楊金才 世界ドローン連合会(WUAVF)主席
低空経済が中国経済の新たな成長分野に

今年もこの時期がやってきた。2024第8回世界ドローン大会並びに2024国際低空経済・無人航空機システム博覧会、第9回深圳国際ドローン展示会が、5月24日から26日までの日程で、中国・深圳で開催されるとの知らせが届いた。このビッグイベントを長年取材してきたわれわれは、先ごろ、世界ドローン連合会(WUAVF)の楊金才主席に独占インタビューを行った。

 

中国の低空経済発展の

牽引力に

―― 近年、中国の低空経済はますます発展の勢いを加速し、多領域に渡っています。低空経済の発展に関していくつかポイントを教えていただけますか。

金才 低空経済は、今まさに、世界経済を牽引する新たな原動力になりつつあります。低空経済が産業の飛躍的発展をもたらしていることは明らかで、それは多領域の産業チェーンにも波及しています。中国の低空経済の市場規模は2025年には1.5兆元(約32.4兆円)に達し、2035年には3.5兆元(約75.6兆円)にまで成長することが予測されています。この成長は、技術革新及びその成果の需要側への迅速な応用、中でもドローンと電動垂直離着陸(eVTOL)技術によってもたらされたもので、これらの技術は、飛行体の性能を向上させ、パイプラインの巡回検査、太陽光パネルの洗浄、精密農業など、応用領域の創出を促しています。同時に、低空経済の発展には中国政府による支援も不可欠です。中国政府はすでに低空経済を戦略的新興産業に定め、関連政策や実施計画を打ち出しており、この分野を重要視していることが分かります。

低空経済発展の第一のポイントは応用領域が絶えず拡大していることです。従来の農業、林業の植物保護、電力システム巡回検査から、新興の遊覧飛行、医療救護、物流・配送、都市管理に至るまで多様化しています。第二に、市場が、急速に高まる需要に応えるには、より完全な産業チェーンが必要になります。低空経済の産業チェーンは、原材料の供給からコア・コンポーネントの製造、航空機の製造や運営などをカバーしています。また、需要の拡大と産業チェーンの充実によって、科学技術や企業にとってのハードルは低くなり、企業は参入しやすくなり、伝統的航空会社やテクノロジー企業の統合や競争が刺激されるなど、市場は活力を得て、業界の成長が促進されています。最後に、一般空港、低高度インテリジェントネットワーキング、都市無人物流システムなどのインフラの構築は、低空経済発展のための強固な基盤となります。当然、低空経済に関連するさまざまな国際協力も盛んになり、技術開発、市場の開拓、ルールづくりなども進むでしょう。また、業界の成熟に伴い、各業界で、低空経済とリンクするための法整備が急がれていますが、それは国際間における管理監督等の問題の解決にも寄与することでしょう。

技術の進歩とその汎用性から、低空経済の受容性は高まっており、業界の長期的発展が望めます。低空経済の実益が徐々に現れ、応用領域が拡大し、人びとがスマートライフを追求するほどに、低空経済は発展を続けることでしょう。

 

世界の動向

―― 新興産業である低空経済は、その度合いこそ異なりますが、世界中で発展し注目を集めています。さまざまな国や地域が、それぞれの産業基盤、市場ニーズ、政策に基づき、それぞれの領域で低空経済の応用と発展を推進しています。各国の状況について教えていただけますか。

金才 低空経済は世界中で急速な発展を見せており、各国で、その優位性と市場ニーズが追い風となっています。アメリカでは、成熟した航空産業と政府の支援が、ドローン物流や遊覧飛行の急速な発展を後押ししています。ヨーロッパ諸国については、特にドイツとフランスが、そのエンジニアリング力とイノベーション力によって、ドローン及びeVTOL技術の分野で目覚ましい成果を上げています。

アジアにおいては、中国の巨大な市場ニーズと都市化のプロセスが、低空経済における農業、線路の点検、救急・消防、都市管理、速達サービス等のさまざまな分野にイノベーションをもたらしています。世界に目を向ければ、将来を見据えた政策やルールの策定が、低空経済の発展を支え、国際協力と投資が低空経済産業の発展をより加速させています。

低空経済の展望は明るいものの、技術基準が統一されていない、国際間の管理監督が複雑である等の問題も存在します。特に、通信、識別、認証基準、管理モデルなどです。これらの問題に関しては、国際間での連携・協力が大事になります。そこに、WUAVFの存在意義もあります。われわれは一致協力して、基準の統一化と監督の簡素化、さらには物流効率の向上、交通連結の改善、環境保護に努め、ドローン等の無人システムが人員の代替と効率の向上において重要な役割を果たし、世界経済の持続可能な発展と都市サービスにおける多様なニーズに、新たな活力を注入したいと考えています。

 

低空経済が経済全体に

与える影響

―― 技術が進歩し市場ニーズが高まる中、低空経済の役割はこれからますます重要になってくると考えられます。現在、低空経済が経済全体に与える影響とはどのようなものでしょうか。

金才 低空経済が経済全体に与える影響は大きいと思います。低空経済は経済成長の新たな原動力になるだけでなく、航空、製造、情報技術等の関連技術の融合、進化、高度化を促進し、それによって、各産業の構造が最適化され、収益性も高まるものと考えます。テクノロジーベースの新興産業である低空経済は、新たな国際貿易や対外投資を促進します。

低空経済の発展は、特に技術開発、運営管理、サービス業などの主要分野に多くの雇用機会を生み出しています。同時に、一般空港、離着陸ポート、低空域インテリジェント・ネットワーク等へのインフラ投資も促進しており、これらの投資は地域経済の活力向上にとって不可欠です。

さらに、低空経済によって新たな市場も生まれています。例えば、ドローン物流によって物流効率は向上し、遊覧飛行によって景勝地の収益は増大しています。公共サービスの分野では、ドローンなどの低空飛行体の活用によって、医療救護、救急支援、公共安全の効率や対応スピードが向上しています。環境保護の分野では、精密農業や環境モニタリングへの適用によって、資源の効率的利用と持続可能な開発に寄与しています。

低空経済が経済全体に与える影響は広範で奥深いことが分かります。低空経済は経済成長に直接寄与するだけでなく、技術革新の促進、公共サービスの向上、国際協力の強化など間接的なアプローチによっても、経済の発展に積極的役割を果たします。技術の進歩と市場ニーズの拡大によって、低空経済は今後さらに重要な役割を担うようになるでしょう。

 

低空経済の課題に取り組む

―― 低空経済は急速に発展している一方で、いくつかの課題にも直面しています。それらの課題について詳しく説明していただけますか。

金才 如何なる産業も、発展の過程にはさまざまな課題が伴います。低空経済も例外ではありません。これらの課題を克服するには、業界内外が共に努力し知恵を出し合う必要があります。

先ず、法整備がなされていないことが、低空経済の最大の課題です。例えば、ドローンの「闇飛行」が頻発すれば、航空や治安に深刻な影響を及ぼします。われわれはルールづくりを強化し、明確な法規を策定してドローンの飛行活動を規制し、飛行の安全と秩序を確保する必要があります。

次に、ドローンのインテリジェント化に伴い、低空衛生通信の需要が高まっています。われわれは、通信インフラ建設を強化して広帯域ブロードバンドのデータ転送をサポートし、フライトデータの安定性と即時性を確保する必要があります。さらには、無人航空機の増加に伴う低空航路の混雑問題があります。都市管理者は、低空経済の発展に伴ってますます複雑化する飛行の安全・秩序の課題に対処するため、科学的で安全な低空域管理システムの確立を検討する必要があります。

低空経済はいま、インフラや技術基準の不備、空域の使用制限などの課題に直面しています。われわれはインフラ建設を加速し、業界基準の発展計画及び規範を策定し、空域の配分・管理を最適化する必要があります。プライバシーの保護も無視できない問題です。ドローンの活用領域の拡大に伴い、個人のプライバシー保護のための政策や措置を講じる必要があります。低空経済の持続可能な発展のためには、人材の育成が極めて重要であり、専門技術を有する人材をより多く招集し育成する必要があります。環境保護の面では、低空航空機の騒音規制や航空燃料の選定など、十分な配慮と効果的な措置が求められます。

最後に、公共の安全と個人の権利の衝突を避けるため、カウンタードローンシステムの管理にも厳格な規制が必要です。

これらの課題の解決に向けて、当連合会は業界で主導的役割を果たし、政府、企業、各界と協力し、低空経済の健全な発展を推進してまいります。われわれが力を合わせることで、低空経済の展望は開けるものと信じています。

 

ドローン技術の急速な

発展がもたらした好機

―― 世界ドローン連合会の主席として、どのようなビジョンやプランをお持ちですか。今後、考えられるチャンスや課題とはどのようなものでしょうか。

金才 われわれの夢はドローンで世界を結ぶことです。この数年間、WUAVFは、業界基準の策定をリードしてきました。われわれは、各国政府や関係機関と協力して、国際会議、展示会、交流活動を行い、知識の共有とベストプラクティスの普及に努め、技術革新、業界基準の策定、国際協力を推進します。

現下のドローン技術の急速な発展は、われわれに前例のない好機をもたらしています。新興市場の開拓という観点では、特に発展途上国において、ドローン技術は大きな可能性を秘めています。時代の潮流である技術革新が、人工知能と機械学習を大きく取り込むことを可能にし、ドローンの性能は向上し、インテリジェント化は大きく進んでいます。同時にわれわれは、プライバシーやセキュリティの問題にも直面しています。ドローンの活用が進むにつれて、個人のプライバシーや国家の安全を如何に守るかが大きな課題となっています。国際ルールや国際基準はいまだ統一されておらず、グローバルに事業を展開するドローン企業にとっては一定の障害となっています。こうした問題に対処するため、30カ国以上をカバーするWUAVFはその強みを最大限に活かし、国際機関との連携を強化し、ドローンの国際ルール・基準づくりを推進します。さらに、業界の自主規制を強化し、より厳格なプライバシー保護及びセキュリティ運用ガイドを策定します。同時に、会員組織の技術革新や研究をサポートし、研究成果の市場への応用を加速します。

 

8回世界ドローン大会

見どころ

―― 5月24日から深圳コンベンションセンターで、第8回世界ドローン大会が開催されるとうかがいました。大会主催者として、低空経済の展望についてお話しいただけますか。

金才 2024第8回世界ドローン大会並びに第9回国際低空経済・無人航空機システム博覧会が、5月24日から26日の日程で、深圳で開催されます。当大会は、40以上の会場で専門別フォーラムを開催し、500社以上の企業が4000機余りのドローン関連設備製品を展示し、6万人の来場者が見込まれ、100を超える国・地域から2万人近くの関係者が商談に訪れます。当大会は、世界最大規模を誇る低空経済関連イベントです。

これまでに、世界ドローン大会は7回、国際低空経済・無人航空機システム博覧会は8回開催され、大成功を収めています。それは、われわれの低空経済発展に対する自信の表れです。それはただ単に、低空経済の発展を促進する技術革新に対する自信ではありません。当然、技術革新は低空経済発展のための重要な要素ではありますが、低空経済からは革新的なビジネスチャンスも多く生まれます。例えば、ドローンや電動垂直離着陸機(eVTOL)技術が成熟すれば、スマートロジスティクス、アーバン・エア・モビリティ(UAM)、観光の分野への導入も可能になります。

低空経済の急速な発展に伴って、雇用機会の創出、産業の高度化、税収増など、経済全体への貢献度は今後さらに高まるでしょう。われわれは、低空経済は経済の成長、技術革新、社会発展の新たな牽引力となり、今後数年のうちに飛躍的発展を遂げるものと考えます。