馮 力 中国国際航空日本支社長に聞く
「ナショナル・フラッグ・キャリアの重責を担う」

「中国国際航空は中国の航空会社では唯一、機体に中国の国旗を掲げています。その特別なステータスは全従業員の安全への弛まぬ努力の賜物です。現在に至るまで、中国国際航空は運航基準が最も厳格で、パイロットの管理・養成もトップクラスの航空会社です。他方面においては最高レベルと言うことはできませんが、安全面には誇りをもっています」。3月9日午後、東京・虎の門で、弊紙の取材にこう語る、中国国際航空の馮力日本支社長の眼は潤んでいた。

筆者は長年マスコミ人として中日両国を奔走してきたが、可能な限り中国国際航空を利用してきた。それは安全であるという理由だけでなく、中国の改革開放の総設計師・鄧小平氏による真っ赤な8文字の「中国国際航空公司」のロゴマークのためである。鄧小平氏がいなければ、筆者は中国で大学に進学しなかったであろうし、日本に私費留学することもなかったであろう。そして、中国人の誇りである中国国際航空に乗ることもなかった……。こうして我々の話題が尽きることはなかった。


撮影/本誌記者 張桐

中国国際航空はアジアで唯一6大陸で運航

—— 中国国際航空は、海外において地域によって異なる戦略をお持ちです。 日本における戦略はどのようなものですか。中国人の観光のトレンドをどう判断されますか。日本観光熱は今後も続くでしょうか。

馮力 中国国際航空は日本に就航して43年になりますが、その歴史は中国民航に遡ります。日本ビジネスは常に弊社の重要な国際戦略の一つに位置付けられてきました。長きにわたって、日本は往来規模が最大の市場の一つであり、中国の国際航空市場の重要な構成要素で、その位置は将来的にも堅固であり続けるでしょう。長年、当社は日本で安定的な経営を持続し、常に中日両国国民の交流の架け橋となってきました。

当然、当社の日本におけるビジネス展開は、中日間の航空路線に限られたものではありません。周知の通り、当社はアジアで唯一、世界6大陸への直行便を有する航空会社です。日本の航空会社にとって西欧、アフリカ、南米方面への航空路線の運航は、極東という地理的要素によって不利です。当社は北京や上海浦東空港をハブ空港としたトランジットで、それらの方面と日本を結び、快適で安価なサービスを提供できます。

また、当社の市場調査部門はGDS、ビザ、イミグレーション等の関連データを有し、常に中日の市場の変化と進展を注視しています。2014年頃から、日本は中国の海外旅行者の人気スポットとなりました。

日本観光熱の背景には二つの要因があります。一つには中国経済の持続的発展によって中国人の暮らしが豊かになり、海外旅行の需要が高まったことです。観光目的地は、現在は東京、大阪、京都、北海道、九州等に集中していますが、今後は地方都市の開拓が待たれるところです。

もう一つの要因として、日本が「観光立国」を国策として、中国人の訪日観光ビザを緩和してきたことが挙げられます。今後も中国経済は着実に成長を続け、海外旅行を経験しない多くの人々の訪日が見込まれます。

加えて、日本は2020年の外国人訪日旅行者数の年間目標を、現在の倍の4000万人に掲げています。市場の分析から今後もしばらく、日本は中国人旅行者の人気スポットであり続けるでしょう。

 

中日の航空市場で軽視することのできない要因

—— 御社は中国で唯一、機体に国旗を掲げる航空会社ですが、日本でビジネスを展開する上で紆余曲折はありませんでしたか。利用者は在日中国人と日本人ではどちらが多いですか。

馮力 紆余曲折を語るには、当社に影響を及ぼす要因について語るのがよいかと思います。中日の航空市場に影響を与える要因は複数あります。

まず、政治的要因です。両国の政治関係は国民の往来に大きな影響を与えます。特にビジネス、文化、観光の分野です。従って、改善し良好な関係を維持しなければなりません。政治関係の安定は非常に重要です。

第二に自然災害です。自然災害は観光需要に大きく影響します。周知のように、2011年の東日本大震災は観光市場に衝撃を与えました。

第三に、為替レートです。為替レートはインバウンド、アウトバウンドの両方にプラスとマイナスに影響します。2009年前後、円高はピークに達し、外国人訪日旅行者は減少し、日本人のアウトバウンド観光を刺激しました。2015年には円安が進み、中国人旅行者の「爆買い」が生まれました。

第四には原油価格です。航空会社の経営は国際原油価格の影響を受けます。燃油サーチャージは航空券価格の重要な構成要素の一部で、国際原油価格の高騰は客足に影響します。

早期においては、当社の中日路線の乗客は日本人がほとんどでした。当時、日本経済は堅調で、中国の対外開放により日本企業の対中投資が急速に進み、乗客は日本からの業務渡航者が主体でした。

また、中国本土は日本人に人気の海外旅行先でもありました。当時、日本ビザの取得は難しく、中国人旅行者が日本を訪れるルートも限られていました。しかし、中国経済の成長によって、それも過去のこととなりました。中国人旅行者の購買力が高まり、日本をはじめ各国が中国人旅行者へのビザの緩和政策を続け、国際線における中国人旅行者の比率は伸び続けました。

当社の中日路線を見ると、2014年には中国人と日本人の比率はほぼ等しくなりました。2015年以降、特に円安を背景に乗客の比率は逆転し、現在、中国人の乗客が当社の中日路線の主流になっています。

また、中国国際航空は大手グローバル航空会社として、中心となる北京首都国際空港は昨年の利用者数で世界第二位を記録し、アジアのハブ空港の一つになっています。中日路線の利用者は中国人と日本人だけでなく、アメリカからアフリカ、ヨーロッパからアジア太平洋に至る全世界に及んでいます。

 

絶えずサービスの改善と強化に努める

—— 御社はいかにして今日の成果を得たのですか。また、どのように市場のニーズに応え日本人客の信頼を勝ち取ったのですか。

馮力 これは中国国際航空にとって大切なテーマです。我々が努力して勝ち取ったものは世界各国の旅行者の信頼です。旅行者の信頼は実力でしか勝ち取れません。中国国際航空は中国で唯一、国旗を掲げる航空会社です。その特別な地位を支えているのは、全従業員の安全に対する飽くなき追求です。

当社は中国で最も運航基準が厳格で、パイロットの技術レベルもトップクラスです。また、大手グローバル航空会社として379機を所有し、平均機齢は5.9年です。アジアで唯一、6大陸に直行便を飛ばし、世界市場の様々な環境下での豊富な経験をもち、国際的評価を得ています。

2007年には、各種国際基準をクリアし、世界最大の航空連合であるスターアライアンスに加盟しました。2017年には、ルフトハンザグループとジョイントベンチャーを開始しましたが、これも世界一流の航空会社が中国国際航空の経営手腕を認めた証左と言えます。

さらに言えば、我々は常に日本市場を重視してきました。日本のハイレベルなサービスは有名です。当社も常に日本でのサービスの改善・強化には大きな努力を払ってきました。日本出発便をご利用になれば、我々が心を込めて用意した日本食と日本人の乗務員の増員にお気付きになるでしょう。

このように、よりローカライゼーションされたサービスを提供しています。現在、東京、大阪、名古屋、福岡、仙台、広島、札幌、沖縄の8都市に支店を置き、中国への直行便を就航させています。併せて日本支社を置いて支店間の連動を強化し、日本全国で一元化された高品質のサービスを享受できるようにしています。

 

メディアは摩擦の除去に努めるべき

—— 最近、日本のマスコミは中国人訪日客のマナー違反をしきりに話題にしていますが、この問題をどうお考えですか。今後、中日両国の旅行業界において、どのような協力が考えられますか。

馮力 事実、マナーをわきまえない中国人旅行者もいましたが、それはごく一部で、彼らがすべての中国人を代表しているわけではありません。1964年の東京オリンピック後、日本人にも同じような現象が見られました。他の国においても同様です。ですから、これは中国のアウトバウンド観光の発展初期に見られる現象にすぎません。

現在、中国人の海外旅行者数は大幅に増加しているとはいえ、発展の初期段階であり、旅行者も成熟していません。旅行者の主流は北京や上海などの大都市の富裕層ではなく、中小規模都市の中流階級であり、ほとんどの中国人旅行者にとって海外旅行は初めての経験です。経験不足から常識を欠き問題を起こし誤解が生じます。

少数のメディアがそれを喧伝し、誤解は摩擦を生みます。良識あるメディアなら問題を正しく客観的に分析し、状況を説明し摩擦を除去するでしょう。これらの問題を派手に喧伝し摩擦を煽るべきではありません。

中国側はあらゆるチャネルを通じて中国人旅行者に的確な指導を行い、旅先でのマナーを教えるべきです。観光地でも中国語で注意喚起するなどすれば、旅行者に正確に伝わり、旅行者にとっても地元住民にとってもより良い体験を得られるでしょう。

両国の旅行業界においては、今後しばらく一連の成長の好機が続きます。今年は中日国交正常化45周年であり、明年は「中日平和友好条約」締結40周年です。2020年には東京オリンピックも控えており、日本政府はそれまでに訪日客4000万人の目標を掲げています。

2022年には北京で冬季オリンピックが開催されます。我々は中日の航空市場は今後も継続的かつ安定的な発展を維持するものと見ています。中国国際航空は微力ながら中日の友好交流に貢献したいと考えています。

 

日本は中国人旅行者の変化のリサーチを

—— 日本は「観光立国」を国策として、中国人旅行者を歓迎していますが、 中国人の「日本観光熱」に対する研究・対応については不十分と感じることがあります。その点についてはどうお考えですか。

馮力 私も、日本は中国人旅行者の変化をもっとリサーチする必要があると思います。彼らのニーズを把握してこそ、日本の観光市場の発展もあると考えます。

今のところ、中国人旅行者の変化にはいくつかの側面があります。第一に、客層が庶民にシフトしてきています。北京、上海、深圳といった大都市よりも、中小規模都市からより多くの旅行者が訪れています。

第二に、フリープランの趨勢です。これまでは大多数が団体旅行でしたが、海外旅行を経験するうちに、インターネットで攻略法を掌握し、ガイドブックを片手に個人旅行にやって来るようになってきています。

第三に、観光ルートの変化です。以前は東京から大阪へという所謂「ゴールデンルート」に集中していましたが、次第に地方へ移行しています。また、週末のレジャー観光の増加が上げられます。温泉にゴルフ、或いは単に和牛を食べるためだけというケースさえあります。

第四に、買い物熱の沈静化です。以前はショッピングを目的に来日する中国人旅行者が多く、日本のメディアは「爆買い」と称しました。ネット通販の発達や関税政策、中国製品の充実に伴い、ショッピングに熱中しなくなりました。

第五に、民泊への移行です。これまでは団体旅行は高級ホテル、個人旅行はビジネスホテルと決まっていました。ところが、ホテルの設備・環境は日本色に乏しく、多くの中国人旅行者が民泊を選択し、地方での体験を望んでいます。