政策の制定とコア技術の研究で待たれる大規模海水淡水化の時代
淡水化した海水はいつになったら庶民の家庭へ?

6月26日、青島市政府は完成した中国国内最大の海水淡水化プロジェクトによって生み出された水が市内の水道水給水ネットワークに組み込まれて市民の家庭に届けられること、青島市が国家海水淡水化のモデル都市、国家海水淡水化設備の製造基地、世界的な海水淡水化設備製造の中心になるべく努力していることを対外的に発表した。

これより前、北控水務集団の関係部門責任者は「大型海水淡水化プロジェクトの核心的技術を全面的に掌握しており、3年から5年後には河北省唐山地域に位置する曹妃甸海水淡水化プロジェクトは日産能力100万トンに達する。淡水化された渤海の水は270kmの送水管を通じて北京に運ばれ、北京市の人口の3分の1の水需要を毎日まかなって、カラカラの北京に福音をもたらすだろう」と語っている。

しかし、2011年末まで、中国の海水淡水化事業の日産能力は累計でわずか70万トン前後だった。現在中国最大の海水淡水化プロジェクトで1日に淡水化できる量はわずか10万トンだ。淡水資源の乏しいイスラエルにある世界最大の海水淡水化運営施設の生産能力は1日50万トンであり、これ以外にもサウジアラビアでは現在日産60~70万トンのプロジェクトを建設中だ。曹妃甸海水淡水化プロジェクトは現在世界中で建設中の海水淡水化工事としては最大のものと言えるが、この100万トンクラスという数字の背後で、いったい何を試みようとしているのか? 中国の海水淡水化は「大規模化」の時代を迎えることができるのだろうか?

 

1.科学的論証で適切な海域を選択

淡水資源に恵まれない都市にとって海水の淡水化は望ましいが、その選択にはその都市が位置する環境などの影響や、水源となる海域との距離などの要因を総合的に勘案しなければならない。例えば、曹妃甸海水淡水化プロジェクトの実施と、北京への送水は以下の2つの要因に基づいて決定された。

第1は地理的な優位性。曹妃甸が位置する付近の海域は海流の影響を受けた清潔な海域に属しており、渤海湾のその他の海域より水質が優れている。さらにこのプロジェクトで利用するのは海面下15mの海水だ。海面の表面からではなく、海面下から取水することを選択したのにはそれなりの理由がある。北京賽諾水務の張松建テクニカルディレクターの説明では、海面の表面からの取水は満潮時と干潮時の潮位差を利用するもので、方法としては簡単だが、汚染物や微生物が多く、水質も劣り、前処理が複雑だ。海面下からの取水はそれより難しいが水質は良く、前処理の工程も簡単だ。これらのメリットを総合すると、曹妃甸海水淡水化プロジェクトによって得られる淡水の水質は安全が保障されており、国が要求する106項目の飲料水水質検査基準を満たすだけでなく、一部の指標は国の基準を超えてさえいる。

第2は曹妃甸では海水淡水化により生じる残留物を総合的に利用することだ。ここでは海水淡水化後に生じた濃縮海水は唐山の三友加工股?公司に送られて再処理され、アルカリなどの鉱物質を取り出してリサイクルされる。今後はこのプロジェクトにより生じる濃縮海水はすべて回収されて、半ば閉鎖された形状のため海水の入れ替わりに難がある渤海湾の環境負担を軽減することになる。

 

2.肝心な設備は輸入頼み

近年、中国の海水淡水化は政策面、技術面でいずれも重大な障害をクリアしてきた。特に「核心的技術を全面的にマスターした」曹妃甸海水淡水化プロジェクトは出色だが、同時にはっきりと認識しておかなければならないのは、中国はこの分野でのスタートが遅く、発展のスピードも相対的に遅かったため、他の国とは大きな差があるということだ。

中国国家発展改革委員会の関連計画は、中国の海水淡水化の鍵となる技術研究は万全ではなく、革新的設備の開発も十分ではなく、革新的技術に関わる特許権も乏しいと指摘している。統計では、海水淡水化に関連する中国国内の756の特許のうち、中国が知的財産権を有するものはわずか15%のみだ。これはある面では中国がこの分野でポイントとなる設備である水膜抵抗体やエネルギー回収装置などを主として輸入に頼っており、極端な場合は国外の逆浸透膜製品が中国国内市場の90%を独占するという惨めな局面が生まれている。別の面から見ると、中国が主導的に海水淡水化工事を進めるという能力がかなり奪われていることになる。

統計によると、中国国内の工事の半分以上は国外の会社が主導的に請け負ったものだ。現在、中国が海水淡水化分野で直面している国際競争は日々増大しており、外資企業は引き続き価格などの優位性に乗じて、合弁工場建設などの方法を通じて中国市場をさらに蚕食している。

こうした背景の下で、中国国家発展改革委員会が確定した2015年の日産220万トンという総生産能力目標を実現するまでには長い道のりが待っていることは疑いない。

 

3. 合理的な価格メカニズムが必要

淡水化は利用する相手があってこそ真に実現する価値がある。だが、海水を淡水化した後の水を給水ネットワークに投入する場合の極めて高い価格がこのプロセスを阻んでいる。

現在、中国の海水淡水化コストはすでに低落傾向にはあるが、最終段階では通常の水道水価格と比べて依然として高価だ。例えば天津の水道水価格は1トン当たり4元(約64円)、工業用水は1トン当たり7元(約112円)だが、淡水化による水の供給価格は1トン当たり8.15元(約130円)だ。曹妃甸で淡水化した水を北京に送水するプロジェクトでは、北京水務局が算出したデータによると出荷価格が1トン当たり約4.5元(約72円)、輸送コストが1トン当たり2.5から3.5元(約40から56円)で、北京に届く水は合計で1トン当たり7~8元(約112~128円)前後になる。1トン当たり4元の公共水道水と比べるとメリットがなく、利用住民への政府による価格補助が不可欠だ。

政府による海水淡水化工事への大掛かりな支援がなければ価格的メリットがないことは明らかで、容易に発展することは難しい。現在一部の海水淡水化企業は政府による支援不足や協力不足によって淡水化した水を投入する先が無いという局面に陥っており、極端な場合、程度の差はあれ遊休設備を抱えている。また別の面では、研究開発・生産機関が国からの支援資金を研究に利用せず、直接国外の設備の輸入に当てるといった面もあり、中国の海水淡水化産業が技術と生産・販売モデルの転換を実現する上で不利に働いている。

だが、政府のこの「目に見える手」は結局のところ市場を啓蒙し、育成する手段に過ぎないのであり、市場の「見えざる手」が働かなければ、海水淡水化工事は結局は納税者の税金を「底なし沼」につぎ込むことになる。

比較すると、世界的には海水を淡水化した水の売値は比較的安く、1トン当たり0.6~0.9米ドル(約59~89円)だ。中国国家海洋局天津海水淡水化・総合利用研究所の阮国齢博士は「国外の海水淡水化企業は市場化路線を走っており、コストは比較的安く、大多数は利益を上げています」と紹介している。中国国家発展改革委員会の関連部門の責任者は「中国では資源の乏しさを反映した淡水化水の市場価格形成メカニズムはまだ出来上がっていません」と語っている。

 

4. 共に難関を克服し、産業の飛躍を支援

海水淡水化産業の前途は明るく、2015年には全世界の海水と汽水(淡水と海水が混在した状態)淡水化の市場規模は55億米ドル(約5450億円)まで拡大すると予測されている。中国について言えば、1つには資源価格の市場化改革をさらに推進し、海水淡水化産業の発展を促進する政策を制定し、実行して、淡水化した海水の給水ネットワークへの組み込みを積極的に促進する必要がある。2つには、企業は海水淡水化の鍵となる素材やコア技術の研究により力を入れる必要がある。例えば逆浸透膜、装置製造技術の開発や応用のように、中国の海水淡水化の核心的な競争力を絶えず向上させることだ。

この2点をうまく進めることが淡水化水価格を下げるベースとなるのであり、淡水化水が一般庶民の家庭に入り込めるかどうかを決定する鍵となる。中国の企業がコアの技術をマスターすれば、その分野の設備輸入コストが大幅に引き下げられる。同時に、全体的な利用効率の引き上げ、蒸気の余熱や余圧、原子力エネルギー、太陽エネルギーのような再生可能エネルギー、風力エネルギーなどの海水淡水化への利用を通じてコストを下げることだ。河北省専門家アドバイザリーサービスグループのグループ長でシニア水資源専門家、魏智敏氏は「各方面の要素を総合すれば、淡水化した海水の価格は将来的に1トン当たり3~5元(約48~80円)まで下がる見込みがあり、南水北調(南方地域の水を北方地域に送り、慢性的な水不足を解消しようとするプロジェクト)の水価格に近づいて、海水淡水化普及の可能性を大幅に引き上げることが可能です」と語っている。