外資企業の中国撤退は続くのか

日本の腕時計メーカー・シチズンの中国子会社・西鉄城精密(広州)有限公司が2月に突然閉鎖を発表し、同じく日本のパナソニックも中国にある2本のテレビ生産ラインからの撤退を明らかにし、米国のマイクロソフトはもともとノキアのものだった中国の携帯電話生産工場2カ所を段階的に閉鎖することを決定した。この間に、外資系企業の中国からの大規模撤退に関するさまざまな言説が飛び交い、これに米半導体大手クアルコムがこのほど国家発展改革委員会から約60億元(約1146億円)の罰金を科されたことも加わり、外資系企業がこれから中国でどのような布陣を敷くかがあれこれと憶測されている。

 
閉鎖を発表した日本の腕時計メーカー・シチズンの中国子会社・西鉄城精密(広州)有限公司

外資系企業はサービス業に注目

データが最も良い例証となる。国連貿易開発会議(UNCTAD)がこのほど発表した「世界投資報告書」によると、中国が昨年導入した海外からの直接投資は約1280億ドル(約15兆2192億円)に上り、2013年に比べて約3%増加し、外資導入額が初めて世界一になった。昨年の世界の対外直接投資が同8%減少したことに気付けば、グローバル資本に対する中国市場の吸引力がどれほどのものであるかは容易に理解できる。

外資の利用構造をみると、サービス業が成長源となっていることは明らかだ。昨年の中国サービス業の実行ベース外資導入額は約663億ドル(約7兆8830億7000万円)で同7.8%増加し、外資導入全体に占める割合は約56%に上昇した。伝統的な製造業は約400億ドル(約4兆7560億円)で同12.3%減少した。

UNCTAD投資・企業部門の詹暁寧代表は取材に答える中で、「中国に流入する資金には構造的な変化がみられ、製造業からサービス産業へ、労働集約型から技術集約型へと移り変わっている」と話す。

また昨年新たに設立された外資系企業の数も増加傾向にあり、登録資本金の登記制度改革に後押しされて、2014年の外資系企業新規設立数は2万3800社となり、同4.4%増加した。中国(上海)自由貿易試験区は海外からの投資に対して参入前内国民待遇の付与とネガティブリストに基づく管理モデルを模索するなどして、外資導入の水準を引き上げた。現在、外資系企業の経営状態は安定しており、利潤と納税額は全国の平均水準を上回る。

 

調整・布陣には進退あり

商務部国際貿易経済協力研究院の梅新育研究員は取材に答える中で、「外資系企業がサービス業に注目するのは中国の経済構造調整と多国籍企業自身のグローバル事業調整を受けた必然的な選択だ。産業のバージョンアップと経済構造調整という大きな背景の下で、ここ数年、中国のサービス業は急速な成長を維持し、技術的な要求が高いサービス業に対する海外からの投資も急速に伸びている。また中国製造業自身の発展にともなって、外資系企業の中国での製造事業の強みが徐々に失われ、低レベルの製造業から撤退してハイレベルの製造業に向かう流れが外資系企業が中国の経済発展に適応する上での必然的な選択となっている」と述べた。

データをみると、サービス業の売上高が30兆7000億元(約586兆3700億円)で同8.1%増加し、国内総生産(GDP)の増加ペースを0.7ポイント上回った。サービス業売上高の対GDP比は48.2%に達して同1.3ポイント上昇し、第12次五カ年計画(2011~2015年、十二五)で確定された目標値の47%を上回った。サービス業への固定資産投資は16.8%増加し、固定資産投資全体に占める割合は56.2%に上り、05年以来の最高を記録した。

中国経済構造の調整とサービス業の急速な伸びを受けて、外資系企業は主体的な調整を行わなければ中国経済の「新常態」(ニューノーマル)の要求に適応できなくなっている。

マイクロソフトがノキアの携帯電話事業とサービス事業を買収した後、もともとノキアが所有していた中国の携帯電話生産工場2カ所を段階的に閉鎖するようになったことについて、商務部の沈丹陽報道官は、「これは一つには世界と中国の携帯電話産業の市場競争の激しさにより、市場の局面に大きな変化が生じたということだ。また一つには多国籍企業自身のグローバル戦略調整の結果でもある。多くの日本企業が生産ラインを新たに中国に移す計画を立てており、たとえばパナソニックは最近メディアに対し、福島県にあるルミックスブランドのデジタルカメラ生産ラインの一部を廈門(アモイ)に移転することを決定し、今年5月までに移転を完了させる計画であることを明らかにした」と話す。

 
中国進出日系企業は直接・間接で約1000万人以上の雇用創出といわれる

メリットで優れた海外資本を呼び込み

中国の外資導入構造は深いレベルで調整が行われており、人件費と生産コストは上昇を続け、一部の労働集約型の低レベル製造業を手がける外資系企業は生産拠点を低所得の国に移そうとしているが、中国の高レベル製造業とハイテク産業に流れ込む海外資本は増加することはあっても減少することはない。製造業では、通信設備、コンピューター、電子設備、交通輸送設備といった高レベル製造業の外資導入が好調な規模を維持しており、医療、介護、物流輸送、通信販売などのサービス業の外資導入規模も拡大を続けている。

中国政府も経済成長の質を高めることを前提に、質の高い海外資本に対しより開かれた環境を提供するようになった。

発展改革委は昨年、商務部などの部門とともに「外資系企業投資産業指導リスト(2011年改定)」の改定作業を進め、広く社会からの意見募集を行った。制限類にあたる項目を大幅に削減し、外資系企業の持ち株比率に関する制限を緩和するなどとともに、製造業とサービス業の対外開放を重点的に推進するという方向性を打ち出した。

中国にとって2015年は改革の全面的な深化に突入する重要な年であり、行政の簡素化と下部への権限委譲、経済構造の調整、産業のバージョンアップが一層推進され、改革のメリットが一層放出され、対外開放の水準が一層向上することが予想される。こうした動きは、外資系企業の対中投資におけるメリットが呼び寄せたものであることは間違いない。