中国に債務危機は存在するのか

現在、中国の債務問題が世界で注目されている。中国の債務の水準は高く、危機は存在しているのだろうか。これについて、中国社会科学院の学部委員で、国家金融・発展試験室の理事長を務める李揚氏が6月15日、中国国務院新聞弁公室が開催した記者会見で、「2015年末の時点で、中国の債務残高は168兆4800億元(約2584兆1300億円)で、社会全体のレバレッジ比率は249%。中国政府の債務はコントロール可能な範囲で、中国には債務リスクに対応するための十分の資金がある」ことを理由に「債務危機は存在しない」と強調した。


中国社会科学院の学部委員・国家金融・発展試験室の理事長を務める李揚氏

中国の債務の水準は高いか

同試験室の研究によると、15年末の時点で、中国一般市民の債務率は約40%、金融機構の債務率は約21%、政府の債務率は約40%となっている。

李氏は、「このような債務の水準は、世界的に見ても高くない。中国政府の債務はコントロール可能な範囲だ。15年末の時点で、予算管理に盛り込まれている中央政府と地方政府の債務は合計26兆6600億元(約408兆9100億円)で、国内総生産(GDP)に占める割合は39.4%。地方の融資プラットホームの債務を加算し、多めに見積もったとしても、政府債務の水準は56.8%。欧州連合(EU)の警告ライン60%を下回り、主要なエコノミーや新興国の水準も下回っている」との分析を明らかにした。

専門家によると、現在、日本政府の債務は200%以上、米国は120%以上、フランスは約120%、ドイツは約80%、ブラジルは約100%だ。

市場で広く懸念されている、地方政府の債務問題について、李氏は、「地方政府の返済能力の有無を見て、債務率指標で測らなければならない。債務率が100%以下なら返済可能だ。15年、中国の地方政府債務率は89.2%で、世界的な警戒線を下回っている」との見方を示した。

また、「現在、中国の債務問題のほとんどは、企業に集中しており、その問題は注目するに値する。15年末の時点で、非金融企業の債務率は131%。融資プラットホームの債務を加算すると、非金融企業の債務率は156%まで増加する。うち、国有企業の債務率が占める割合が比較的高い」と明らかにした。

中国に債務危機は存在するか

中国で債務危機が発生する可能性については、債務だけでなく、資産も考慮に入れなければならない。李氏は、「中国は債務リスクに対応する十分な資金がある。そのため債務危機が発生する確率は低い」との見方を示した。

社会科学院の研究によると、多めに見積もったとしても、14年の中国主権資産は計227兆3000億元(約3486兆3100億円)、主権負債は124兆元(約1901兆円)で、純資産は10兆3000億元(約157兆9800億円)ということになる。また少なくめに見積もり、行政事業機構の国有資産を差し引き、14年の土地使用料を国土資源性資産として計算した場合、中国の主権資産は152兆5000億元(約2339兆300億円)まで減少し、主権純資産は28兆5000億元(約437兆1300億万円)となる。

李氏は、「大規模な債務違約が発生しても、中国には十分な資財がある。国民経済に大きな悪影響をもたらさずに、解決できる」との見方を示した。

また、中国の高貯蓄率も、債務問題を解決する上で大きな追い風となる。中国は毎年、GPDの50%に相当する貯蓄を投資に転化しなければならない。貯蓄を投資へ変換すると、ほとんどが国内債務となる。高貯蓄率は、中国が自分の力で債務問題を解決するためのサポートとなる。

この他にも、多くの国と異なり、中国の各級政府の負債は主に投資に充てられている。「そのため、巨額の債務と対応し、中国の地方政府は大量の優良資産を有しており、それら資産が今後の返済において信頼できる保障になる。そして、中国で債務危機が発生する可能性を大きく下げる」と語った。


6月15日、中国国務院新聞弁公室が開催した記者会見

債務問題をどう処理するか

このほど、中国の銀行業の不良債権率が上昇し、債券市場で、契約違反を犯す企業も現れている。この点について、李氏は、「債務問題のコアとなるのは、不良資産を処理すること。本質的には、過去の急速な成長が残した『実体を伴わない部分』を取り除くこと。不良資産とは、実体経済においては過剰生産能力や多すぎる在庫に当たるので、そのバランスを取ることと、生産能力や在庫を抑えることは密接な関係がある」との見方を示した。

そして、「中国企業の債務は主に、国有企業のものであるため、債務問題の処理と国有企業の改革には密接な関係がある。債務問題の処理は、中国の市場化と法制化の構築とも密接な関係がある。M&A、再編、債務の株式化などの方法を通じて、合法であることを前提に、市場化の手段を十分に活用して進めるべきで、1枚の文書で解決できるものではない」とした。

また「債務問題を解決するためには、不良資産の解決や国有企業の改革、金融機構の改革など、さまざまな角度から考慮しなければならない。財政当局や金融監督・管理当局、発展改革委員会、銀行などが、各自の力で解決できるものではなく、共に協力して努力し、過去数十年の高度成長期に蓄積された問題を解決することで、今後の発展のために良い基礎を作らなければならない」と強調した。