「互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならない」
——呉江浩駐日大使の本誌独占書面インタビュー

3月初め中国で「両会」が成功裏に開催され、呉江浩大使は在外外交使節代表として帰国し参加された。先ごろ、本誌は日本の読者が関心を寄せる問題について、呉江浩大使に書面インタビューを行った。

撮影/馮学敏

―― 3月初め中国で両会が成功裏に開催され、大使は在外外交使節代表として帰国し参加されました。その状況と感想をお聞かせください。

呉江浩大使 第14期全人代第2回会議、第14期政協全国委第2回会議が3月初め北京で開かれました。今年の「両会」は全国人民代表大会成立70周年、中国人民政治協商会議成立75周年に当たり、新中国成立75周年で、第 14 次五カ年計画目標の任務達成にとって大事な年に開かれる重要な会議でもありました。大会では過去1年の党と国家の事業における新たな大きな成果を高く評価し、代表らは一致して、これは習近平総書記を核心とする党中央の強力な指導のたまものであり、習近平総書記の新時代の中国の特色ある社会主義思想の科学的な導きのたまものでもあり、全党・全国各民族人民の団結奮闘のたまものであると確認しました。大会では政府活動報告とその他の重要な諸報告が審議・承認されました。代表らは一致して、政府活動報告は習近平総書記の新時代の中国の特色ある社会主義思想と第20回党大会の精神を全面的に貫き、実際に即して成績を総括し、科学的合理的な目標を定め、確実に実行可能な取り組みを提案するものであり、現実を見つめ実務に励み、開拓進取の精神に満ちており、団結させ奮い起こすようなよい報告であると確認しました。大会の成功は、中国人民が揺るぎない自信を持ち、心を一つに合わせ、刻苦精励し、勇躍前進して、引き続き社会主義現代化国家の全面的建設と中華民族の偉大な復興のためにたゆまず奮闘するよう励ますでしょう。

「両会」は全過程の人民民主を集中的に反映し、踏み込んで実践しており、世界が中国を観察し、中国を読み解く重要な窓口となりました。会議期間中、習近平総書記をはじめとする党と国家の指導者が代表団の審議に参加し、代表らと共に国家の大事を共に議論し、発展を共に目指しました。5000名近い全人代代表、政協全国委員が勢ぞろいして、1万3000件余りの各種の議案、提案と意見を出しました。数十人の政府省庁の責任者と委員・代表がメディアを通じて声を発し、市民が急ぎ・困り・憂え・望んでいる問題に焦点を当てて、人民大衆の声と願いをはっきりと反映し、中国の制度的優位性を示しました。今年の「両会」には3000名余りの記者が取材を申し込み、そのうち中国大陸以外の記者が3分の1を超えました。

私は在外外交使節代表の1人として、光栄にも帰国して会議に参加し、報告を聴き、討論に参加し、中国の今後の発展の見通しについてより明確に理解し、より自信を持つようになりました。同時に自身が担っている使命の光栄さと責任の重大さを深く感じました。新しい1年に、われわれは引き続き習近平総書記を核心とする党中央の指導の元に、心と力を結集し、開拓進取の精神で、習近平総書記の新時代の中国の特色ある社会主義思想を全面的に貫き、中国式現代化によって強国建設、民族復興の偉業を全面的に推し進めるでしょう。

―― 日本の各界は中国の経済情勢に大変注目しています。今年の「両会」において中国経済に対する分析と予測をどのように見ていますか。

呉江浩大使 「両会」の政府活動報告は中国経済社会の発展状況について詳細に説明しています。世界経済の回復力が乏しく、外部環境が日増しに複雑になる背景の下で、中国経済は称賛に値する、みごとな成績表を提出しており、安定成長の勢いを維持する見通しです。

第一に経済が全体的に回復し上向き、成長率が世界の上位にあります。国内総生産(GDP)は前年比5.2%増の126兆元(約2752兆円)を超え、成長率が世界の主要エコノミーの中で上位を占めています。世界の経済成長への寄与度が32%に達し、世界の経済成長の最大のエンジンであります。1人当たりGDPは1.2万ドル(約190万円)を超え、1人当たり可処分所得は6.1%伸び、中間所得層は4億を超えなお着実に増えています。最新統計によると、2024年第1四半期のGDPは前年同期比5.3%伸びており、国民経済は好スタートを切り、プラス要因の蓄積が増え、年間5%前後の成長という予測目標の実現のために比較的良い基礎が築かれました。

第二に科学技術イノベーションのブレークスルーが実現し、産業の高度化が着実に進められました。中国はいまイノベーション駆動型発展戦略を掘り下げて実施し、新たな質の生産力の急速な発展を後押ししており、質の高い発展のための新たなエネルギーが持続的に注入されるでしょう。習近平総書記は「両会」期間中に江蘇代表団の審議に参加した際、質の高い発展という第一任務をしっかり把握し、現地の実情に応じて新たな質の生産力を発展させなければならないと強調しました。昨年中国の科学技術研究開発投資は3.3兆元(約72兆円)を超え、再び過去最高を更新し、研究開発能力は著しく増強されました。いくつかの先端領域の国産化と重大技術の応用で重要なブレークスルーが図られ、国際特許出願数は4年連続で世界1位を占めています。電気自動車(EV)、リチウム電池、太陽光発電(PV)製品の「新三様」の輸出は1兆元(約21兆8400億円)を突破し、前年比30%近く伸びました。さらにデジタル経済が急速に発展し、5Gユーザーの普及率が50%を超えました。新たな質の生産力はすでに実践の中で質の高い発展に対し力強い推進力とサポート力を形成しかつ注目されるようになっています。

第三に高いレベルの開放が奥深く進められ、ビジネス環境が改善し続けられました。開放は現代中国の鮮明な標識です。今日の中国は140余カ国・地域の主要な貿易相手で、関税の全体的水準は7.3%に下がっています。2023年に成功裏に開催された第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムでは計458件の協力成果がまとまり、中国の「一帯一路」共同建設諸国との輸出入額は2.8%伸びました。昨年、中国の輸出は世界的な需要不足と2022年の高ベース効果などの要因の影響に耐え、0.6%の成長を実現し、実績は大多数の主要エコノミーよりも好調でした。産業チェーンが長く、付加価値が比較的高い通常貿易の輸出全体に占める割合は64.6%に達し、貿易構造は一段と最適化されました。中国はまた、製造業分野の外資参入制限措置の全廃を宣言し、「外資24カ条」を打ち出し、ビジネス環境の最適化を続けて、外資の中国での発展によりよく助力しています。われわれは引き続き外資参入ネガティブリストを縮小し、一部業種の外資参入制限を緩和または撤廃し、中国と諸外国間の人の往来を円滑にする一連の取り組みを確実に実施し、全世界のより多くの生産要素を中国市場に呼び込んで、投資家のためにより多くの市場チャンスを生み出していきます。

ここしばらくの間、国際社会の一部の声が中国経済が直面している課題を意図的に膨らませ、いわゆる「ピークチャイナ論」を言いはやされていますが、これは完全に中国経済の基調についての無理解と見通しの読み違いです。中国の発展はさまざまな困難・試練を経て今日に至っており、過去にも「中国崩壊論」のゆえに崩れたことはなく、現在も「ピークチャイナ論」のゆえに頭打ちになることはありません。中国経済が回復し上向き、長期的に上向いていく大きな趨勢は変わっておらず、質の高い発展を図り続け、中国式現代化を進め続ける中国は、中国人民のよりよい暮らしを守るだけでなく、世界経済の回復・発展により大きく貢献していくでしょう。

―― 今後の中日経済協力をどのように見ていますか。

呉江浩大使 国交正常化以来、中日の経済協力は無から有へ、小から大へと、天地を覆すような発展・変化をとげてきました。二国間の貿易額は長年連続して3000億ドル(約47兆5000億円)を超えており、中国は日本の最大の貿易相手と最大の輸出市場であり、中日貿易は日本の対外貿易額の5分の1以上を占め、日本企業の中国投資は累計1300億ドル(約20兆6000億円)を超えています。調査によると、この5年間の日本企業の中国直接投資の収益率は18%を超え、外国企業の中国投資の平均収益率よりもはるかに高い。双方は利益が深く絡み合い、産業・サプライチェーンが密接につながり、実際に切り離すことのできない利益共同体になっています。2022年に地域的な包括的経済連携協定(RCEP)が発効し、中日間初の自由貿易協定(FTA)となりました。目下中日の経済協力は転換・高度化の新しい段階に入っており、将来を見据えて、双方は以下の数点に取り組むべきです。

1、協力に揺るぎない自信を持つ。近年中日の経済協力はいくつかの新たな課題を抱えています。第一に中米の駆け引きなどの外部環境と中日関係の複雑な要因の妨害を明確に受けていること。第二に互いの同質的競合が増え、一部の日本企業は対中協力に懸念と心配を持っていること。双方は中日経済協力に揺るぎない自信を持ち、「互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならない」という位置づけを堅持し、戦略的互恵関係の全面的な推進という枠組みの下で、思い切って経済協力を進めるべきです。勝つか負けるかのゼロサム思考を捨て、相互に促進し、互いを成功させる心構えで共に発展できるよう努力しなければなりません。

2、協力の余地を広げる。中日は産業構造が補完的で、生産システム、供給システムが深くかみ合っており、双方には新科学技術、新エネルギー、デジタル経済、医療健康、第三国市場協力の面で協力の大きな潜在力があり、少子高齢化への対応など社会管理面で共通の課題を抱えており、共に発展する新たな構造の形成を模索し、中日経済貿易協力の乗数効果を一段と引き出すようにすべきです。とりわけ中国は世界最大の消費市場を擁し、新しい技術、新しい方法、新しい製法の市場化と国際的移動に深く影響を与えており、中国のイノベーション活力、市場の優位と日本の技術的特色を結合すれば、経済協力の新たな天地を切り開くことは完全に可能です。もろもろの似たような経済社会発展と地球規模の課題を抱える中日両国は、第三国市場協力やグローバルサウスの台頭など大きなチャンスを迎えており、双方がチャンスを逃さず、時代と共に進み、協力の新しいモデルと余地をたえず広げていくよう希望します。

3、開放・ウィンウィンを堅持する。大国間の競争はずっと存在するが、グローバル化の大勢は阻めません。「小さな庭の高い壁」(スモールヤード・ハイフェンス)を人為的につくり、デカップリング・チェーン切断を強引に進めるいかなる行為も、持ちつ持たれつという各国の経済依存関係を変えることはできません。自らをより強くできないだけでなく、逆に自国企業の利益を損なうことになり、真の経済安全保障にマイナスです。世界の主要なエコノミーである中日両国は、選択的協力を行い、一方的に利益を受けるようなことをしてはならず、まして中日協力で何ができるか何ができないかを他国によって決定されてはなりません。双方はグローバル経済ガバナンスに積極的に参加し、公正、合理的、透明な国際経済貿易投資ルール体系を築き、貿易と投資の自由化・円滑化を促進すべきです。そして、経済問題の「安全保障一般化」というワナを打破し、グローバルな産業チェーン・サプライチェーンの安定性と円滑さを守り、世界経済の一段の回復・発展を図るようにすべきです。

―― 今年の「両会」で語られた中国の外交政策をどう読み解きますか、それは中日関係にどのような影響を及ぼすでしょうか。

呉江浩大使 昨年末に開かれた中央外事工作会議は、新時代の中国の特色ある大国外交の歴史的成果と貴重な経験を全面的に総括し、新たな征途の対外活動を取り巻く国際環境とその歴史的使命を掘り下げて説明し、当面と今後一定期間の対外活動について全面的な手配を行い、人類運命共同体構築の推進という外交活動の主軸を明確にしました。今年の「両会」は中国が独立自主の平和外交政策を堅持し、平和的発展の道を歩み、互恵・ウィンウィンの開放戦略を揺るぎなく実行することを再確認しました。われわれは引き続き平等で秩序ある世界の多極化とインクルーシブで包摂的な経済グローバル化を提唱し、新型国際関係の構築を図り、覇権覇道・いじめ行為に反対し、国際的な公平正義を守っていく。引き続き国際社会と共に、グローバル発展イニシアチブ、グローバル安全保障イニシアチブ、グローバル文明イニシアチブを実行に移し、全人類共通の価値を広く発揚し、グローバルガバナンスシステムの変革を後押しし、人類運命共同体の構築に尽力していくことです。

昨年11月、両国の指導者は中日の戦略的互恵関係の全面的な推進を再確認し、矛盾・意見の食い違いの適切な処理と交流協力の拡大で共通認識に達し、両国関係の改善・発展のために重要な政治的指針を与えました。目下国際情勢の混乱が深まり、世界はより大きいリスクと不確実性に直面しています。地域と世界の重要な国である中日には両国関係のしかるべき基本軸をきちんと守り、新しい時代の要請にふさわしい中日関係を共同で築き、世界により多くのプラスエネルギーと安定性を与える責任と義務があります。ここで、中日関係はなお一連のリスク・挑戦に直面し、外部要因の強い妨害を受けていることを見なければなりません。団結か分裂か、対抗か協力かという時代の問いを前にして、日本は戦略的自主性を維持し、冷戦思考から脱却し、特に中国の脅威を言いはやすことをやめ、真に正しい対中認識を確立し、「互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならない」という政治的コンセンサスを確実に実行に移して、中国と共同で両国関係を正しい軌道に沿って安定させるようにしなければならないと思います。