企業への重複課税を減らし社会分業細分化を促進
『営業税から増値税への変更』は地方財政迫にはつながらず

営業税から増値税への徴収変更という、中国の税制建設の一里塚となる事案が最近、社会全体の関心を集めている。中国では2012年1月に「営業税から増値税への徴収変更」(以下「営改増」)の試行がスタートして以来、中小規模納税者の税負担が軽減されている。中国国務院は2013年8月1日から、この試行地域と対象となる産業を全国規模で拡大することを求めている。「営改増」の試行範囲の拡大後に、企業と消費者は税額軽減の恩恵を受けられるのかどうか? 多くの人々が大いに関心を持っている。

重複した課税を減らし、

社会の分業を細分化

中国では1994年から貨物と労務に対して、それぞれ増値税と営業税を課す制度を採っている。増値税は中国の最大の税収源であり、営業税は中国の各地方にとって最大の税収源だ。ところが、経済の成長につれて、2つの税を並行して納める弊害がますます明らかになってきた。

業界人は、改革により企業の重複納税を減らすことができると分析している。営業税についていえば、流通の過程が複雑になるほど、重複課税の現象が深刻になる。同時に、現行の税制下では、増値税と営業税は課税対象が異なっており、増値税が完璧にリンクすることができないため、借受税額と仮払税額の不一致により重複課税が起こりやすい。

専門家は、税を減免して利益を増やすことが「営改増」の唯一の目的ではなく、第三次産業の成長のボトルネックを打ち破り、その細分化や専門化を推進することが重要な目的の一つだとしている。サービス業は主に営業税を納めるが、これまで企業は重複した納税を減らすために『大而全』あるいは『小而全』(注)の方向に発展しやすかった。営業税から増値税に徴収変更されれば重複課税が無くなり、企業は余計な重荷を取り払って専門化、細分化を図ることができる。上海市政府発展研究センターの周振華主任は「営業税から増値税への徴収変更を図ることは税額を減らすという問題だけでなく、主として経済運営のメカニズムを変換して社会分業を細分化することに大いに意義があり、ある種革命的な変革と言えます」としている。

「営改増」が最も早く試行された上海市では、すでに改革の旨味を味わっている。中国財政部と上海市政府が発表した通達は、試行した産業では全体的な税負担が減少し、サービス業の成長促進に効果的だとしている。統計によると、2012年末までに試行地域はすでに全国の12の省市に拡大している。中国財政部のデータでは、「営改増」試行の実施範囲に組み入れられた地域の納税者は2013年2月までに100万件を超えており、試行地域の企業への直接的な減税額は400億元(約6280億円)を超えている。

 

2013年に企業が軽減される

税負担は1兆9000億円

大多数の企業にとって、「営改増」後は少なからぬ恩恵を得ることができるが、その恩恵の度合は企業のタイプによって異なる。南京財経大学財政税務学部税務学科主任の陸新葵准教授は「営業税の算定根拠は営業額ですが、ある商品が生産者から流通を経て消費者の手に渡る過程で、経由する節目が多いほど重複して課税される回数も増えることになります。しかし増値税の課税の根拠はその時の付加価値部分だけですから中間の節目がどれほど多くても、企業の負担は減らせます」と紹介している。

増値税は販売額から仕入れ等の費用を差し引いた差額に対して課税されるため、「営改増」の試行後は全体として企業の税負担は軽減される。「改革試行後は、控除される設備、材料などが多く、流通のチェーンが多い企業にとっては、比較的大きな恩恵を受けられます」と陸新葵准教授は強調する。

紹介によると、一部の大型交通運輸企業の場合、元々は営業税を納めており、その適用税率は3%であるため、仮に1年間の運送収入が500万元(約7800万円)なら、15万元(約234万円)の税を納める必要があった。改革後は運送手段の購入や給油の際の増値税を控除すると、税負担はこれまでより5万2300元(約81万6000円)減ることになる。文化創造産業型企業については、これまで設備購入の際に増値税を納める必要があり、創作作品を販売する際には営業税を納めなければならなかったが、改革後は商品の付加価値部分についてのみ納税すればよくなる。このほか、今回の試行はテレビ番組制作産業にも拡大されることから、一部にはこれまでの5%の税率が「営改増」でさらに引き下げられるかもしれないという目論見もある。

試算によると、今回の「営改増」試行地域の拡大後、2013年に軽減される企業の税負担は約1200億元(約1兆8730億円)になるという。

 

消費者も受益者に

企業が実際の恩恵を受ける以外に、消費者も恩恵を受ける。「営改増」後、もし企業あるいは業界の実際の税負担が減れば、製品販売価格の適度な引き下げにもつながるし、購入コストの面でも消費者に有利となる。

営業税は中国の地方にとって最大の税源であり、企業と消費者が実際の恩恵を受ければ、政府の税収は減ることになる。試算によると、仮に全国的に「営改増」が広げられると、中国の年間の税収額は1000億元(約1兆5600億円)以上減少する。しかし、これについて地方政府はさほど心配していないようだ。減税は企業の成長に有利であり、企業の経営にとって好ましいため、政府の税収基盤はますます大きくなる可能性がある。上海市の屠光副市長は「税制の障害を取り除けば、サービス業の長期的な発展に有利で、ある程度の税収を犠牲にするだけの価値はある」と話している。

改革の計画では、最終的には九大産業のすべてで「営改増」が実施される。中国国務院は『第12次五カ年計画』期間中に「営改増」改革をできる限り全面的に完了し、企業の活力を奮い立たせて、不断の雇用拡大と、住民の収入増を実現させることを要求している。上海財経大学公共経済・管理学部の胡怡建教授は「『営改増』改革の試行地域の全国への拡大は必須であり、さもなければ地域によって税制が異なることは全国的な資源の合理的配置にとってデメリットになります」と指摘している。

 

(注)

『大而全』:生産規模が大きく、人員・設備・資材など生産に必要な条件が完備していること

『小而全』:規模が小さいのに生産設備や機構がすべてそろっており、むだな設備が多く専門化の程度の低いこと