「ハードテクノロジー連盟」を設立しました。その趣旨は、中国のハード面の技術の進歩を促すことです。

「インダストリー4.0」の時代はもちろん未来の「インダストリー5.0」の時代でも、真のハード面での科学技術の累積が必要です。目前では中国は急速に発展し、ブレイクスルー力を持っていますが、長期的に考えると大きな内部の力の蓄積が必要です。

早い者勝ちの世界ではありますが、もし天下の強者でも内面に力を持った者に出会えば、容易に勝つことはできないのです。

中国は永続の道を学び、日本は謙虚に学ぶべき

—— 日中両国は将来、ネットの発展においてどの分野の交流を強化していくべきだと思われますか。互いに学び合う部分はありますか。

 まだまだお互いに学び合う点は多いと思います。それは今回の東京大会の主要なテーマである、イノベーションと文化の衝突、ということです。日本のインターネットには基本的スキルがあり、蓄積がありますし、中国にはビジネスモデルがありますから、中国のビジネスモデルと日本の匠の精神とが有効に結びつくことが一番です。

日本の消費者のApp Store支払い意欲は世界各国より高くなっています。これは、優秀な製品があれば、日本は相対的に高利潤があがる市場だということを意味しています。中国の企業は学んで、自身の能力を向上させることができます。実力があれば市場を開拓できるのです。もう一つ、中国企業はいかに永続の道を真に追求するかということを日本企業に学んだほうがいいでしょう。今回のGWIC東京大会では百度の会長や猎豹CEOなど15名の中国トップ企業のリーダーが参加し、われわれとともに継続の道を探りました。

また日本のネット企業も、中国の新しいビジネスモデルに注目したほうがいいでしょう。インドはこの面ではさらに直接的、現実的で、以前はシリコンバレーで学び、シリコンバレーで人材を獲得していましたが、現在は中国式モデルに学んでいます。日本もこの面では学ぶべきものがあるはずです。日本企業は世界経済で重要な位置を占めているとはいえ、モバイルネットの潮流の中で、日本はややモチベーション不足だと感じられます。そこで、穏やかに謙虚な姿勢で、中国やインドなどの国々のモバイルネット分野の新しい展開に注目したほうがいいでしょう。

日中両国はまだまだ衝突し、まだまだ共有できます。それは両国、そして両国のネット企業に寄与するものなのです。