感染症による経済打撃はコントロール可能か

春節(旧正月、2020年は1月25日)の連休が延長され、企業の業務再開が遅れたなどの要因が積み重なり、工業経済は非常に大きな打撃を受けている。2020年第1四半期(1-3月)の中国経済産業景気指数は92.2で(2015年の成長水準を100とする)、2019年第4四半期(10-12月)より9.6ポイント(p)低下し、低下幅は比較的大きかった。また工業経済に関わる主要指標も軒並み大幅に低下した。


営業を再開した遊園地

一方で、工業の生産とニーズがどちらも目に見えて減少した。突如発生した新型コロナウイルスの影響により、企業の正常な生産活動が大幅に減少し、これに物流の停滞が加わって、工業の半製品の供給が断絶し、生産サイドは大きな打撃を受けた。第1四半期の一定規模以上の工業企業(年売上高約3億円以上の企業)の付加価値額は前年同期比8.4%減少したのに対して、前年同期は6.5%増加した。全国の工業生産能力利用率は67.3%で、同8.6p低下した。同時に、海外企業からの受注がキャンセル、減少、延期された影響で、工業ニーズが大幅に減少した。1-2月の一定規模以上の工業企業の売上高は同17.7%減少したのに対して、前年同期は3.3%増加した。第1四半期の製造業購買担当者景気指数(PMI)のうち新規受注指数の中央値は44.2%、新規輸出受注指数の中央値は41.3%で、景気不景気のボーダーとなる50%を大きく下回った。また一方で、工業企業の利益が目に見えて減少した。生産販売の落ち込みと防疫コストの増大の挟み撃ちで、企業の利益が目に見えて減少した。1-2月の一定規模以上の工業企業の利益総額は同38.3%減少し、41の工業大分類のうち37分類は利益が減少し、工業企業の経営が、とりわけ中小工業企業の経営が困難に陥った。

新型肺炎は工業経済に目に見えるネガティブな打撃を与えたが、対策が実際に効果を上げるにつれ、企業の生産再開は足並みをそろえて秩序よく推進されており、工業経済はこれから正常な水準を急速に回復し、通年の経済に与える感染症の影響はコントロールが可能と予想される。その根拠として次の4点が挙げられる。

第1に、過去のデータをみると、第1四半期のデータが通年データに与える影響は大きくない。春節前後の20日間前後は、企業の生産がそれほど活発ではなくなるので、第1四半期の工業付加価値額が通年付加価値額に占める割合は大きくなく、第2四半期以降に補填するチャンスがたくさんある。第1四半期の工業付加価値額が通年に占める割合は20%前後で、通年の付加価値額への打撃はコントロール可能だ。

第2に、中国工業経済には強い強靱性と自己修復能力がある。中国には整った工業システム、強大な産業配置能力、十分な労働力、厚みのある人的資本の蓄積がある。同時に、中国には14億人の人口を擁する巨大な市場があり、消費能力と消費のポテンシャルは非常に高く、中国の工業経済が十分な強靱さを備え、高い弾力性をもち、強い自己修復能力を有し、短期的な打撃に耐え抜いた後で急速に回復することを可能にする。41の工業大分類をみると、3月には37分類の生産が1-2月より加速したか、低下幅が縮小し、16分類の付加価値額が前年同期より増加した。主要工業製品をみると、約40%は生産量が前年同期より増加した。

第3に、工業の新たな原動力が流れに逆らって成長し、経済下ぶれのリスクを部分的にヘッジした。工業経済は感染症の打撃を大きく受けたが、工業の新原動力は引き続き急速な成長傾向を示し、経済下振れリスクを部分的にヘッジし、工業経済のモデル転換高度化と産業チェーンのミドルハイクラスへの躍進を牽引した。新たな産業をみると、3月にはハイテク製造業の付加価値額が同8.9%増加し、電子産業は同9.9%増加した。新製品をみると、3月にはスマートウォッチ、3Dプリンター、集積回路のシリコンウエハー、サーバー、ディスクリート半導体などの電子類製品は引き続き高度成長ペースを維持し、前年同期に比べていずれも60%以上増加した。同時に、中国の一部ハイテク産業への投資が引き続き急速に増加し、生産要素がモデル転換高度化の方向性に合致した産業へと集中しつつあり、新たな経済成長源が育成されエネルギーを蓄えている。第1四半期には、ハイテク製造業のうちバイオ医薬品製造業への投資は同15.1%増加し、コンピューターOA機器製造業への投資も同3.2%増加した。

第4に、生産再開を後押しする政策が実施されて目に見える効果を上げ、市場の信頼感も目に見えて改善した。感染症が経済に与える大きな打撃に対処するため、政府はターゲットを絞った預金準備率引き下げ、減税費用削減、家賃の減免といったカウンターシクリカル(反循環的)な調整政策を実施し、企業の問題解決に、とりわけ中小企業の問題解決に尽力し、感染症の打撃がもたらした業務減少や防疫コスト上昇などの圧力をある程度リスクヘッジし、企業の存続と正常な操業を確保した。同時に、特定債権の発行に力を入れ、特例国債を発行し、5Gネットワークなど新たなインフラの建設推進に力を入れ、消費高度化を喚起する政策を打ち出して、これから工業の完成品中間財の需要を喚起し、市場の期待と発展への信頼感を改善しようとしている。市場経営活動期待指数は2月は目に見えて落ち込んだが、3月は急速に回復して54.4%に達し、ボーダーの50%を上回った。

以上をまとめると、感染症の打撃を受けて、第1四半期の工業主要指標は軒並み低下したが、この打撃は短期的なもの、外在的なもの、そしてコントロール可能なものだ。また大きな打撃は主に第1四半期に集中し、第2四半期への打撃は目に見えて弱まるとみられる。中国経済はすでに最も困難で、最も苦しい時期を乗り越えた。政府のカウンターシクリカルな調整政策が実施されて効果を上げ、企業の生産が順調に進むにつれて、工業経済は急速に正常な生産水準に戻るだろう。