人手不足が「長年にわたる低賃金」の是正を招来

中国国家統計局が発表した2011年の平均賃金の主要データは、出稼ぎ農民(農民工)の平均月収が2011年に初めて2000元(約2万5200円)の大台を突破し、2010年より359元(約4500円)増えて2049元(約2万5800円)となったことを明らかにしている。

一部の新卒大学生よりも農民工の月収の方が高く、手に技術を持った一部の農民工は繁忙期の月収が1万元(約12万6000円)を越え、ホワイトカラーを上回っている。

農民工の賃金の急速な伸びは、ある程度は補償的な性質を持っており、今後ある程度の期間、彼らの賃金水準は引き続き上昇傾向を維持するだろうと専門家は分析している。

 

レンガ職人の日給は3800

 調査によれば、この2、3年、内装労働者の賃金の伸びは累積で40%以上に達している。一部の都市ではレンガ職人の年収は6万元(約76万円)前後になっている。

レンガ職人の報酬は「平米計算」(施工面積に応じた計算)で、時間換算すると2002年の3.5倍に相当する1日約150元(約1900円)になり、年々次第に増える傾向を示している。

一部の特に腕の良いレンガ職人の日給はすでに300元(約3800円)を越えている。それにもかかわらず、レンガ職人は多くの地域で「予約制」を採っており、ひどい場合は1週間前に頼まなければならない。

 似たような「高給取り」は内装業界だけではなく、家具業界の技術労働者の賃金もつられて上昇している。とりわけ、高い技術が求められるマホガニー木材の加工については、大工や彫師の毎月の平均賃金は8000元(約10万円)にまで達し、極端な場合は1万元(約12万6000円)を超えている。

他にも、農民工が比較的多く働く家政婦など、他の職業でも急激な賃金上昇と人手不足の様相を呈している。

 だが、中国社会科学院農村発展研究所の李国祥研究員は次のように分析している。

「一部の人は新卒大学生の賃金の伸びが農民工のそれに及ばないことを単純に知識の価値の低下、極端な場合は『学歴無用論』に結び付けるが、実際には両者を絶対的に比較することはできず、単に手に技術のある一部の農民工の賃金が、際立った専門性もなく競争力も弱い新卒大学生の賃金を上回っているにすぎない。実際は労働強度の高い業界や熟練した技術を持つ少数の農民工以外の大多数の農民工は、雇用面では新卒大学生より劣った立場にいる」

 

なぜ農民工の賃金が上昇?

 中国労働学会副会長兼報酬専門委員会の蘇海南会長は、近年、農民工の賃金の伸びが著しいのは、「一つには『借金返済』の性格を帯びている。彼らの賃金はこれまで長年にわたって低く抑えられ、賃上げのスピードも遅く、労働生産性の伸びよりも低い状態が続いて来た。だから現在はそれを補填している状態だ」と説明する。

そして、「二つ目は、かなり多くの地域で『労働力不足』が生じており、一部の地域と業界で労働力の需給バランスが崩れているために、求人先の多くは給料を上げなければ農民工を確保できなくなっていることだ」と語る。

さらに、「三つ目は、国の関連政策の実施とも関係するが、例えば最低基準賃金の一貫した引き上げや集団賃金協議制度の推進などが、経済利益の増加につれて農民工の賃金上昇促進に有利に働いていることだ」と述べる。

だから、近年の農民工賃金の急激な上昇には十分な理由があり、合理的だとも言える。一方で、大学生と農民工の賃金を比較する根拠が乏しい点について蘇会長は「一部の大学生の初任給水準が低い点については、原因は複雑で、大学卒業生が増え続けていること、産業構造が合理的でないこと、第三次産業の成長が鈍いこと、ホワイトカラーの働く職場が少ないこと、一部大学生の学んでいることがあまり実用的でないことなどと関係がある」と分析する。

しかし、「本当に優秀で、学んだことを実際に活かせる大学生には初任給3000元(約3万8000円)かそれ以上の人間がいくらもいることにも目を向けなければならない。もし、新旧の大卒生を一緒にして平均賃金を計算したら、大卒者の収入は間違いなく農民工より相当高いはずだ。だから、農民工賃金の伸びが大卒初任給の伸びより大きいのは当然だといえる」と語る。

 李研究員は「農民工の賃金の伸びが一部の大卒者を上回るという現象は、中国の高等教育と職業教育の発展が十分に合理的とはいえない点と関係がある。大学は学術的な学生を養成することに重きを置き過ぎて、社会で早急に必要とされる技能型人材の養成が不足している。これは、必然的に労働力市場の需給の不均衡につながる」と指摘する。

そして、「農民工の賃金の急速な伸びは余剰農村労働力を基本的にすべて非農業分野に移転させることとも関係している。経済が相対的にかなりのスピードで成長し、農民工に対するニーズも大きい場合、人手不足は必ず農民工の賃金上昇をもたらすだろう」と語っている。

 

農民工賃金は今後も上昇?

 では、農民工と大卒の今後の賃金上昇傾向はどうなるのか。

 蘇会長は「大卒の初任給が低いという状況が今後5年、あるいは10年続くとは限らない。2011年に『中国南方人材市場』が行った調査では、最近10年間で比較すると、賃金水準の高低は依然として学歴と正比例している。他にも、大学生は就職した後のキャリアパス(経歴活用度)が相対的に大きいことにも注目すべきだ。彼らは学歴という有利さを活かし、ある程度の仕事の経験を積んだ後、転職が可能なだけでなく昇進や異動によっても賃金上昇につながる余地がある。農民工は一般的に文化程度が低いため、今後の賃金上昇はこれまでに比べ困難だが、全体としてみれば、今後も依然として労働生産性向上と同じペースで賃金上昇の勢いを保ち、今後2年ほどで、これまでの低賃金という『借金』を返し終われば、その伸びは多少減速するだろう」と語っている。