ミニブログの実名登録制に4つの問い

「チャイナモバイル微博(ウェイボー=ミニブログ)は『北京市ミニブログユーザー普及管理規定』を遂行するため、身分証認証サービスを始めます。3月16日までにweibo.10086.cnで認証を行ってください」。多くのチャイナモバイルの携帯ユーザーは、2月7日こんなショートメールを受け取った。

この日午前中に行われた『北京市ミニブログユーザー普及管理規定』座談会の席上、北京市の各ネット管理弁公室の責任者は、市内の各ミニブログ運営サイトに対し、3月16日までにユーザーの正しい身分情報登録を行うよう求めた。身分情報照合がなされていないミニブログユーザーは書き込みや転載ができず、読むことしかできなくなる。

ミニブログ実名登録制のカウントダウンが始まった。

 この規定は公布後すぐに議論を巻き起こし、反対意見も多く出ている。

 

Q1 現在の進捗状況について

2011年12月16日、北京市は『北京市ミニブログユーザー普及管理規定』を発布し、初めてミニブログユーザーの個人登録情報には実名を使用する必要があるとした。実名登録制は公開の場では自由にネーミングできるが、バックグランドでは実名という方式だ。つまり、サイト運営会社には正しい身分情報を登録するが、ネット上では好きなハンドルネームを使用できる。

 その後、12月22日から騰訊(Tencent)など広州と深?の7つのミニブログ運営サイトもユーザーの実名登録制を実施した。

 現在までに、新浪ミニブログは累計300万人の新規登録ユーザーの身元照合を行った。以前からのユーザーの中で認証されたミニブログ名人は40万人に、ミニブログ達人は500万人に達した。

捜狐サイトの名人とプレミアムユーザーは認証がほぼ終了、網易ユーザーの実名認証率も25%を超え、騰訊ミニブログの規定公布後の新規ユーザーはすでに身分認証が終わった。

 ミニブログの身分情報はどのように認証されるのか。網易ミニブログによると、ユーザーは実名と身分証番号を入力し、マッチング検証を経て認証される。ミニブログサイト運営各社の認証システムは、中国公安部の専用ライン(公民身分証番号レファレンスサービスセンター)により検証される。

 また、企業と機関のオフィシャルミニブログは、登録の際すでに営業許可証等の証明が提出されており、新規の企業、機関のミニブログもこの方式が引き続き用いられる。

 現在、各ミニブログサイトには多くの海外ユーザーがいるが、彼らには身分証がない。これらのユーザーに対して、網易は専用のルートを用意し、現在専用ラインによるコミュニケーションやユーザー情報確認方式を準備中である。

 実際には、ネットユーザーの自発的認証を奨励するため、各ミニブログサイトでは一連の奨励対策を打ち出している。

捜狐ミニブログでは「身分認証を急ごう」キャンペーンを行い、2000万元分の捜狐動画カードと100万元の携帯チャージカードを提供した。網易ミニブログもユーザーの認証奨励のため、網易限定品のプレゼントを贈った。

 中国社会科学院新聞・伝播研究所の伝播学研究室主任である姜飛副研究員は、「中国がインターネット環境浄化の目的から提案した実名登録制は、国際慣例に照らしたものであり、中国のインターネットの現況に適応したものである」としている。

 

Q2 実名登録制はミニブログ発展の停滞を招くか

2011年12月16日、「ミニブログのナンバーワンプラットホーム」である新浪の株価は一時11%下落、今年2月7日にも新浪の株価の下落幅が6.72%となった。株価下落は、実名登録制の管理リスクを投資家が憂慮したため引き起こされたという声も出た。

 もちろん、2月16日以降に新浪の株価が大幅に反発したため、違う見方をする声もある。

 騰訊ミニブログの関係者は取材時に、ミニブログの発展に対し実名登録制は大きな影響は及ぼさないとしている。

 中国最大手の情報サービス企業である易観(Analysys International)のアナリストである董旭氏は、「インターネットに対する実名登録制の真の影響は、政策の施行状況によって決まる。実名登録制の施行方式が、業界の将来的な発展への影響についての重要な判断基準となる」とし、「たとえミニブログの実名登録制がユーザーの発言にある程度の影響を及ぼすにしても、長期的に見れば、ミニブログという媒体の営業的な価値とユーザーの自主規制の向上には有利に働く」と言う。

 DCCIインターネットデジタルセンターの胡延平総裁は、ミニブログの実名登録制は電子商取引にとってチャンスだとして、「電子商取引の進展状況から考えると、正式の身分認証はネットユーザーの相互信頼を高め、コストを下げ、取引の効率を上げて、業界全体の成長を促進させるのにプラスに働く」と見ている。

 もちろん、今までミニブログに発生していた「死に体フォロワ―」(動きのないミニブログユーザーのこと。有名人ミニグログのフォロワ―数を増やすためにネット会社が勝手に登録する)やミニブログ上での誇張したPRなどに対しては、大きな打撃となるだろう。

 多くのネットユーザーは、ミニブログ実名登録制は「死に体フォロワ―」やサクラの減少、ミニブログを使った悪質な営業活動を抹殺するのに有効であり、健全なインターネット環境の構築にはプラスになるとしている。

「こういった『水軍』(サクラ)や『複数ユーザー名の使用』は無視できないレベルに達している」と、ハンドルネーム「特立独行」さんはいう。そして、「わいせつな内容、でっち上げ、他人にぬれぎぬを着せたり、別人になりすましたり、という動きも減るのでは」と。

 インターネット実験室董事長の方興東氏は、「インターネットの発展そのものが実名化の過程」だとし、「掲示板やポータルサイトからブログへ、そしてミニブログ、SNSへ、インターネットはますますユーザーの本当の身分と結び付く」と言う。

 

Q3個人情報の保護と言論の自由は保障されるのか

 「ミニブログの実名登録制で、個人のプライバシーが漏れたり利用されたりするのではないか」と、多くのネットユーザーは、実名登録制度のもとでの個人情報の保護に懸念を表明している。以前、韓国で個人情報が漏れた事件があり、昨年末には中国でもネットユーザーの口座番号が漏えいしたことから、不安が高まっている。

 「韓国の教訓から、問題は実名登録制そのものではなく、サイトに身分証などの情報を残すことにある」と方興東氏は言う。そして、「サイトは検証のための入り口に過ぎない。本当に重要な情報は、公的信用制度をもつ政府機関が検証したほうがよい」と指摘する。

 姜飛氏も「ユーザーの個人情報がインターネット上で大量に盗まれたり、漏れたりすることを防ぐということを口先で保障するだけでなく、技術と論証が必要であり、確かな根拠を示さなければならない」と強調する。

 これに対し、網易ミニブログはユーザーの認証情報に対しては、留保も保存もせず、本物の身分認証情報の照合と確認を行うだけだとし、「当社は認証の通過ルートに過ぎない」と強調している。捜狐、騰訊などのミニブログサイトもミニブログのプラットホームにはユーザーのいかなる情報も留めないことでユーザー情報の漏えいを防いでいるという。

 「われわれは気軽に発言できるのか。言論の自由は保証されるのか」という一般ユーザーの多くの声がサイトに書き込まれている。実名登録制の実施により自由に発言できなくなるのではないかと心配するユーザーは多い。

 姜飛氏はこう直言している。真に社会問題を追及する人たちは「問責」を恐れて発言しなくなるかもしれない。しかし、ミニブログの草の根的な性格やスピーディーさ、相互連動性は、良いメカニズムのもとで最大限に発揮され、人々の声をさらに多元的に真実へと変化させることができる。責任感、公共心と権利意識も大きく発展するだろう。

 清華大学新聞・伝播学院の郭慶光教授も、バックグランドは実名で、ネット上では匿名という規定は、世論および実名登録制がミニブログの管理機能を阻害しないように考慮したものだとしつつも、同時に、公安局、検察、裁判所などの機関によって、事件の調査時に個人情報にアクセスできる以外、一般には無関係な個人や機関、企業は調べる権利がなく、個人情報保護については非常に厳格に規定すべきであると強調している。郭教授は「個人情報を保護する規定を関連規定の中でさらに充実させるべきである」と提言している。

 

Q4実名登録後にどう推進するか

 ミニブログの実名登録制は情報の保護、政府の管理、ミニブログ運営企業に対する大きな挑戦である。

 「今後、管理メカニズム等は以前よりかなり複雑になるだろう」と人民網輿情監測室(世論観測室)の単学剛副秘書長は言う。「ミニブログをうまく管理するには、社会全体で注目する必要がある」。

 ミニブログの運営企業が持続的に成長していくには、常に新製品を開発し、サービスを改善し、ユーザーの受け入れレベルを向上させることだと、董旭氏は言う。

 「人々に徐々に受け入れてもらう過程により、ミニブログの実名登録制は軟着陸を果たせる」と、姜飛氏はミニブログの「自浄化のメカニズム」がもしネットユーザーの責任感と自律意識を樹立できなければ、外部のメカニズムの設置によって目標を達成するということが理解され、受け入れられると言う。しかし、「自律」はネット管理の核心であり、将来人々の自律意識が十分に強くなった時には、過剰な外部の管理はもう必要なくなるだろう。

 郭慶光氏も、ネットユーザーの質の向上に伴って、社会的な責任感や自身の情報発信責任の理念が徐々に形成され、管理や政策は調整されるであろうとしている。

 また方興東氏は、もし政府、社会、業界がこの機に協力してメカニズムを立ち上げるのであれば、中国のインターネットの長期的な発展に対する意義は大変大きいと見ている。

 

リンク

世界各国のインターネット実名登録制度

米国: 世界最大のSNSであるFacebook、インターネット界の巨頭・グーグルが新たに打ち出した「グーグル+」というSNSも厳格な実名登録制を実施している。

英国2011年8月29日のニュースによると、英国政府はツイッターを実名登録制SNSに変更することを検討している。『ニューヨークタイムス』紙によると、ツイッター実名登録制は英国政府がSNS犯罪をいかに抑制するか、民意を広く募った上で提案されたものである。

ドイツ現在、政府はブログなどのSNSサイトに対して実名登録制による管理を求めていない。しかし、ハンス・ペーター・フリードリヒ内務大臣は「インターネット実名登録制」の構想を打ち出し、世界のインターネットはすべて「明瞭で、真実で、信頼できる」ものであるべきだとしている。

韓国韓国は、初めてインターネットの実名登録制を強制的に推し進めた国である。しかし、大規模な情報漏えい問題により、実施して5年が経過したこの措置も取り消される可能性がある。

日本日本では、行政によるインターネット実名制の実施をまだ決めていない。しかし、IPアドレスの登録と携帯の実名登録方式により、日本ではすでにインターネット実名登録制が事実上、静かに普及している。