日本資本の一部が中国から撤退する理由は何か

日本の時計メーカーのシチズンはこのほど、中国にある工場を閉鎖し、従業員を解雇することを明らかにした。このことがきっかけになって、メディアの間では中国から日本資本が大挙して逃げ出すのではないかとの懸念が高まっている。日本の経済専門家は、「これは一国の経済が一定のレベルに達し、産業がグレードアップしたことの必然的な結果であり、企業にとって当たり前の行為であって、過剰に心配する必要はない」との見方を示す。


習近平国家主席と日本企業の代表たちとの記念撮影
(3月28日、ボアオ・アジアフォーラム2015年度年次総会にて)

これまでにパナソニック、シャープ、TDK、キャノン、ダイキン工業、無印良品など各社が、一部の海外工場の閉鎖を次々に決めたり検討したりしており、国内にある既存の生産能力を利用する、新たに設備を増やすなどして国内での生産の拡大をはかろうとしている。日本の経済学者の加藤義喜さんは、「一部の日本資本が中国から撤退するのは企業自身が国内外の経済情勢の発展・変化を踏まえて行う戦略的な調整であり、資金や資源を再編し、利益の最大化を追求したことの結果であり、中国市場が信頼感を失ったわけではない」と話す。

中国から撤退した日本の主な産業は繊維・アパレル産業、軽工業、家電産業などのローテク産業または労働集約型産業だ。おまけに中国からの資本引き上げを決定した日本企業のほとんどが、完全な撤退ではなく調整を行うだけで、競争力が弱く利益の上がらない部門を引き上げるにとどまる。大企業で中国市場からの完全な撤退を宣言したところは1つもない。シチズンは中国工場の閉鎖を明らかにしたが、中国市場からの撤退は否定し、今後も中国での販売を積極的に拡大していきたい考えを示した。

また注意しなくてはならないのは、一部の日本資本が中国から撤退すると同時に、別の多くの日本資本が大挙して中国市場に参入しているという点だ。シチズンが中国工場を閉鎖したその頃、総合商社の伊藤忠が中国中信集団有限公司の子会社に巨額の出資を行うこと、同公司と提携して中国市場や新興国市場の開拓を進めることを明らかにした。

国際連合貿易開発会議(UNCTAD)が発表した最新の調査研究報告書によると、2014年も中国は世界で最も多く海外からの直接投資を引き寄せるエコノミーとなった。グローバル経済の低迷や政策の不確定性、地政学的リスクなどの影響を受けて、14年の世界の対外直接投資は前年比8%減少して1兆2600億ドル(約149兆8400億円)にとどまったが、中国への投資は同約3%増加して1280億ドル(約15兆2215億円)に達し、中国は世界最大の投資受け入れ国になった。

過去10年間に、中国の沿海の発達した地域では人件費が大幅に上昇し、雇用コストが大きくふくれあがった

 

日本企業も中国から資本を引き上がるばかりではない。日産自動車は、円相場が現在の水準を維持するなら、米国でのスポーツ用多目的車(SUV)の製造を一時停止して、日本で製造した車を米国に輸出するモデルに切り替えることを検討するという。世界最大の自動車用防振ゴムメーカーの住友理工株式会社は、今後3年以内に北米の生産量の30%を段階的に日本に移すことを計画している。日本の経済アナリストは、「企業の国内回帰は主に海外から日本へ製品を買い戻すためのコストを引き下げることが狙いで、国内市場で販売する製品は国内で生産し、海外市場で販売する製品のほとんどは引き続き現地で生産するということだ」と話す。

本田技研工業は東南アジア諸国での二輪車の製造台数を減らすとともに、日本市場で販売する高級二輪車の一部については国内生産に戻すことを決定。だがこれと同時に、成長が見込める中国市場とインド市場で販売する製品は、現地生産を続け、輸送などの物流コストの引き下げをはかるとしている。キャノンも、海外工場を閉鎖するのではなく、生産構造を調整して、一部の生産能力を削減し、為替変動に基づいて海外工場での生産を柔軟に行うとしている。

一部の日本企業が中国から撤退し日本に回帰した主な原因は3つある。1つ目は、人件費の大幅上昇により企業の利益がほとんどなくなってしまったことだ。過去10年間に、中国の沿海の発達した地域では人件費が大幅に上昇して、雇用コストが大きくふくれあがった。日本の独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)が発表した在中国の日本資本企業の賃金についての調査結果によると、対中投資を行う日本企業の1カ月あたりの平均賃金は米ドル建てで計算すると2倍にふくれあがったという。

2つ目は、円安により海外投資の魅力が薄くなってしまったことだ。12年末以降、安倍政権がデフレからの脱却をはかって、大規模な金融緩和策をうち出したため、円相場は値下がりが続いている。急激で大幅な円安は日本の経済にも貿易にも大きな影響を与えた。円が値上がりしている時には、日本企業の多くは海外の安価な労働力を利用し、円高の強みを生かして、海外で投資して工場を設立し、そこで作った製品を買い戻して日本国内で販売するというモデルで高い利益を上げていた。だが海外の人件費上昇や大幅な円安により、海外から輸入した一部製品の価格は円建てで計算すると日本国内で生産した場合よりも高くつくようになった。そこで日本企業の多くは海外の工場を引き上げて日本に回帰したか、回帰を検討している。

3つ目は、日本政府が優遇政策を打ち出して企業の国内回帰を奨励していることだ。安倍政権が昨年制定した「成長戦略」は地域経済の再生に力を入れ、企業が本社や工場を地方の中小都市に移転させることを奨励する。このための関連の奨励措置や税金の優遇政策も制定された。