世界経済は非常に困難な段階に突入
世銀の林毅夫氏とティマー氏がインタビューに応える

世界銀行は1月18日、北京で初めて「世界経済見通し2012」を発表し、世界経済は依然として不確定性と脆弱性が存在すると指摘した。ユーロ圏の債務危機と新興国の成長鈍化が世界経済の成長見通しを暗くしており、発展途上国は下揺れリスクに対する備えをさらに強化する必要があるというものだ。

世界経済はどこに向かって進んでいくのか。世界銀行の上級副総裁兼チーフエコノミストを務める林毅夫(リン・イーフー)氏とハンス・ティマー(Hans Timmer)開発展望グループ担当局長が同行北京オフィスでインタビューに応じ、詳しく解説した。

 

世界経済の成長見通しは大幅引き下げ

 問:世界経済は危険期に入ったのでしょうか。

 答:「世界経済見通し」では2012年と2013年の世界経済全体の実質成長率を2.5%と3.1%と大幅に下方修正した。世界経済は非常に困難な段階に入ったといえる。前回の2011年6月時点の見通しではそれぞれ3.6%としており、わずか半年で1.1ポイントと0.5ポイント下げたことになる。

 世界経済の成長鈍化の兆しはすでに世界貿易の低迷と大口商品価格の下落に現れている。2012年の世界貿易額の伸びは2011年の6.6%からさらに減速し、4.7%にとどまるとみられている。エネルギー、金属、農産物の価格は2011年初頭のピーク時と比べ、それぞれ10%、25%、19%の下落。この数カ月、国際食品価格も低下傾向にあり、2012年2月のピーク時と比べ、14%も値を下げた。

 米国、欧州など高所得国の金融危機の波及効果が世界各地で現れてきており、発展途上国の下揺れリスクが高まっている。世界経済はすでに危険期に入ったといってよい。欧州危機の混乱が影響を受けていなかった発展途上国とその他の高所得国に波及しており、現在、発展途上国の44%近くで政府財政のバランス悪化が起きている。

世界経済が衰退すれば、発展途上国はひとたまりもないだろう。彼らはくたくたに疲弊した世界経済の中で、資本充足率が大幅に低下、貿易機会も大幅に減少、経済活動に対する資金援助も大幅に削減されている。

 

さらに広範な金融危機の勃発も

 問:欧州が再び金融危機に陥る可能性はありますか。

 答:格付け機関のスタンダード&プアーズはフランスなどユーロ圏9カ国の長期格付けを引き下げた。ユーロ圏の債務危機は依然として終わりが見えない状況。ギリシャなど重債務国の経済衰退は予想を超えた速度で進んでいる。欧州の経済衰退は明らかだ。主権債務危機に深くはまっているユーロ圏経済は昨年第4四半期にリセッション(景気後退)入りの見解が示され、その傾向が今までずっと続いている。

ユーロ圏各国は債務危機対策を講じてきたが、さらに広範な資本市場の凍結リスクは引き続き存在し、銀行やその他金融機関を巻き込む広範な金融危機が発生する可能性も排除できない。

 「見通し」は2012年の高所得国家の実質経済成長率を1.4%としたが、ユーロ圏はマイナス0.3%と大幅に下方修正した。今のところ、欧州各国の経済情勢はコントロールされているが、危機が拡大し、市場がユーロ圏に対するこれ以上の融資を拒絶した場合、さらにひどい状況が待ち受けている。欧州各国の状況は悪化が続き、第2次世界金融危機も現実となるだろう。

 欧州で再び金融危機が勃発する可能性は非常に高い。一旦勃発すれば、2008年から2009年の時より長引くことが予想される。欧州各国は銀行を救済する財政あるいは資金を持ち合わせていないからだ。2年後の世界経済がどうであろうと、ユーロ圏、米国、日本など高所得国家の経済成長が引き続き減速することだけは間違いない。

 

中国経済はソフトランディングできる

 問:中国経済は今後も著しい成長を続けられますか。

 答:世銀の報告によれば、中国経済の2012年と2013年の実質GDP成長率はそれぞれ8.4%と8.3%で、2年前より若干下げている。東アジア・太平洋地域全体のGDPの約80%を占める中国だが、2011年の経済成長は鈍化しており、2010年の10.4%から2011年第3四半期は9.5%へと下がった。(注:国家統計局の発表では、2011年第3四半期の実質GDP成長率は9.1%)

2012年はさらに鈍化が進むと予想されている。だが、世界経済全体でみると、8%を超える経済成長はやはり強い。この8%を超える成長率、比較的良好な財政状況、比較的高い外貨準備、十分な投資が2012年の中国経済をソフトランディングさせるだろう。

中国の統計によると、中国の財政赤字はGDPの25%を占めるが、これは世界的にみれば最低水準になる。中国の財政には経済の安定と高度成長を保つだけの余裕がある。

 中国の産業の高度化、インフラ整備、環境、ソーシャル・エンジニアリングはまだ大きな改善の余地があり、今後、高度で安定した成長を保つことは完全に可能である。だが、中国の不動産市場にはバブルが存在しており、いったん市場が理性を失えば、中国経済成長の足手まといになるだろう。