天野 繁隆 日本点字図書館館長
草の根技術協力事業で中国の視覚障害者を支援


天野繁隆館長

中国には1200万人を超える視覚障害者がいると言われており、点字も定着しているが、映画やスポーツ中継などの映像を、視覚障害者でも楽しめるようなサポート技術の普及が課題となっている。そうした中、2003年7月に設立され北京紅丹丹教育文化交流センター(略称:紅丹丹)の心の眼で見る映画館「心目影院」や心の目で読む図書館「心目図書館」が提供する各種サービスは視覚障害者の人気プログラムだ。今回、2009年から草の根技術協力事業等で中国の視覚障害者を支援してきた社会福祉法人日本点字図書館を訪れ、紅丹丹との出会いなどについて、天野繁隆館長にお話を伺った。

 

紅丹丹は2011年1月、デイジー図書の製作と貸し出しを主としたサービス事業として、「心目図書館」を設立。その後、良質な録音設備の整備を図るため、日本点字図書館の提案で在中国日本大使館の無償資金供与を利用し、2012年11月に「日中友好音声作品録音スタジオ」が完成。写真は披露式典で司会を務める鄭暁潔センター長(中央)

紅丹丹との出会い

―― 日本点字図書館は、視覚障害者のために点字図書・録音図書の制作・貸出等を行う日本最大の視覚障害者用図書館であり、優れた技術と経験を有しています。2009年に貴館の提案により、JICA草の根技術協力事業として、中国における「視覚障害者音声情報提供技術指導事業」が開始されました。紅丹丹との出会いについて教えてください。

天野 そもそもの出会いは、2008年6月に北京で開催された日中の障害者にかかわるシンポジウムでした。このシンポジウムで紹介された紅丹丹の活動は心の眼で見る映画館「心目影院」の設立や、ボランティアがセリフの合間に情景を説明する視覚障害者向けの映画鑑賞会の実施、スポーツの実況放送などといったもので、当館にとって親近感を覚えるものでした。この分野で先行する当館からの技術支援が役立つのではないかと考え、独立行政法人国際協力機構(JICA)草の根協力事業の支援型に応募し、2年間の事業として認められました。

―― 具体的にはどのような支援ですか。

天野 事業の内容は、当館が10年余にわたって導入してきたデジタル録音技術のノウハウを駆使して、映画(テレビ番組)副音声製作技術、デイジー図書編集技術、録音ボランティア養成指導技術や録音図書・雑誌の編集技術、さらに視覚障害者向けラジオ番組制作者の養成などです。

将来的にはインターネット配信技術なども視野に入れ、中国の視覚障害者がより楽しく豊かな生活を送れるよう願っています。

 

紅丹丹と日本点字図書館の職員交流で2009年に行われた「視覚障害者音声解説情報技術プログラム紹介会」の際の寄せ書き

デイジー図書の普及を

―― デイジー図書のDAISYとは、Digital Accessible Information SYstem(アクセシブルな情報システム)の略で、ここ数年来、視覚障害者のためにカセットに代わるデジタル録音図書の国際標準規格として、定着しているようですね。

天野 中国では紅丹丹が中心になって盲学校の生徒のために、教科書や学習参考書などのコンテンツ制作を行っています。利用者は紅丹丹に来館すれば専用の再生機を使いデイジー図書を聞くことができますが、そのサービスは北京に限定されており、中国全土の視覚障害者は映画やテレビ番組を楽しむことができない状況にあります。

個人個人が自宅で再生して聞けるようになることが理想なのですが、まだそこまで至っていません。パソコンで再生できないこともないのですが、それだとパソコンが使えることが前提となりますので、再生機で聞く方が簡単です。

中国には人口に比例して大勢の視覚障害者がいます。もっともっとデイジー図書が普及しなければなりません。しかし、まだまだ知名度が低く、コンテンツが少ないため、政府もなかなか支援するに至っていないのが実情です。

日本では政府の助成制度を活用し、デイジー図書を2500タイトル制作し、配布する中で機械を普及させてきました。アメリカでは国が一括購入して配布しています。再生機の価格は標準的なもので一台4万円です。日本は1割負担で購入できます。コンテンツは日本全国の関連する窓口を通じて無料で貸し出ししていますし、郵送で返却も可能で送料は無料です。中国でも今後、こうした仕組みが必要になってくると思います。

 

 

「日本点字図書館」創立者

本間一夫(1915-2003)

1915年10月7日、北海道の増毛に生まれる。5歳のころ脳膜炎により失明。40年11月10日、「日本盲人図書館」を創立。48年、東京の焼け跡に再建された図書館は「日本点字図書館」と改称し事業を再開、現在に至る。点字図書・録音図書の製作と貸出を主とする図書館事業に取り組み、視覚障害者の読書環境向上に貢献した。