旧正月を忘れて久しい自分が今年は偶然にも大晦日にあたる2月9日に憧れのメキシコを訪れ、その後ニューヨークに行っては家具をアパートに運ぶ作業をし、東京に帰り着いたのはお月様がほぼ満月になる「元宵節」の夜で、機内から眺める夜空の満点の星とお月様は感激そのものだった。まともに旧正月を過ごした感が強い一年になったかもしれない。
ドバイ経由でサウジアラビアに取材旅行に行ってきた。潤年なので29日に出発する予定だったが(4年に一度の珍しい日に出かけたいという小さな願望)、ドバイで乗り換え便がないという理由で結局1日早い2月28日に出発した。
サウジのリヤドで開催されているディルイーヤ・ビエンナーレとアルウラ(ALULA)でのデザートX(DESERT X)展は、すごく衝撃的だった。観光ビザ解禁間もないこともあり、世界遺産のあることで有名なアルウラの街のホテルは驚くほどエキゾチックだった。立派なホテルもなくはないが、それまた驚く値段だ。アルウラでは2000年前の世界遺産の遺跡群が素晴らしい。しかし車で移動すると砂漠の岩山の中に現代の人間が造形した壮大な作品たちが点在する。「言葉がない」というのが実際の感想だ。
解説してくれるスタッフの女性はご両親がコレクターで、ロンドンで学んだという。砂漠の中には16点の作品が設置されているとのことだったが、時間と体力の限界ゆえに、おそらく3分の2ほどを見ることができた。その中でも、Kim Sooja の To Breathe -ALULa は、時間と光によって異なるレインボーの形を作り出し、さまざまな角度で違うものが見られる彼女の世界観を演出をしていた。Ibrahim MAHAMAのA I Manshiyah Plaza にあるhanging Garden は見られなかったが、砂漠のど真ん中に設置されているHarrat Uwayrid の Gabli Din Pali-A Full Gourd Does Not Rattle;It Is Only a Partiallyは見ることができた。遠くアフリカから運ばれた大きな壺が、砂漠に置かれて存在感を増していた。そこには、作品に託された時間と空間が遠くに生きる人たちの生活を物語っていた。
Giuseppe PenoneのLa Logica del Vegatale-Metamorphosis は、自然の木の形をブロンズ、石、砂、木へと転換していた。その砂漠のブロンズのオブジェの前で簡単な取材をしてみた。
南條史生氏は、1972年に慶應義塾大学経済学部、77年に文学部哲学科美学美術史専攻を卒業。78年から86年まで国際交流基金、同86年から90年までICAナゴヤディレクターを務め、美術に関わる多様な業務をこなすエヌ・アンド・エー株式会社を長年運営している。2002年から06年まで森美術館副館長、その後19年まで館長を務め、インドアートやアラブアート、東南アジアアートなど、日本初となる展示会を多数オーガナイズした功績がある。また、2016年からマニラ現代美術、デザイン美術館(MCAD)理事、20年から同館特別顧問、シンガポールアートミュージアム理事、弘前レンガ倉庫美術館特別館長補佐、十和田市現代美術館総合アドバイザー、23年5月からアーツ前橋特別館長を務めている。
国際展では、1988年にヴェネツィア・ビエンナーレ「アペルト88展」コミッショナー、97年にヴェネツィア・ビエンナーレ日本館コミッショナー、2001年に横浜トリエンナーレのアート・ディレクターに就任するなど、数多くの国内外の重要なビエンナーレやトリエンナーレにキュレーションし、同時に国際展の審査員を務め、国際シンポジウムにスピーカーとしてレクチャーおよびアートトークに参与している。
リヤドに帰リついた際、Diriyah contemporary Art Biennale2024の解説にも最も熱心に耳を傾け、的確な質問を英語でしている姿には「さすが」と思った。いい質問をすることは簡単そうで、実はレベルの高さが要求される。
悠久の歴史を持ち、街全体が世界遺産に思えたアルウラと建設ラッシュに入っているリヤドは、観光ビザが解禁されて間もないせいか、まだホテルなどのインフラが整備されていない部分は否めないものの、アートシーンでは、女性たちがしっかり働いているという印象が強かった。個人的には、3月初旬に発表したばかりの「女性の着装自由」に注目している。街を行き交う女性の頭から顔、足先まで、すっぽりと黒布で隠し人の目しか見えない黒装束が如何に変遷していくのか、その女性たちがどういうアートを作り出し、発信していくのかに興味がある。まだ、検証には早いようだが…。
リヤドでは、最終日にナショナル・ミュージアムを参観してきた。オールド・タウンには行く時間がなかったので、とても残念だったが再度訪ねることを密かに心に決めた。
やはり、アートは一人で観るのも大勢で観るのも楽しい。常に新鮮なインスパイアを秘めている。
リヤドのディルイーヤ・ビエンナー レ Diriyah contemporary Art Biennale2024 は「アフターレイン After Rain」というテーマで開催されていた。サウジアラビア政府の「ビジョン2030年」は、サウジの文化、芸術を振興させる国家プロジェクトだ。北京の798にある東京画廊や Ucca で経験を積んだメンバーや、ヨーロッパ系列でアジアを熟知しているアートシーンの人材たちが集められ、ビエンナーレがインターナショナルになるプロセスが垣間見えた。アートエリアが旧工場地帯というのはSoho や798を参考にできるからでもあろう。
詳しく解説をしてくれるツアーが組まれたが、時間的余裕がないので少し早めてもらい、ランチをしながら交流をした。南條氏とのサウジアラビア取材旅行は同行したみんなの履いたスニーカーにさようならを言う印象深い旅になった。
洪欣
東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。ダブルスクールで文化服装学院デザイン課程の修士号取得。その後パリに留学した経験を持つ。デザイナー兼現代美術家、画廊経営者、作家としてマルチに活躍。アジアを世界に発信する文化人。
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