80年ぶりの流行 就業者10万人

上海には開港以来160年の歴史の中で、名が知られる老舗のカフェがいくつかあった。その中でも、虹口区多倫路にあるカフェの跡地は1920年代末に魯迅と左翼作家連盟の青年たちが集った歴史的な場所である。当時から上海のカフェは進歩的文学と結び付いていた。80年余を経て、カフェ文化が上海に蘇ったのである。

 

 

カフェ文化が静かに登場

 上海で有名な老麦珈琲館・創業者の劉仁和氏は「上海でカフェが流行りだしたのはここ2、3年のことで、5年前にはまだこんなに人気はありませんでした」と語る。カフェ文化の流行は、中国の都市住民の収入の増加と消費習慣の変化に関係している。

 上海市食品協会が新たに発表したデータによると、現在、上海のコーヒー専門店はすでに4000軒以上、他のドリンクとともにコーヒーを提供する店は1万2000軒を超え、関連の就業者数は10万人近くに達している。

 12年ほど前、「スターバックスコーヒー」というブランドが上海に上陸した。現在では、上海に148店舗、「長三角」(上海市、江蘇省、浙江省の中国経済がもっとも発達している三地域の略称)その他の都市にも100軒近くが展開されている。これと同時に、COSTA、香琲繽、快楽檸檬などのコーヒーやドリンクのチェーン店が続々と上海の交通拠点、商業ビル、公園などに出店し、消費者にもよく知られている。

 上海衡山路のあるコーヒーチェーン店・店員の黄さんは、「お客様の多い時には、毎日300杯以上のドリンクが出ますが、コーヒーが主であとは中国茶です」と語る。

 今では、多くのコーヒー愛好者がカプチーノ、ラテ、モカなどの区別がつくようになったし、一部の愛好者はコーヒー文化に関する本を購入したり、ネットで情報を交換したりしている。

ハンドルネーム「宝鼠」という出版社の女性編集者は次のように語っている。「いろいろなコーヒーチェーンのブランドがあるけど、私は一つのブランドのコーヒーしか飲まないわ。それか、もっと高くて個性的なカフェにするかね。これは、ハイグレードな生活のシンボルなのよ」。

 

多様な文化の楽しみを追求

 マニュアル化されたコーヒーチェーン店のブランド以外にも、特筆すべきなのは、街角のあちらこちらにある個性的なカフェである。

 上海の歴史風貌保護区域にある老麦珈琲館を見てみよう。オーナーの劉仁和氏は、ここ30年間で集めたコレクションを店内に展示している。100平方メートルに満たない3階建ての空間は、同時に「コレクション倉庫」の役目も果たしており、さまざまな中国と西洋が融合した古い写真やアンティークが並べられている。アンティーク好きなコレクターにとっては、コーヒーを楽しむと同時に、さらに豊かで多様な文化も味わうことができる。

 銀行マンという高収入の仕事を捨てた劉仁和氏は、カフェの経営は純粋な個人の趣味がひとり歩きしたものだと感じている。ブログを活用して店の設計のすべての過程をネットで公開し、多くのネットユーザーたちの提案を募った。

正式オープン後、店の売り上げは彼の予測を大きく上回った。今、このカフェは専用の「微博(ウエイボー=中国版ツイッタ―)ID」を持ち、常に熱心なファンの書き込みがある。

 「個性的なカフェの流行は、日々増加している現代人のコミュニケーションへの欲求と深く関係しています。工業化と都市化が加速している中で、相対的に冷淡な人間関係に陥っているため、人と交流や対話ができるプラットフォームが必要とされているのです。カフェに入り浸ることもその手段の一つです」と、上海財経大学人文学院の章義国副教授は語る。

 彼は、急速に進化する中国の都市生活の中で、カフェ文化は中国人の「スローライフ」への強い願望を反映していると分析している。この観点から見ると、カフェという中国と西欧が同居する公共的な店舗空間は、人々が社会的な不安を和らげる「安全弁」になるのだ。

 「多くのカフェで伝統的な中国茶もいっしょに売られている。これは中国人の生活の中にある開放度と寛容性をも表しているのです」と、章副教授は語っている。

 

文化の新機軸を創出

 油絵、書、読書会、映画音楽……観察眼の鋭い人は、いま人気のカフェには独自の個性と特長があることに気づくだろう。その中で「文化創意産業団地」内にあるいくつかのカフェは、すでに流行トレンドのパーティーやショーなどを開催する新しいランドマークになっている。

 2012年に入り、コレクション好きの劉仁和氏は家具コレクションを展示できる2軒目のカフェを開店させようと考えている。彼は、消費の需要が高まりつつあること、また別の面ではカフェオーナーたちのインスピレーションを活性化させることができること、この二つの要因により、中国の市場における個性的なカフェのポテンシャルは軽視できないとしている。 

 「私たちはマニュアル通りのサービスや大量のドリンクを提供するのではありません。コーヒーを味わうのと同時に古いポスターや、アンティーク家具を見て楽しみ、もし興味があれば、私のもう1軒の雑貨ショップに行って、古い時計や革製品、古書の掘り出し物を探すこともできる。街角の小さなショップが今後、新しい文化のインスピレーションの芽を生み出せるかもしれませんよ」

イラスト作者 韓小都