「ブランド志向」を狙ったマーケティング
なぜ中国人はぜいたく品を買い求めるのか

ロンドンオリンピックで中国はメダル争いのランキング上位に位置しているが、観戦に訪れた中国人観光客もまた大いなる消費能力で世界を驚かせている。

データによると、オリンピック期間中、最も豪勢な観光客は中国人で、1回当たりの買い物額は平均で203.04ポンド(約2万5400円)にも達し、第2位のアラブ首長国連邦より10%も多いという。

特に中国人観光客のぜいたく品の購買力はさらに人々を驚かせており、債務危機の影響に苦しんでいるヨーロッパのブランドを大いに儲けさせている。海外でのぜいたく品消費が落ち込み気味の今日、中国のぜいたく品消費は減るどころかかえって増えているのだ。

海外ブランドのターゲットは中国人

生活必需品ではないぜいたく品と普通の品物との区別は、ぜいたく品がある程度の希少価値や品質の良さ、シンボル性を備えている点だ。そのため、ぜいたく品の消費は経済の発展レベルや経済の実力と密接に関連している。

世界の主要なぜいたくブランド品の発祥地である欧米が、これまでずっとその消費の主力だった。だが近年の世界的な経済成長の鈍化でぜいたく品に対する消費ニーズは激減している。これに反して、中国はぜいたく品消費の伸びが世界でも最も高い国になってきている。マッキンゼーが2011年3月に発表したレポートでは、中国の消費者がぜいたく品に支出する金額は毎年18%も増加しており、2015年には270億米ドル(約2兆1500億円)に達して世界第1位となると予測している。

とりわけ海外への中国人観光客の猛烈な増加につれて、海外でぜいたく品を買うのが旅行客の重要な目的になっている。旅行会社は何のためらいもなくコースの中にショッピングを組み込み、国際的に一流ブランドが多く集まるショッピングスポットはすでに中国人観光客が必ず訪れる場所になっている。

目的は見せびらかすため

中国人はなぜこんなにぜいたく品に夢中になるのだろうか。実際、中国の経済水準が高まるにつれて、人々は日常消費する品物についても基本的な機能だけでは満足せず、品質やブランド、付加機能などを求めるようになってきている。

世界ラグジュアリー協会(WLA)の調査によると、中国人のぜいたく品購入者の70%以上がぜいたく品を伝統的な贈答品に代わる社交のための道具として、さらに個人の社会的価値を表す強力なレッテルとして考えている。

また、多くの若者たちが主流を追いかける心理に追随しているために中国のぜいたく品購入者の低年齢化が日々進んでいる。自分が本当にそのブランドが好きで、そのブランドがもつ文化やデザイナーの理念を重視している消費者はごくわずかにすぎない。

こうした「表面的な消費心理」は単にぜいたく品のブランド価値や表面的な効果を重視するだけで、商品自体の使用価値を重視するわけではなく、自分がぜいたく品を持っていることで社会的地位と財力をひけらかすためだ。

中国社会科学院財経戦略研究院の依紹華副研究員は「中国の消費者がぜいたく品を買う主な動機は『見せびらかすため』で、ぜいたく品で自分の身分や地位を強調して虚栄心を満足させるためだ」とし、「中国のぜいたく品購入者の平均年齢は25~35歳だが、発展した国々では40~70歳だ。

「すぐにぜいたくに走る」消費観の変革

数千元のブランド物衣装、バッグ、あるいは百万元(約1240万円)を超える高級スポーツカーであれ、いずれのブランドも、その業績の伸びの背後には必ず中国人消費者の大きな貢献がある。

世界最大の高級車メーカーBMWの中国市場への依存度は従来よりさらに強まっている。2012年5月の中国でのBMW販売高は前年同月比31.5%の伸びを示したが、4月の前年同月比もまた30.8%だった。BMWは2012年の1~5月のBMW系自動車の中国での総売上が13万5000台を超え、対前年伸び率が34.4%にも達したと明らかにしている。

だが、世界的な金融危機を背景として海外でのぜいたく品の消費が不振に陥っているのに、中国だけは販売が活発だという状況は、はたして中国が十分豊かになり、消費水準が大きく向上したためと説明することができるのだろうか。

世界4大会計事務所のひとつであるKPMGが発表した『中国ぜいたく品レポート』は「中国の消費者の全体的な富裕度は必ずしも高くはなく、消費の大部分は衣料品、香水、時計などの個人用商品に集中しており、商品主導型の消費に属している。発展した国々では人々がぜいたく品の購入に投じるのは収入の4%だが、中国では40%ないしそれ以上を投じている。つまり中国人消費者の多くは未だぜいたく品を購入するほどの富裕条件を備えていないにもかかわらず、ある種のぜいたく品を買っている」ことを明らかにしている。

ぜいたく品に対する消費観自体が相当歪んでおり、「盲目的な追随」と「ブランドに対する渇望を狙ったマーケティング」という要素のうえに、現在の世界第2位のぜいたく品消費大国という中国の地位があるわけだ。

したがって、健全な消費観念を確立し、中国人の消費を合理的な方向に誘導することが必要になる。

依紹華副研究員は「『多少豊かになるとすぐぜいたくに走る』という消費観を変え、自分の負担能力を超えるぜいたく品購入を減らし、必要なものだけを買うという抑制的習慣とリスク管理能力を身につけることが必要だ。同時に、ぜいたく品購入者の品格を高め、彼らが積極的に社会的責任を担うとともに公益的な活動を自主的に引き受け、その財力を外部へ回すようにすべきだ」と語っている。