中国のモバイル決済が世界的な流れに

米マッキンゼーグローバル研究所が今年8月に発表した報告によると、モバイル決済の、中国のインターネットユーザーの間での浸透率が急速に伸びており、2013年の25%から16年には68%まで上昇した。16年、中国の個人消費と関係があるモバイル決済の取引額は7900億ドル(約89兆2700億円)に達し、米国の11倍になっている。

中国社科院財経戦略研究院のインターネット経済研究室の李勇堅室長は、「中国のモバイル決済は世界を牽引している」とし、「米国などの先進国と比べて、中国のモバイル決済はオンラインで応用されているだけでなく、オフラインでも全面的に浸透している。米国のPayPalを例にすると、多くの国で利用でき、ユーザーは1億5300万人を超えているものの、主にオンラインでの決済で、オフラインのショップなどでの利用は限られている。米国では、スマホによる決済額は、店での決済総額の3.0%を占めるに過ぎない。日本でもモバイル決済の利用率は6.0%にとどまっており、中国とは大きな差がある」と指摘する。

「それは、海外によく行く人が最もよく感じている点」。英オックスフォード大学東洋西洋戦略研究センター顧問の高連奎氏は取材に対して、「政策のサポート、高まるイノベーション起業のムードなどが、中国が情報テクノロジーの分野で一気に他の国を追い抜く条件を整え、中国のソーシャルメディア、ネット通販の発展がモバイル決済の発展に拍車をかけている」と分析した。

経済学者の欧陽日輝氏は、「中国のモバイル決済市場は主に支付宝(アリペイ)と微信(Wechat)で構成され、その他のモバイル決済企業の規模は小さい。支付宝のスタイルは主に、整備が整ったネット通販業に依存し、実際には、利用できるシーンがオンラインからオフラインへと拡大しただけ。一方、微信のスタイルは、SNSの膨大なユーザーに依存し、そのカバー率や浸透率はとても高い」と分析している。

李室長によると、中国は決済の面でセカンドムーバーアドバンテージがある。中国のクレジットカードによる決済は、ある程度の発展を見せているものの、発展の基礎が弱く、主導的地位を占めるには至っていない。一方、モバイル決済はクレジットカードよりも便利で、物理的装置への依頼度も低いため、中国は、クレジットカード決済の段階を飛び越えて、直接モバイル決済の段階へと入った。

李室長は、「NFC(近距離無線通信)技術と比べて、QRコードが勝っている点は、ユーザーの利用と教育にかかるコスト。技術性や利便性では、QRコードはNFCに劣るものの、QRコードを推進するための全体的なコストはNFCよりもかなり安く、QRコードの技術はハードウェア装置に依存せず、クロスプラットフォームの特徴を備えている」と指摘している。

 

モバイル決済が世界的な流れに

今年3月、調査機関のWorld Payが発表した統計によると、昨年、世界の決済市場において、クレジットカードやデビットカードを使わない、スマホによる決済が30%を占めた。

複数の専門家は、モバイル決済は世界的流れになっていると指摘する。拓撲産業研究院は、17年、世界のモバイル決済市場は前年比25.8%増の7800億ドル(約88兆5500億円)規模になると予測している。米アップル社も、今年の世界開発者会議で、iMessageに送金機能を搭載することを発表した。

欧陽日輝氏は、「EC取引がさらに発展するにつれ、モバイル決済の応用シーンも一層増え、モバイル決済端末の普及もさらに進むだろう。そして、世界の仮想通貨が急速に発展し、将来、モバイル決済市場の規模はさらに拡大するだろう」と予想しながらも、「他の国が中国のモバイル決済のスタイルをそのまま導入するのは難しい。先進国は、元々金融が発達しており、銀行や店企業などがデータを重視しているため、第三者決済サービスの発展の足かせとなっている。その他、多くの発展途上国は、EC取引の発展がまだ進んでいない」との見方を示した。

また、「中国のモバイル決済の急速な発展は、独特の環境があるからだ。まず、中国はEC取引が急速に発展しているため、オンライン決済の規模が大きく、オンラインからオフラインへの浸透は必然的だった。そして、もともとあったネットバンキングの公式サイトを使った決済は操作が煩わしく、クレジットカード市場は発展の環境が整っていないため、中国のモバイル決済が急速に発展するようになった」と分析した。