不動産投機に走り、イノベーションが疎かに
実体経済の危機、革新力を欠く中国企業

昔は「私はこの土地を心から深く愛している」と歌われた歌が、今では「私はこの土地とその上の建物を心から深く愛している」と歌われ、中国人の願望を最も象徴するようになった。企業主は方法を講じて土地を入手し、住宅を建てることに思案をめぐらす。庶民は自分が住む家の他にも利殖のためにローンで家を買う。21世紀初頭から現在までに住宅価格は倍に跳ね上がり、不動産市場は人々が巨額の利益を得るための宝庫になっている。今や誰もが不動産投機に走る風潮が急激にはびこっているのだ。専門家は、企業が不動産投資に熱を上げ、実体経済を発展させ科学技術の革新を進めることを疎かにしていると指摘している。政府は暴利の背後にある要因を規制して、実体経済で利潤を上げるべきだ。

さまざまな資金が

利益を求めて不動産市場へ

人々が不動産投機に熱を上げる風潮は20世紀末に温州の不動産投機グループから始まり、今世紀初めからは、銀行から金を借りて先行して家を買うやり方が至るところで広まった。同時に、銀行が住宅を担保にした貸付業務を拡大し、野心的な人は少量の手持ち資金で家を購入するようになった。その後、住宅価格が倍々ゲームで上昇し、インフレ圧力が増大するにつれて、ますます多くの人々が不動産投機に身を投じることになった。経済学者の頼偉民氏の調査では、2009年の下半期以降に住宅を手に入れた人の80%は投資目的だという。住宅に投資する人たちは皆、銀行に金を預けておいても価値は下がる一方だと考えているのだ。

企業が不動産市場に賭ける熱気はさらに強い。当初主に民間企業だったが、2009年からは国有資本が大挙して不動産市場に進出した。ある機関の統計によると、2012年に北京で取引された37カ所の住宅用地のうち国有企業は24カ所を取得し、取引額の66%を占めるという。SOHO中国の潘石屹董事長は「一級不動産の市場は基本的に中央の企業が主導し、地元の国有企業が開発をサポートする相対的な独占市場が徐々に出来上がりつつある」と語っている。

また、外国企業による投資、国際的なホットマネー、貸付資金なども不動産市場での利益獲得競争に参入し、市場の膨張を後押ししている。頼氏は「人民元の上昇が国際的なホットマネーの流入をもたらし、こうしたホットマネーが人民元資産の購入を通じて利益を得ている」と指摘している。

 

忍び寄る巨額利益の誘惑

人々が不動産業界に血眼になるのは、それが高額のリターンをもたらすからだ。浙江省のある民間メーカーの社長は2006年に友人に進められて何度か不動産に投資した。この社長は「最初は、友人を資金面で援助するつもりでこの業界に首を突っ込んだ。1億元(約16億3600万円)に満たない投資額で、2年後には元手以上の利益が出た。企業がどんなに努力し、苦労して経営してもこんな利益率は望めない」と驚いたように語った。

現在では不動産業が暴利を貪っていた時代は遠のき始めたとはいえ、それでも業界全体としては依然として潤沢な収益を上げている。統計では2012年の不動産業界の売上総利益率は平均33%前後で、トップ10はいずれも45%以上となっている。

暴利の誘惑が不動産業への熱い思いを冷め難くしている。中国国家情報センター経済予測部世界経済研究室の張茉楠副研究員は「不動産の過熱は中国経済に出現した問題点を暴露しています。それは中国の製造業に現れた空洞化の状態です。多くの企業が実体経済をやるより不動産の方が手っ取り早く、かつ余計に儲けられると考え、続々と実体経済から『逃亡』して不動産市場に参入している」と語っている。

専門家は「不動産業界が暴利を得られる背後には、地方政府が土地に依存して政治業績を上げていることがあります。つまり、少数の役人が税源確保のためにデベロッパーと手を結んで利益同盟を結成することから来ているのです。この問題を解決するには、政府が土地市場を独占している状況を変革し、権力で税源を確保するという土壌を取り除く必要がある。同時に、システム全体のガバナンスを整理する必要もある」と指摘している。

 

ハイテク企業の

研究開発意欲を削ぐ

不動産業が暴利を貪ることの最大の弊害は、企業の革新力を失わせることだ。 浙江省のある上場企業の社長は「我社は創業以来、革新で名を馳せて来た。この数年、生産量はほぼ毎年倍々で増えたが、2008年に国際金融危機に見舞われた後、不動産への投資を始めた」と語っている。革新には大きなリスクが伴う。だがもし不動産に投資するのであれば大いにリスクを軽減できるだけでなく、潤沢な利益を得ることができるのだ。

多くのハイテク企業も不動産投機に熱を上げている。不動産の暴利が革新力を失わせるのは、金利裁定取引で得た大量の資金が利益を上げやすい不動産市場に流入し、成長や革新のために必要な資金が相対的に高いリスクのためにショートするという点にも現れる。

専門家は、不動産業は専門性が非常に低く、創造性も小さいため、仮にある地域で不動産業の占める比重が増えると、その地域の経済構造を不動産依存型にしてしまい、経済全体の持続的な発展に不利になると指摘している。張茉楠副研究員は不動産に対する熱を冷ますには、製造業と実体経済の利潤を拡大することがどうしても必要だ、としている。