ジニ係数5年連続低下でも生じる疑問
所得格差の解決に本気で取り組む中国

先日、中国国務院は改革委員会、中央機構編制委員会、財政部、人力資源社会保障部などの21の部門で構成された所得分配制度改革合同会議制度の確立を表明し、所得分配制度改革の各プロジェクトを計画した。専門家によると、中国のジニ係数は5年連続で低下しているが、所得格差の明らかな改善は見られない。格差問題は社会論争を引き起こし、所得格差を縮小することが目下、改革が乗り越えるべき「壁」となっている。今回の合同会議制度の確立は、所得分配改革が実質的な一歩を踏み出したことの表れで、今後は改革の歩みも加速していくかもしれない。

 

 

所得格差が依然警戒ライン

中国経済は過去30年間急速に成長し続けており、国内総生産(GDP)が世界第2位に躍り出ただけでなく、国民の所得も増え続けている。現在、1人当たりのGDPはすでに6700米ドル(約67万円)に達した。世界基準で見れば、中国はすでに中高所得国の仲間入りをしているはずだが、中国社会には全体的に人々の所得はそれほど高くないという空気が漂っている。

「1人当たりのGDP水準は、中国が相対的に豊かになったというだけで、国が富裕であるからといって、すべての国民に富裕をもたらすとは限らない」。そう語る蘇海南・中国労働学会副会長は、「1人当たりのGDP所得が中の上の水準だからといって、国民の平均所得が必ずしも中の上の水準というわけではない。この2つは密接に関係し合うが、もしうまく処理しなければ、「国富民貧(国家は富み、民衆は貧しい)」もしくは人口1人当たりの所得は比較的高いのに、実は所得格差が大きかったという状況もあり得る」との考えを示した。

中国国家統計局が発表したデータによると、2013年全国所得ジニ係数は0.473で、過去5年間ジニ係数は少しずつ低下している傾向にあるが、世界基準で見ると、0.4は依然として所得格差が大きすぎる警戒ラインとして認識されている。

経済学の理論によれば、国家の対外開放の程度が高いほど、国際貿易収入も高くなり、労働所得も増える。しかし実際には、中国労働者の所得割合は減少している。統計によれば、全国民の所得において、政府収入と資本所得の割合が増加し、労働所得は減少している。この傾向は現段階でまだ改善されていない。

 

改革で経済の原動力に

事実、所得分配改革は、これまでずっと数々の改革の中の「難物」だった。2004年に初めて所得分配改革草案の提出を行ったが、2013年にようやく国務院は『所得分配制度改革に関する若干意見』を発表、10年も引き延ばされてきた所得分配改革がようやく軌道に乗ることになった。

10年にわたる所得分配改革が遅れている背景として、各方面の利益が複雑に絡み合っており、小さな動きが全体に影響することがあげられる。

北京師範大学所得分配研究院執行院の李実氏は「所得分配制度改革は、複雑で困難なプロセスである。経済発展と密接に関係し合うだけでなく、政治体制改革とも、とても大きな関係がある問題であり、多方面にわたる利益再分配にもかかわってくる。特に各政府部門にかかわるとなると、改革はより難しくなる」と述べた。

中国改革基金会国民経済研究所の王小魯副所長は「ここ何年か所得格差問題は幾分かよい方向に向かっているが、全体の所得分配構成は根本的に変わっていない。反腐敗が所得格差を縮小させるのに役立つとはいえ、一番大事なのはやはり体制改革」と指摘する。

商務部研究院消費経済研究部の趙萍副主任は、「所得分配改革の推進は、必ず実行すべきで、国民の所得増加減速問題を解決でき、貧富の格差を縮小できる。その一方で、所得分配改革は、経済のモデルチェンジと長期発展に対しても重大な意義を持つ。所得が上がり、国内需要が拡大し、消費を促してこそ経済の原動力となる」と意見を述べる。

 

分配制度の改革は待ったなし

今回国務院は、所得分配制度改革と合同会議制度の確立を表明した。去年の『意見』発表に続き、再び所得分配改革分野に与えられた「刺激剤」となる。

蘇海南氏は「これは、改革が実質的に第一歩を踏み出したことを示し、合同会議制度のもと、所得分配改革もスピードアップするかもしれない」と言明。その上で、「所得分配改革は改革財税体制、報酬分配制度、農村分配制度、社会保障体制および経済社会体制のその他多くの方面にもかかわり、合同会議制度の確立は幹部の結びつきを強化し、組織を健全なものにし、それぞれの認識を統一し、政策制度を着実なものにする役に立つ」との考えを示した。

李実氏は「今、所得分配改革の希望が見えており、これから数年、改革の力は絶え間なく大きくなる」と述べ、さらに以下のように考える。

「所得分配制度改革の任務をよりよく執行するために、以下の3つの方面から取りかかる必要がある。まず、中央機関はより大きな政治的決意をもち、改革中の障害を減らすこと。次に、所得分配制度改革が未来の中国経済発展の安定に重要な働きをすることを意識すること。最後に適切で実行に移し得る施策を公布する必要がある」。

李実氏は、「改革の方向から見れば、所得分配制度と反腐敗、政府体制の改革を強力に結びつけるべきだ。今現在、社会は高所得の人たちに対し不満を抱えているが、その不満の出所は主にどこから得たのかわからない収入だ。もし反腐敗と所得改革が結びつけば、より大きな推進力となる」と指摘する。

 

 

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ジニ係数(Gini Coefficient)

ジニ係数は、イタリアの経済学者コッラド・ジニ氏(Corrado Gini,1884-1965)が1922年に考案した定量化により所得分配の不平等さを測る指標である。係数の範囲は0から1までで、その値が0に近いほど所得分配が平等で、逆に数値が1に近いほど所得分配が不平等であることを意味する。国際標準によると、ジニ係数が0.4を超えると、所得格差が大きく、ジニ係数が0.6以上だと所得格差がかなり大きいことを示す。