欧州債務危機の前途は不透明
中国の米国債保有増は「仕方のない選択」

アメリカ財務省は最近、5月末までの世界各国、地域の米国債保有状況を発表した。中国が保有する米国債は5月に52億ドル(約4070億円)増加して合計で1兆1696億ドル(約91兆5000億円)となり、米国債の保有高としては依然として世界各国、地域の中で最高となっている。米国財務省のデータでは、中国はここ2カ月連続で米国債の保有を増やし、2カ月間合計の増加額は256億米ドル(約2兆38億円)となっている。

ベストではないがベターな選択

市場のリスク回避気分と米ドルの上昇傾向が投資家を米ドルに向かわせている。中国商務部国際貿易経済合作研究院の梅新育研究員は、「現在、中国の国際収支は基本的に黒字のため、これら増加した外貨収入の相当部分が外貨準備に回る。3月の中下旬から始まった米ドルの上昇傾向ははっきりしており、市場関係者の目は自ずと米ドルに向けられている。中国の外貨準備高は数兆ドルに達しており、増加した外貨準備のうち、米国債への投資を増やすのは妥当な選択だ」と答えている。

今回、中国の米国債保有高が増加した原因について、中国国家情報センター予測部財政金融研究室副主任でシニアエコノミストの李若愚氏は、「現在、世界経済全体が低迷している状況で、欧州では債務危機が勃発し、日本経済の状況も楽観を許さないことから、米国債の相対的な安全性、流動性、収益性などの特徴が中国に仕方のない選択をさせている。アメリカでも金融危機はあるが、他国と比べれば金融危機に対する調整や反応も早い。中国にとって最善とはいえないが、次善の選択と言えるだろう」と答えている。

アメリカのゲーリー・ロック駐中国大使は先日、「オバマ大統領とアメリカ議会は既にアメリカの財務の信用を保証する政策を制定しており、米国債は依然として安全な資産だ」と語っている。

米ドルを買って金を買わないのは何故か

米国債の今後の動向について李若愚氏は「欧州債務危機などの多くの要因により、FRB(米国連邦準備制度理事会)のQE(Quantitative easing=量的緩和策)の効果は予測しづらい」と語っている。

また、梅新育研究員は、「今回中国国家外貨管理局が米国債の保有を増やしたのはドル高を踏まえたものであり、その目論見は当たっている」とし、「外貨管理の面から見れば、外貨準備管理部門が選択した時点の水準からは多少上がっている」と語っている。

国家外貨管理局は従来、金の備蓄に対してさほど積極的ではないが、一部の経済学者は金備蓄を増やすべきだと主張している。中国は既に2カ月連続で米国債保有高を増やしているが、外貨準備中に金が占める割合はわずか1.6%に過ぎない。

ワールド•ゴールド•カウンシルが7月9日に発表した世界各国・地域別の金保有高最新ランキングでは、中国の金保有量は第6位の1054.1トンであり、これは外貨準備中に占める金の割合ではトップの20カ国中最低だ。

これについて梅新育研究員は「金の備蓄量を増やす場合は適切なタイミングを図る必要があり、価格が下がった時に購入すべきだ」と述べている。

李若愚氏は「金の大量買付けは金価格を押し上げるばかりか、そんなに大量の金は売るのにも困る。金は銅やアルミなどの金属とは違って直接工業生産に利用することはできない。金が担っているのは一種の通貨的な役割だからだ」と述べている。

すべての卵を一つの籠に入れては駄目

梅新育研究員は「アメリカの財政問題が近い将来に上手く解決されるのは難しいだろう。中国が保有している外貨準備の規模は既に巨大で、国際市場での投資には自ずと多少のリスクが付きまとうからだ。米国債保有残高が巨額のため、国家外貨管理局は『米ドルの不透明な動向が外貨の値下がりを触発して過大な損失を生じるリスクを避けるために外貨準備投資を多元化し、米国債の持ち過ぎによるリスクを分散しなければならない』と2011年以来幾度も強調している」と語っている。

李若愚氏は「米国債を買う以外にも、中国は一部の欧州債や日本の国債を買って保有資産残高を調整することが出来る。全ての卵をひとつの同じ籠に放り込んではダメだ。同時に、中国は外貨準備の増加を抑制し、適切な外貨政策を採ることで、国際収支のバランスをとることも出来る。外貨資産を現物に変えるポイントは状況をしっかり見ることだ」と提案している。