所得格差拡大の流れをいかに転換するか
給与所得分配を進め、高所得層の収入を抑制

改革開放以来、中国は徐々に富国強民の道を歩んで来たが、庶民の所得格差が日増しに拡大していることは否定しようがない。国民の所得分配格差の程度を測定するジニ係数は、国際的には通常0.4を「警戒ライン」としている。ジニ係数は本来0.2~0.4の範囲にあることが望ましく、0.2を下回れば社会のダイナミズムの不足を意味し、逆に0.4を上回れば社会の不安定さを表している。統計を見る限り、現在中国では格差が徐々に拡大する傾向が現れている。この問題をどう解決するのか。

国民所得がGDPの成長スピードを下回る

中国国家統計局の馬建堂局長の説明によると、都市住民のジニ係数は高所得層住民の実際の所得を正確に把握するのが難しいため低めに偏っているという。農村居住者のみについて言うと、ジニ係数は既に国際的な警戒ラインである0.4に近づいている。華中師範大学中国農村研究院が発表している『中国農村経済状況レポート』では、中国の農村居住者のジニ係数が2011年には既に0.3949に達している。

ジニ係数が警戒ラインを越えるかどうかに関わらず、国民の実所得の増加がGDPや財政収入の増加を下回り、所得格差が拡大しているのは紛れもない事実だ。 中国人力資源社会保障部労働賃金研究所が最近発表した『2011年中国報酬レポート』は、2011年の中国国民の所得増が財政収入や企業収入の増加を遥かに下回り、個人所得が国の所得全体に占める相対的な割合は増えるどころか、却って下がっている。『レポート』が引用している統計局の予測データによると、2011年の中国の公共財政収入は対前年24.8%増の10兆3700億元(日本円約128兆3000億円)だが、その伸び幅は都市居住者の1人当たり名目可処分所得の伸び率の1.76倍、農村居住者の1人当たり名目収入の伸び率の1.39倍だ。また同時期の法人所得の伸び率も20%程度であり、住民所得の伸び率より遥かに高いことを示している。

中国は第16期全国人民代表大会以来、所得分配改革を進めて新たな成果を収めた結果、住民所得水準は全体的には急速に伸びている。とはいえ、依然として不合理な所得格差がかなり大きなことは明らかだ。『レポート』は過去1年、不合理、不均衡な所得分配の状況の根本的な解決が図られていないこと、この問題が中国の社会経済の発展を制約するボトルネックになりつつあり、今後、経済のさらなるレベルアップと社会転換に影響を及ぼしかねないとして、早急な制度改革と所得分配改革の必要性を指摘している。

資本所得が給与所得を上回る

中国国際経済交流センター情報部の徐洪才副部長は本紙記者のインタビューに対し、「住民所得の格差が拡大しているのは事実」として、その原因を以下のように分析している。

①給与性所得と資本性所得の一次分配の構造において、資本性所得の比重が大きく、給与性所得が低く偏っている。

②所得再分配において、社会保障などによる再配分と税収政策の調整が十分でない。俗に言う「殺富済貧」(註)が十分でなく、低所得層や社会的弱者に対する社会保障や再配分をさらに強化する必要がある。

③経済の軌道転換の過程で一部の人々が先に豊かになった。

④長年にわたって都市居住者と農村居住者の所得増加のスピードが経済成長の伸びばかりか税収の伸びをも下回っている。歳入の急速な伸びに比べ、国民所得の伸びが緩慢なこと。

⑤金融体系が十分に発達していないため、一般人の投資蓄財の機会が乏しく、また株式市場のような資本市場も投資家に対して十分なリターンをもたらしていない。庶民の大多数が貯蓄に走っているにもかかわらず銀行預金の実際利率が低く抑えられていること。

⑥社会保障体系が十分整備されておらず、昔の貯金不足で、勘定も実態とかけ離れており、庶民の所得に影響していること。

所得格差が生じる問題には国有企業と農村の都市制度改革も関係している。徐洪才副部長は「中国の国有企業は長年にわたって無配当のため、国有資産の規模は拡大しても一般庶民はそこから実際の利益を得ていません。また農村の土地制度改革も十分ではなく、農民の自留地、小規模な土地財産が商品流通の仕組みに取り込まれていないため、農民が土地の持つ付加収益を得られていないのです。もし農民が豊かになれば、消費にも火が付くでしょう」と語っている。

差是正へ「低所得層の所得引き上げと高所得層抑制」を

中国労働学会副会長兼報酬専門委員会会長である蘇海南氏は所得分配改革の次なる攻撃目標は「所得格差拡大の流れを早急に逆転させること」であり、「そのために『低所得層の引き上げと高所得層の抑制』に大きな力を注ぐべきだ」として、次のように語っている。「中でも『低所得層の引き上げ』は逼迫した問題であると同時に、実現の可能性も大きい。また高所得層を抑制することは客観的な制約条件も大きいため、長期的な視点から多方面の議論を尽くし、条件を整えて徐々に進める必要があります。こうした所得分配改革をやり遂げると同時に、『抜本的な問題解決』にも取り組むべきです。一時分配の領域ではより良い市場の仕組みを構築し、運営して市場の基本的な効果を発揮させることに重点を置くことが必要です。また所得再分配の過程では、一部の流れに逆行した分配問題を解決し、一時分配で生じた不合理な所得格差を調整する機能を適切に保障して、国民全体が経済発展と社会進歩の成果を共有出来るようにすべきでしょう」。

徐洪才副部長は「経済成長の2~3%を一般庶民の所得に充当することを目標とすべきで、庶民の所得が向上すれば内需も刺激されます」と提案している。

(註)殺富済貧:忠義を求める盗賊たちが政府軍に守られた金持ちたちの財を奪い、貧民たちに施すという『水滸伝』の中の話から生まれた熟語。