統計データの「粉飾」は誰の利益になるのか
「繁栄演出」で投資を呼ぶ?! 「見栄えの良い業績」で昇進を狙う?!

これについて統計の専門家は「データ粉飾の背後にある粉飾を指示する者と、それによって利益を受ける者を深くあぶり出す必要がある。統計データの粉飾を根本的に抑制し根絶しようとするなら、幹部の選抜、評価の仕組みを変えることが必要だ。不正の背後にある利益の連鎖を徹底的に断ち切って、不正を行う者が何の見返りも得られないようにしなければ、統計に対する清新な環境を取り戻すことはできない」と指摘している。

 

〝数字で出世、出世は数字〟

 地方のGDPの合計がしばしば国のGDPをオーバーするなど、統計データ粉飾の問題が叫ばれて久しい。「被統計(統計させられる)」「被増長(成長させられる)」「被富裕(豊かにさせられる)」など、頭に「被(~される)」の付いた多くの言葉が続々と生まれている。

鮮やかに飾られた数字の裏には、粉飾された繁栄、捏造の横行があり、それらの目的は地域への企業誘致・資本導入や、団体や個人の利益追求だ。

民間で流行っている「数字出官、出官数字(数字で出世、出世は数字)」という一対の対聯(中国の対句)は、GDPが粉飾される現象とその過程を「上は下に圧力をかけて、何重にもかさ上げさせる。下は上を騙し、何重にも水増しする」と説明している。

 これについて、中国人民大学応用統計科学研究センター主任の金勇進教授は、「データの粉飾には規則性がある。つまり、強調されるデータ、注目されるデータほど粉飾されやすいということだ。『強調』自体は一種のボランタリズムで、もし経済成長だけを強調すれば、経済データには問題が生じやすくなる。GDP数字の粉飾は正に経済成長を強調し、『ひたすら経済成長を目指す』政治業績観が現れたものだ」と指摘している。

 国家統計局は2012年にこれまでの地方のデータを積み上げて合計する方法を変更して、データを直接報告させるよう推進し、技術的な面から統計の効率と質を向上させ、数字の粉飾を防ぐことを期待しているが、この苦労は並大抵ではない。

この間にも、山西省河津などでは地元政府が企業の実態数字の報告に介入する事件が暴露されており、メディアの調査でも多くの市、県、区で企業が実態の数字を報告することに対して、行政が「統計改革小組」を設置したり、文書を発して干渉したり、極端な例では「二重帳簿」制を採っていることが明らかにされている。

 金教授は「地方政府の根深い『GDPコンプレックス』に対して、統計局には地方の数字粉飾の衝動を抑制する術がなく、人手やソフトウェアでは制度設計上の障害を解決できない。データ粉飾の根本的な原因を十分考える必要があるのは明らかだ」と指摘している。

 

〝綺麗な〟政治業績を追う

 統計は「社会の温度計」であり、政策の決定者が政策決定に当たって情勢を判断する「羅針盤」だという人がいる。

中国科学院心理研究所社会経済行為研究センターの王二平研究員は、統計を「パルス信号」に例えて「パルス信号は問題を発見して解決策を探し、実行するためのものだ。もし信号が誤っていれば結果は推して知るべしだ」と如実に語っている。

 金教授は「例えデータ粉飾が個別の現象だったとしても、それは政府全体のイメージを損ない、正に馬局長が言うように、『統計の信頼性は窓に貼った紙のように簡単に破られ、維持、修復するのは非常に困難』だ」と語る。

さらに、「データを粉飾した人間が昇進し、正直者が馬鹿を見ることになれば、幹部の選抜、評価の方向性と根幹をも揺るがし、甚大な被害を及ぼす」と述べている。

 金教授は「統計局自身には粉飾の動機はない。最も政治的業績を求めているのは地方の郷、県レベルの中下層幹部で、彼らは『見栄えの良い数字』を求めているため、粉飾を指示したり、粉飾の受益者になりやすい。正に〝綺麗な〟政治業績が欲しいという強烈な衝動があるからこそ、実際にデータを粉飾する必要性や可能性がある」と語っている。

 

背後の利益連鎖を断ち切る

 では、データの粉飾はどうやって防いだらよいのか。

 現状、各レベルの地方政府統計部門は、業務上は国の統一的な指導を受けているが、幹部の任免、業務経費など肝心な部分は、主に地方政府が管理している。地方の統計幹部の「評価」も主に地方の指導者が握っている。この体制下では、地方政府の統計部門が「どうやって地元党政府指導者の求めにより良く応えるか」により多くの精力を費やすと考えるのは驚くには当たらない。

 2009年には『改正統計法』が発表されたが、現在までのところ末端の政府機関が統計法と国家統計制度を省みず、公然と、あるいは暗黙の内に様々な手段で企業からの実態報告に干渉している。

金教授はその原因を分析し、「統計法はあるものの、誰がそれを執行し、違反すればどうなるのか、何に基づいて執行されるのかがハッキリしない。間違いが見つかっても撤回して報告し直せばよいなど、多くの問題が教育指導、通報に止まっており、十分な処罰と抑止力を備えていない」と指摘している。

 彼は、「実のところ、統計データの粉飾は『仕事上のミス』ではない。データの粉飾は統計分野での腐敗であるだけでなく、それに絡んだ利益を有する社会集団の腐敗だ」と断言する。

だから、「粉飾者に対しては重い罰則を適用し、大いに責任を問い、懲罰を与え、十分な抑止力を持たせる必要がある。根本的に言えば、幹部の選抜と評価の方向性、仕組みも改める必要がある」と語る。

そして、「問題を抜本的に解決し、背後の利益連鎖を断ち切って、正しい政治業績観を打ち立て、粉飾を無意味なものにしなければ、地方政府がデータに干渉しようとする衝動を徹底的に取り除くことはできない」と鋭く指摘している。