使用範囲が日々拡大 越境業務が3割も激増
人民元、世界主要通貨へさらに邁進

人民元は国際社会でますます歓迎され、国境を越えた決済の総量は引き続き増加している。中国人民銀行が公表した最新のデータは、2012年1月から9月までの全国規模の越境人民元貿易とその他の業務の決済総額が対前年比33%増の2兆500億2000万元(約26兆9300億円)に達し、すでに2011年通年の決済総額2兆800億元(約27兆3200億円)に迫っていることを示している。

国境を越えた決済は引き続き上昇

人民元の国境を越えた決済の中では、物品貿易が占める比重が大幅に増加している。中国人民銀行通貨政策二司のインスペクター、王丹氏によれば、2012年の人民元による越境貿易とその他の業務の決済額の中では、物品貿易の決済総額が対前年比22.9%増の1兆4000億元(約18兆3900億円)で中国の同時期の対外貿易総額に占める比重は7.9%に達しているという。

物品貿易以外では、資本市場で人民元が使用される割合も上昇している。王丹氏は、「中国人民銀行の統計では2012年9月末時点で他の国や地域が中国国内に開設したNRA(非居住者口座:国内の銀行が国外の組織のために開設する国内の外貨口座)は既に5567口座あり、口座残高は726億5000万元(約9543億円)、また2012年1月から9月までに全国で取り扱った人民元による対外直接投資の決済金額が221億元(約2903億円)、同時期の外資による直接投資決済金額が1545億1000万元(約2兆295億円)で、国外プロジェクトに対する人民元融資は既に977億7000万元(約1兆2842億円)が承認されており、いずれも2011年の同時期より大幅に伸びています」と語っている。

また、中国社会科学院世界経済政治研究所華人華商研究センターの特別研究員、武欣欣氏は「人民元の越境決済は引き続き増加しており、人民元の国際決済通貨としての程度が向上していることを表しています。この現象は人民元が国際流通通貨となる日がますます近づいていることを示唆しています」と述べている。

昨今ではさまざまなチャネルを通じて人民元を手に入れることができる。王丹氏によれば、現在、国外企業は貿易決済、中国企業による対外直接投資、中国国内の決済銀行に対する人民元立ての貿易融資申請、国外の関係銀行による人民元の購入あるいは介入、国外における人民元立て債券発行による融資、国外の関係銀行による中国の銀行間債券市場への投資などのチャネルを通じて人民元を取得することができるうえ、国外の企業は手持ちの人民元を貿易の支払いや中国国内での直接投資、あるいは香港やロンドンなどでの人民元立て債権やその他の人民元立て金融商品の購入に使用することもできる。

為替変動リスク低減が可能

世界経済が低迷している現在、人民元の越境決済がますます熱を帯びてきているのは何故か。武欣欣氏の分析では、米ドルが下げ続け、ユーロ圏の経済情勢が芳しくないためにユーロも不安定な現在の状況下で、人民元の強さが際立っている。しかも人民元は昨今一貫して値を上げていることから、人々は米ドル、ユーロ以外の、より信頼できる通貨、ハードカレンシーを求めているのだという。

企業が喜んで人民元を使うのは、他にもある程度の為替変動リスクを避けられるからだ。「人民元決済規模の拡大は国際貿易での人民元決済と評価により大きな可能性を与え、それによって人民元相場の上昇が企業の輸出に与える圧力を緩和することが出来ます」と武欣欣氏は指摘している。

広発銀行本店の宗楽新副頭取によると、「現在企業は人民元立て越境決済方式を通じてコストと収益を固定し、為替の変動がもたらす経営リスクを回避することを強く望んでいる」という。王丹氏は、「国内外の金融組織の推計では人民元決済の取引コストはその他の通貨による取引コストより2%から3%低く、貿易企業にとっての意義は重大だ」としている。

ますます多くの企業が越境業務の中で人民元を選んでいることについて、HSBC中国工商金融サービス部の何舜華総経理は、「一面では絶えず拡大する為替の振れ幅に企業が従来よりいっそうの対応が必要であることを示しており、別の面では人民元の越境業務のフローがますます簡素化されたことに企業が使い勝手の良さを感じていることを反映している」と見ている。

人民元国際化のプロセスが大幅に加速

昨今、人民元国際化のプロセスはさらに加速しており、今後の見通しは明るい。何舜華総経理は「人民元の国際化は中国経済と貿易の発展が推進する自然な発展プロセスで、人民元は徐々に世界の主要貿易通貨の仲間入りに向けて進んでいます。2015年には、人民元立ての貿易総額は中国の対外貿易総額の3分の1を占めるでしょう」と指摘している。

正に中国経済の今後を楽観視していることによって、人民元に対する国際的な期待はますます高まっている。武欣欣氏は「中国はすでに世界第2位の経済体であると同時に世界最大の『健全財政国家』です。中国は今後5年から10年は、国家財政の投入による経済牽引だけで引き続き成長を持続することができます。これは他の国には真似のできないことで、中国経済の前途に対するこうした認識は国際的にも人民元に対する強い信頼を築き、だからこそ人民元に対する非常に高い期待にもなっています。こうした状況の下で、人民元の越境決済は今後も大幅な増加を続け、人民元が国債流通通貨になる日も間近でしょう」と見ている。

王立スコットランド銀行は関連するレポートの中で、世界的な経済の衰退は中国が人民元の国際化を加速させる触媒になり、人民元は5年以内に徐々に全面的な国際化を実現するだろうと予測している。

武欣欣氏は「中国のような国際通貨管理の経験に乏しい国は、人民元越境決済が拡大する中で、そこに含まれるホットマネーを警戒し、タイ・バーツやロシア・ルーブルの過ちを繰り返してはなりません」と注意を喚起している。