〈インタビュー〉
一つのことに集中することが最善の道
李 彦宏 百度CEO

第12期全国人民代表大会で登場した人物、百度の董事長兼CEO李彦宏。かつて彼は、自分は人に注目されるのが好きではないと語っていた。しかし、逆に彼に関心を持つ人はますます増えている。自分も彼と同様な成功を収め、あるいは似たような奇跡を起こせるのか?刻々と変化するニューメディアの時代に、どうやって新たなビジネスチャンスをつかみ、より大きな地盤を占めることができるのか。

 

両会で「法律撤廃」を提案

2013年の全国両会(全国人民代表大会、中国人民政治協商会議)で「新委員」に選出された李彦宏は、今回の両会で彼には2つの提案があると語った。

1つは公共の場所で無線でインターネットにアクセスする際、ユーザーの個人認証をしなくてもいいようにすることだと述べ、「ユーザーにもう一手間かけさせようとすれば、多分90%のユーザーは諦めてしまうでしょう。無線インターネットは空気のようにどこででもできるべきです」と語った。

もう1つは、民間企業の海外上場(VIE:変動持分事業体)の際の、投資やM&A、資格発行などの面での制限の撤廃に関する提案だ。彼は「VIEは十数年続いて来ましたが、この仕組みを作った当時とは環境が大きく変わっていて、現在、この時流にそぐわない規定で中国の民間経済の発展を制約するのは不合理だと思います」と語った。

政府活動報告について李彦宏は「この5年間でGDPに占めるR&D(研究開発)支出の割合が大幅に増えている点に注目しました。これは中国が革新の正道を歩んでいることを説明しています」と述べている。

インターネット界の奇跡

1999年の末、中国語の検索があまりにお粗末なのを見て、李彦宏は毅然として帰国し、起業した。その年、彼は29歳だった。十数年が過ぎ、現在李彦宏が率いている百度は従業員2万人以上を擁する、世界最大の中国語検索エンジンだ。こうして李彦宏は成功し、インターネット界の「奇跡」と言われるようになった。

彼が起業した当時、ベンチャー投資は100万ドル(約9440万円)もあればかなりのものだったが、現在ではネットベンチャーに対する投資には1000万ドル(約9億4400万円)は必要だ。

李彦宏は次のように語っている。「現在のネットベンチャーの企業環境は十数年前に百度や他のネット界の巨頭が起業したときに比べて格段に良くなっています。正に第一世代の数社のネット企業が登場し、成功したことによって、大量のベンチャー投資が呼び起こされたのだと思っています。チャンスという点で言えば、当時、大きなインターネット企業も含めて大多数の人々が検索を重視していませんでした。だからこそ百度にチャンスがあったのです」。

さらに、「同じように、今日では百度が重視していないことをやってこそ、チャンスがあるのです。創業後2~3年の会社が百度やテンセント、アリババと同じ事をやって、彼らに勝とうとしたら、あまり現実的ではないと思いますよ」。

そして、「百度が起業して13年間、私には焦らなかった時はありません。私は毎日、ライバルを負かすことではなく、どうやって百度をもっと発展させるかを考えていました」。

李彦宏は検索が世界中のインターネットの中で最善のビジネスモデルであり、検索は大いに稼げる事業だと率直に認め、次のように語っている。「私が最も関心があるのは、どうしたらユーザーに最善のユーザーエクスペリエンスを提供できるか、ユーザーをますます百度から離れられなくさせられるかということです」。

李彦宏には技術、ビジョン、胆力、自信があり、さらに危機感がある。すでに中国の検索市場の70%の市場シェアを持ちながら、彼は異常なほど冷静だ。彼は会社の従業員に狼(オオカミ)の文化を提唱し、次のように述べている。「私は百度の従業員に常に冷静であれ、常に情熱的であれ、常にハングリーであれ、といつも話しています。端的には『狼のように』という言葉を使っていますが、この言葉の意味はつまり、鋭敏な嗅覚を持ち、チーム精神を持ち、不撓不屈であるという3点です」。

李彦宏は言う。「百度がしっかりやりさえすれば、誰がライバルでも怖がることはありません。もしこの業界でナンバー1になれず、ナンバー2に甘んじたら、毎日が非常に苦しく、利益もほとんど出ないでしょう」。

百度の次なる一手

李彦宏はミニブログのアカウントを持っているが、そのアカウントはほとんど眠ったままだ。彼の言葉を借りると「私が発信しないのは私が他人から注目されたいと思わないからで、それ以上の時間を仕事、技術、製品に注ぎ込みたいからです」と、集中して1つのことに取り組めば、自分が決めた最善のレールから外れないですむ、と率直に語っている。

李彦宏によると、中国の6億人近いネットユーザーの約95%は百度のユーザーであり、百度は現在エジプト、タイ、マレーシア、ブラジルなどで現地の言葉でサービスを展開し、毎月3000万人以上のユーザーが百度を利用しているそうだ。

李彦宏は記者に「2013年は検索市場にとってとても重要な年です」と語った。何が重要なのか?

「今年はモバイルインターネットが大きく飛躍する年になります。2013年のモバイルインターネットは1999年にパソコンでのインターネットが飛躍したときと大変似ています。この時期に、もし百度がチャンスを捉えてすばやく簡単な検索というユーザーのニーズを満足させ、彼らの使い勝手をより高められれば、百度の地位は確固たるものになります。だからこの1年がとても重要なのです」

李彦宏は「人生には妥協しなければならなかったり、気を散らされたり、屈服したりすることがたくさんありますが、余分な回り道を避けることを学び、そのために全力を尽くすべきです」「心の内で本当に求めているものに従い、自分が最も好きで、他人より長じていることのために努力すれば、起業家としての途は退屈なものにはならず、成功に向かう可能性が芽生えるのです」と語っている。(敬称略)