大卒生の争奪戦勃発は人口ボーナスから人材ボーナスへ

浙江省の杭州電子科技大学に、新入社員募集のためにやって来た中国航空工業昌河飛機工業有限公司人事課の李貴光課長は、「10月でも遅くないと思っていたが、意外にも欲しかった電子情報、自動化、コンピューター科学技術の卒業予定者は、すべて他の企業にとられていた。もっと早く来ればよかった」と、ため息をついた。来るのは遅れたものの、同社は杭州電子科技大学で説明会を開き、さらに、後れを取り戻そうと、本領を発揮して、自社開発した飛行機のショーを同校で披露した。


大連理工大学で行われた合同就職説明会

人材争奪戦を繰り広げる企業

杭州電子科技大学で就職を担当する「招生就業処」の陸向華処長によると、「以前は、就職シーズンになると、大学の就職担当者が優良企業に、新入社員募集枠を広げるよう求めていた。しかし、近年は、大学に自ら訪れて、人材を募集する企業が増えている」という。

今年の秋、杭州電子科技大学では、杭州の企業のほか、上海や北京、深圳などの企業の説明会が前年比60%以上増となる500回以上行われる予定だ。

浙江理工大学でも、今年の秋は卒業予定者の争奪戦が繰り広げられている。同校の就職指導処の梁琳副処長によると、現在、大学にやってきて就職説明会などを開く企業のランクも規模も以前に比べアップしているという。

梁副処長によると、同校では現在、毎週説明会が50-60回行われており、以前は、企業の人的資源部門の責任者が説明に来ていたが、今は、企業の責任者が来るようになった。また、同校で週に1回開催されている合同就職説明会には、企業からの応募が殺到しているという。

現在、同校の就職情報専用サイトに登録している企業の数は1万社を超え、今学期、就職説明会に参加する企業は約1000社、合わせて1万987人を募集している。

クラウド就職プラットフォームの統計によると、今年1-9月期、企業が大学に提供する募集人数は例年に比べて大幅に増加している。例えば、通信エンジニアリングの分野では、湖南科技大学に企業が昨年提供した募集人数は計1905人だったの対して、今年は1-9月期だけでも、4421人に達し、前年同期比132.07%増となっている。その他、華南農業大学は182.24%増、長春工業大学は44.50%増、西安建築科技大学は32.03%増となっている。

また、大学で説明会を行う企業の数も大幅に増加している。西安建築科技大学では今年1-9月期に説明会を行った企業は1002社だったが、昨年は通年で646社だった。その他、南華大学は54.16%増、長春工業大学は44.98%増となっている。

多くの大学の就職担当者が、「企業が大学で卒業予定者の争奪戦を繰り広げている」と話す。クラウド就職プラットフォームの責任者孫柏さんによると、バックグラウンドを見ても、今年は企業が大学で行う説明会などの規模や回数が大幅に拡大、増加していることが分かるという。


合同就職説明会の会場でパンフレットを配る企業担当者

人口ボーナスから人材ボーナスの時代へ

専門家は、「各地が、各種人材を雇用するのに有利な政策を次々に打ち出しているほか、今年の秋は新入社員募集が大学で例年より早くから行われている。それは、昨年から始まった『人材の争奪戦』の延長であり、人口ボーナスが人材ボーナスに取って代わるようになっていることも反映している」と分析する。

杭州電子科技大学の朱沢飛学長は、「人材が欲しいという切実な願いもあるし、経済モデル転換に対する大きな期待もある。企業が早くから大学で人材を募集するというのは、国の政策、情勢の変化、地理的優位性、学校の方針などの要素が関係しているほか、中国の経済発展が伝統的な要素牽引型から、生産率牽引型へと転換していることを反映しており、新しい発展方式は、ハイレベルな人材を必要としているということだ」と説明する。

中国建設銀行の大学における新入社員募集を担当する陳永波さんは、「公務員試験を受けたり、大学院に進学したりする大学卒業者が増えている。そのため、就職市場では、需要に供給が追い付かない状態になっている。その他、多くの大学生が、3年生、4年生の時に、企業で実習を始め、卒業後もそのままそこに就職する。そのため、就職市場では人材不足が発生している」と分析する。

浙江大学中控人的資源部の責任者王斌さんによると、「企業は、自社にとって有用な人材の争奪戦を繰り広げている。専攻学科が希望と違っていたとしても、工科系、理科系の能力が高い学生は人気となる」としている。

長年、高等教育を研究している学者肖綱領氏は、「企業が大学で人材の争奪戦を繰り広げているということは、大学が高等教育の法則に基づいて教育を展開していることを反映しており、人材育成の供給側改革を促進する」との見方を示す。

取材では、大学卒業予定者の争奪戦が繰り広げられている分野は、チップ、人工知能、スマート装置、IT業界、新エネルギー、自動車のモノのインターネット、電子情報など戦略的新興産業に集中していることが分かった。

特殊な業界や学科で「争奪戦」が繰り広げられていることについて、肖氏は「大学は、その背後には、人材構造を調整するために短期的に人材不足が存在している可能性があることに留意し、教育への姿勢を一層引き締めて、専門分野以外の知識も持つ、特徴ある複合型人材を育成するようにしなければならない」と注意を呼び掛けている。

そして、「世界一流大学一流学科を構築し、『分類発展』を目指す理念が打ち出されているのを背景に、高等教育は、横一列の発展スタイルから、特色ある教育、分類した評価への転換が大勢となっている。大学は、教育理念を明確にし、その方向性をきっちりと定め、それに基づいて人材育成を実施しなければならない」と指摘している。