国連が「2012年世界経済の情勢と展望」を発表
2012年の世界経済は衰退リスクが高まる

2011年に入ってから、米国債のデフォルト危機や赤字削減策の交渉決裂、欧州債務危機、リビア騒乱などの問題が世界のエネルギー供給に混乱をもたらしている。さらに西側国家がイランに制裁を加えれば、世界の原油価格は倍増するだろう。中東の要所、シリアの危機もこうした情勢に拍車をかけ、世界中に暗い影を落としている。

西側国家は自身が矛盾を多く抱えながら、世界各地でたびたび問題を起こし、責任転嫁に余念がない。こうした状況から、世界経済は来年さらに苦しい日々を送るか、再び衰退していくというのが大方の見方だ。国連が先日発表した「2012年世界経済の情勢と展望」では、先進国は再び衰退する可能性が高く、世界経済の成長は止まるとの悲観的な見方が示されている。

 

先進国の経済は引き続き悪化

 悲観的な予測の根拠は先進国と発展途上国がいずれも不景気だという経済状況にある。国連のレポートは、世界は今、欧州の問題など直面する問題を解決するだけの力強い行動力に欠けていると指摘する。先進国には回復するための力は残っておらず、さらに近い将来には発展途上国も今よりもっと悪い状態になるというものだ。この30年余り、発展途上国は対外開放型の成長を重視し、輸出依存度をどんどん高めていった。そのため、輸出の減少は、それらの国にかなりの痛手をもたらすとみられている。

 レポートはまた、米国経済の2011年の成長は明らかに鈍化しており、その成長率は1.3%程度にとどまると予測。2012年も同様に1.3%前後だとしている。欧州経済の先行きはさらに悲惨で、2012年の成長率はわずか0.5%前後だとみられている。

 

新たな原動力の不足

 「世界経済の衰退の根本原因は、欧米国家の経済成長に原動力がなくなったこと。米国の工業化や都市化建設はすでに完成されており、これ以上経済成長を促す材料がない。欧州も同様で、しかも南北の経済不均衡が深刻さを増している」と中国国際経済交流センター情報部の徐洪才(シュー・ホンツァイ)副部長は指摘する。

そして、「米国の経済構造調整には時間がかかる。輸出や雇用を増やしたくても、製造業のコストが高く競争力に欠ける。しかも米国自身の改革も困難を極めている。米政府は医療支出の削減と増税を掲げたが、国民の反対に遭った。そのため、財政面でどんな手を打てば良いのか途方に暮れてしまい、短期国債を買い長期国債を売る『ツイスト・オペ』を導入するしかなかった。だが、その効果も芳しくはない。これと同時に欧米の民主政治の弊害も彼らの経済に影響を及ぼしている」と語る。

 徐副部長によると、欧米の2大経済圏はいまだに2008年の金融危機を引きずっている。そのため、新たな突破口を探し、技術革新を進め、産業構造と経済政策を調整し、文化・理念の変更や管理メカニズムの改革を推進しているが、そう簡単に成功するものではない。同副部長は「量から質への移り変わりは2~3年では終わらない。7~8年はかかるだろう」との見方を示している。

 

各国が通貨政策を緩和

 各国は経済衰退を迎え撃つ準備として、通貨政策の緩和に乗り出した。徐副部長は「先進国は早くもスタグフレーション(=インフレと景気後退の同時進行)の兆しが現れている。だから、どの国も通貨政策の緩和を計画している」と指摘。その上で、「米国は来年の1~3月期に量的緩和策を実施する。欧州でも欧州中央銀行が『最後の貸し手』になることを求められている。こうした動きはいずれも経済低迷を回避することが目的だ」という。

 国連のレポートは先進国に対し、経済復興の脆弱性や失業率の高止まりを受け、さらなる引き締め政策を実施する際は慎重になるべきだと助言。米国やドイツのような融資コストが低い国には景気刺激策により経済を押し上げる余地もまだ残っており、発展途上国は外部環境の悪化による衝撃を厳重に防ぐ一方で、経済構造の調整を進め、持続可能な成長という目標を実現させるべきだとしている。

 

世界経済の衰退による中国への影響

 「世界経済の低迷による中国へのマイナスの影響を低く見積もるべきではない」と徐副部長はいう。第1の影響は輸出の大幅減。これを防ぐために積極的な財政政策を推し進め、「構造的な減税」を実施するとともに、通貨政策では基礎を安定させた上で適度な緩和を加え、経済の安定を保った急速な成長とマネーファンドへの理にかなった要求を保証すべきだと指摘する。

このほか、「輸出低迷で大勢の出稼ぎ農民が仕事を失い、その影響で消費と経済成長も打撃を受ける」と語る。第2の影響は欧米の通貨政策に大きな変化が現れ、国際金融システムや国際資本移動の不確定性が増すこと。これらは人民元レートの変動と中国金融システムの安定に影響を及ぼすという。そして、第3の影響は経済低迷が欧米国家の人々に自信を喪失させること。「こうした消極的な心理も中国投資家の自信に影響し、株式市場が活発にならないという影響が出ている」としている。

 そうした中で国連は、中国の2012年の経済成長率はわずかに減速し、8.7%前後になると予測している。