デジタル通貨は必要だがまだまだ遠いもの

科学技術の進歩と経済活動の発展・変化にともない、今後はデジタル通貨が徐々に現金通貨に取って代わることが予想される。中国人民銀行(中央銀行)はこのほど、デジタル通貨の発行・流通システムの構築は、金融のインフラ建設、経済の質・効率向上とバージョンアップの推進にとって、とても必要なものであるとの見方を示した。すでに専門の検討チームが発足し、人民銀発行のデジタル通貨を一日も早く打ち出せるよう研究が進められている。専門家は、「デジタル通貨は必然的な流れだが、実現は容易なことではない。将来的に紙幣に代わって流通し発行されるようになるには、順序を追って一歩ずつ進む長いプロセスを経なければならない」と指摘する。

デジタル通貨はなぜ必要か

「何年か後には、現金は存在しなくなるかもしれない」という新たな流れが、人々の慣れ親しんできた考え方をひっくり返した。だが通貨の本質ということを考えると、通貨がもつ契約の性質がさまざまな表現形態を決定付けるのであり、歴史的段階によって通貨が変化するのは不思議ではない。

目下、電子金融の誕生・発展により、現金を使用する場面がどんどん減り、紙幣の欠点が露わになってきた。中国人民銀行の周小川総裁は、「紙幣は技術のウェイトが低く、安全性やコストの観点からみると、新技術、新製品に取って代わられるというのが大きな流れだ。人民銀が発行するデジタル通貨は今は主として現金に代わるものであり、これまでのような紙幣の発行・流通にかかるコストを削減し、利便性を向上させるものでもある」と話す。

人民銀関連当局の責任者は、「デジタル通貨の発行に成功すれば、さまざまな便宜がもたらされる。これまでのような紙幣の発行・流通にかかる莫大なコストが効果的に削減でき、経済取引活動の利便性と透明性が向上する。マネーロンダリングや脱税などの違法な犯罪行為を減少させ、通貨の供給と流通に対する人民銀のコントロール力を引き上げ、経済社会の発展をよりよく支援し、金融包摂(Financial inclusion)の全面的実現を助けることができる。また新しい金融インフラを建設し、決済システムをさらに改良し、決済・清算の効率を向上させ、経済の質・効率向上とバージョンアップを推進する上でプラスになる」などと利点を上げた。

紙幣の価値は下がるか

周総裁によると、人民銀発行のデジタル通貨はかつて一世を風靡したビットコインと異なるもので、「人民銀が掌握コントロールするデジタル通貨については、一連の技術的手段、メカニズムの設計、法律法規を採用し、デジタル通貨運営システムの安全性を確保していく。初めからビットコインの設計コンセプトとは異なっている。人民銀は暗号アルゴリズムを含む数々の通信技術手段を用いて、デジタル通貨が偽造されないよう保障する。将来は技術もレベルアップやバージョンアップを果たすだろうし、人民銀はあらかじめ技術のバージョンアップを考慮して、当初から長期的な進化という発展理念を導入している」という。

デジタル通貨は法定通貨として人民銀が発行することになる。人民銀によれば、デジタル通貨の発行・流通・取引は、いずれも従来の通貨とデジタル通貨の一体化というコンセプトを遵守するべきで、一つの原則に基づいた管理を行わなければならないという。

業界関係者は、「今後しばらくの間、デジタル通貨は紙幣と共存することになる」と予想するが、このような状況は手元にある紙幣の価値を目減りさせるだろうか。専門家は、「従来の通貨との一体化という発行のコンセプトを遵守するため、紙幣の価値低下を心配する必要はない」と指摘する。また中央財経大学金融法研究所の黄震所長は、「デジタル通貨は主に通貨の形態を指しているのであり、通貨の価値低下を引き起こすことはない。通貨の発行規模は引き続き人民銀がコントロールする」と話す。

発行の時期は決まったか

実際のところ、デジタル通貨の発行計画は昔からあった。人民銀は2014年に専門の検討チームを立ち上げており、デジタル通貨の発行と業務運営の枠組、重要技術、流通環境などについて深いレベルで研究を進めてきた。チームはこれまでに一定の成果を上げている。

デジタル通貨は必然的な流れだが、登場までの明確な時間表はまだない。周総裁は、「中国は人口が多く、規模が大きく、人民元を他の通貨に置き換えようとした場合、小さな国なら数カ月でできるが、中国では10年ほどかかる。よって、デジタル通貨と現金はかなり長い間併存し、デジタル通貨が徐々に現金に取って代わるという関係になる」と話す。

確かに、現時点でのデジタル通貨発行は、科学技術、流通環境、法律問題など一連の解決が待たれる難題に直面しており、これほど巨大な作業が一日で終わるはずがない。黄所長は、「今はデジタル通貨発行を検討する段階であり、これは一つの通貨の価値のシンボルを新しく生み出すメカニズムであり、多くの問題がまだ検討中だ。だが人々は実践の中で電子銀行や電子決済をますます多く利用するようになり、紙幣を持ち歩きたがらなくなった。こうした流れの中、これからは市場に流通する紙幣が時代とともに減少していくだろう」と話す。