中国で加熱する「ファン経済」

「ファン」という語はアイドルの登場と共に出現し、中国でも長年使われて来た。そして、インターネットが急速に発展するにつれ、今ではアイドルの追っかけ以外の分野でも使われるようになっている。例えば、微博(ウェイボー)や微信(Wechat)の公式アカウント、ネットショップなどのフォロワーも、中国では「ファン」と呼ばれている。「ファン」の出現は、社会現象でなく、経済現象にもなっている。


2016年オリンピックで競泳女子100メートル背泳ぎの銅メダルを獲得した傅園慧選手

インターネットショッピングモール天猫の「フォロワーカーニバル」を例にすると、フォロワーの平均購買力が、非フォロワーを約30%上回っている。また、各ブランドのオンラインマーケティングによる、コンバージョンレートは、フォロワーが非フォロワーの5倍になっている。

2016年オリンピックで競泳女子100メートル背泳ぎの決勝進出を決めたレース後のインタビューで「力を出し尽くした」と話す傅園慧選手の動画やスクリーンショット画像がここ数日、微信のモーメンツを埋め尽くしている。そして、傅選手が決勝で銅メダルを獲得すると、その人気はさらにアップ。傅選手の微博アカウントのフォロワーは数十倍の400万人超えを記録し、プラスのエネルギーを与える新「ネットアイドル」となった。

オンラインショップ淘宝網のショップオーナーらは、これをビジネスチャンスと見て素早く反応し、同サイトでは傅選手のSNSスタンプや傅選手と同じゴーグル、スイムキャップなどが登場した。また、傅選手のファンは、彼女をすぐにイメージキャラクターに採用するよう、各メーカーなどに「推薦」している。さらに、傅選手がイメージキャラクターとなった場合のチョコレートやスポーツドリンク、スポーツウェアなどの想定広告画像を自作してしまうファンもいる。これらファンらは、ファン経済意識が強く、アイドルとビジネスを結びつけようとしている。

ファンの経済エネルギーはどれほど大きいのだろうか。阿里巴巴(アリババ)の靖捷副総裁は、「天猫の年間取引額は既に1兆元(約15兆円)を超えている。2兆元(約30兆円)に到達するには、『ファン経済』の力が必要。今年の『天猫6•18フォロワーカーニバルファン』の統計によると、フォロワーの平均購買力が、非フォロワーを約30%上回っていた。また、各ブランドのオンラインマーケティングによる、コンバージョンレートは、フォロワーが非フォロワーの5倍になっていた」と話す。

過熱する「ファン経済」とは一体どんなものなのだろうか。中国社会科学院社会科学評価センターの荊林波センター長は、「ファン経済は決して神秘的な存在ではない。消費者の注意を引き、忠実なフォロワーになってもらい、商品やサービスの宣伝、購入に参加してもらうというのが『ファン経済』。従来のビジネスとなんの変りもない。ただ、モバイルインターネットが登場し、フォロワーの獲得が容易になり、フォロワーが急増。関係する分野も広くなり、宣伝にかかるコストも下がった。これらの現象は、従来のビジネスにはなかったこと」と説明している。

インターネット時代である今、アイドルを追っかけでなくとも、微博や微信の公式アカウント、ネットショップなどのフォロワーになるだけで、その「ファン」になることができるのだ。そのため、現在、ファン経済は多分野で人気となっている。

娯楽をビジネスにするアイドルファン経済の形式もさまざまだ。

新アイドルファン経済のスタイルも多様化している。例えば、90後(1990年代生まれ)に大人気のアイドルグループSNH48のファンは、コンサートのチケットや写真や文房具、応援グッズなどの関連商品のほか、握手券や選抜総選挙の投票権なども購入できる。ニューアルバムを購入すると、握手券が1枚ついており、個別握手会でかわいいアイドルと10秒握手できる。268元(約4000円)のアルバムを買うと投票券が3枚、1680元(約2万5000円)のアルバムを買うと投票券が48枚付いており、このような方法で高いアルバムを購入するようファンを刺激している。


90後(1990年代生まれ)に大人気のアイドルグループSNH48

コンテンツを売りにする個人メディアのファン経済も加熱中だ。イケメンやかわいいアイドルだけでなく、ネット上では現在、個人メディアで多くのファンを獲得する達人が出現している。例えば、羅振宇さんは、個人メディアであるトーク番組『論理的な思考』を展開し、毎日工夫を凝らして哲理を語り、3年の間に600万人以上のファンを獲得した。羅さんはアイドルではないものの、そのファンがもたらす利益は決して軽視できない。同番組の1回目の会員応募では、5時間で160万元(約2400万円)、2回目は24時間で800万元(約1億2000万円)を得た。

商品を売る各メーカーも「ファン経済」を利用して売上を伸ばしている。日用消費財であるビールは、多くの消費者がセールを行っているブランドの商品を買う傾向にある。しかし、「天猫6•18フォロワーカーニバル」では、値段の割引はなかった映画ウォークラフト版の「青島ビール」の販売量が3万リットルを超え、青島ビールのオンラインショップの販売総額の45%を占めた。

サービス提供して利益を得るファン経済は、ユーザーのニーズに的を絞ると効果的だ。微信の公式アカウント「餐飲老板内参」は、フォロワー87万人を集めており、その7割以上が飲食業界の店長だ。公式アカウントの創始者である、微信の秦朝首席執行官は、「公式アカウントを通して、特定の内容を発信し、特定のグループを集めれば、フォロワーやユーザーに的の合ったサービスを提供できる。また、フォロワーやユーザーの実際のニーズを研究し、的を得た教育研修、融資ローン、商業PRなどのサービスを提供できる」と説明する。「餐飲老板内参」がその典型で、1000万元(約1億5000万円)単位の融資を2度受け、合計額は1億元(約15億円)を超えていると見られている。