今年になって活況を呈する共同ブランディング
クロスボーダーマーケティングが消費者の心を掴む

中国の消費市場は若者が主力になりつつある。多くのブランドが、若者のパーソナライズ化、多様化する消費ニーズを満たすことに力点を置いている。

10月9日、ラッキンコーヒーは「トムとジェリー」とコラボした新製品「マスカルポーネチーズラテ」を発売した。発売日初日、ラッキンコーヒーのDouYinLiveには若者が殺到し、50万セット以上を販売し、一時は共同購入ランキングの一位に躍り出た。

それに先立って、貴州茅台とラッキンコーヒーがコラボした「茅台ラテ」単品の初日の売り上げは、542万杯を超え、単品での初日の売上高は1億元(約21億円)を突破した。続いて、チョコレートブランドのDoveとコラボした「茅小凌酒心チョコレート」も瞬く間に完売した。各種ブランドとの革新的なコラボ商品が次々と生まれている。これらの商品が若者の間でもてはやされるのは何故なのか。そこにはどのような消費動向が反映されているのだろうか。

2023年中国国際サービス貿易交易会では、多くの有名食品・飲料品メーカーが首鋼園の北京名店イノベーション発展体験ゾーンに出展し、来場者が試食に訪れた

革新的商品が消費を喚起

今年になって、多くのブランドがコラボ商品を打ち出している。5月には、人気飲料チェーン「喜茶(HEYTEA)」がフェンディと提携し「FENDI喜悦黄」をリリースすると、発売から3日で150万杯を売り上げた。6月には、ルイ・ヴィトンが、期間限定で上海の中心部にコーヒー店とコラボした書店を3店舗オープンした。書籍を2冊購入すれば、ルイ・ヴィトンのキャンパスバッグが贈られる。書籍の最低価格は1冊290元(約6000円)であるため、580元(約1万2000円)でルイ・ヴィトンのキャンパスバッグを手に入れることができる。イベント期間中、店舗には多くの上海市民が書籍の購入に訪れ、SNSにアップした。

ヒット商品を次々と生み出すクロスボーダーマーケティングを、どう定義すべきか?業界関係者によれば、クロスボーダーマーケティングはブランドマーケティングの手法のひとつで、「ボーダー」は人為的或いは時間をかけて形成されるのであるが、ブランドの主力事業分野から多分野への横断を言う。

多くの企業が、クロスボーダーマーケティング等による商品刷新モデルを躍進の足掛かりとしている。コラボ商品を打ち出すことで、異なる二つの分野の連携が進み、互いのユーザーや市場を共有できるだけでなく、新たなブランド価値を創造し、クチコミマーケテイングの恩恵を受けることができる。

海南省の海口国際免税城に出品された大白兔奶糖(White Rabbit Candy)とのコラボハンドバッグ

高まる消費者ニーズに応える

ブランドのクロスボーダーマーケティングは、決して新しい手法ではないが、一部の商品がこれほどまでにもてはやされるのはなぜだろうか。

まず、最近発売された「マスカルポーネチーズラテ」を例に見てみると、ラッキンコーヒーは既に安定したマーケットと顧客を持っている。「トムとジェリー」は世界的に有名なアニメで、中国の消費者にも広く認知され、多くの消費者が幼少期の記憶として残っているため、ブランド価値は高い。新商品が発売されると、SNS上には「懐かしい!何が何でも手に入れるぞ」との書き込みが多く見られた。

クロスボーダーマーケティングの活況は、消費者心理の変化を反映している。経済の成長に伴って人びとの生活レベルは向上を続け、新しいものに目が向くようになっている。

高まり続ける消費者のニーズに応え、消費者に高品質の製品とサービスを提供することが、ブランド提携の本来の目的である。

茅台グループの丁雄軍董事長は話す。「この度、ラッキンコーヒーと共同開発した『茅台ラテ』は、アルコール度数53度の茅台酒を配合し、濃厚な茅台酒の香りと芳醇なコーヒーの香りが絶妙に融合し、楽しみを倍増させました。茅台とラッキンコーヒーの提携で、素晴らしいコラボ商品を生み出し、これからも人びとの生活を豊かにしていきたいと願っています」。

ラッキンコーヒーの郭謹一董事長兼首席執行官は、この度の戦略的提携の目的は、消費者に高品質の商品、より満足のいくサービスを提供することであり、両ブランドならではの品質と革新的精神を体現し、完璧に融合させたものだと語った。

今年になって相次ぎ発売されているコラボ商品を見てみると、若者に焦点を当てていることが分かる。「茅台ラテ」のキャッチコピーは「若者が初めて口にする茅台」であり、新発売の「マスカルポーネチーズラテ」は10元(約210円)もしない。19元(約400円)でフェンディの商品を、580元(約1万2000円)でルイ・ヴィトンのキャンパスバッグを手に入れることができるのである。好奇心に駆られて茅台、フェンディ、ルイ・ヴィトンなどの高級ブランドに触れる若者が増えているのだ。

上海市内のラッキンコーヒーの店内に貼られた「茅台ラテ」のポスター

「茅台ラテ」の成功は

再現可能か

専門家の分析によると、クロスボーダーマーケティングを成功させる重要な要素は3つあるという。ひとつ目にブランドの適合性である。コーヒーと茅台はともに飲料品であり、適合性は高い。二つ目に、ブランド力である。フェンディやルイ・ヴィトンには訴求力があり、市場の注目度も高い。トムとジェリーには独自のブランド力がある。三つ目に、異なる二つの分野の関連性である。二つのブランドの気質が符号していなければならない。例えば、喜茶とフェンディは異なる領域のブランドであるが、両者には若々しさがあり、コラボ商品である「FENDI喜悦黄」は若々しく生き生きとした印象を与える。

 

「1+1>2」を実現

クロスボーダーマーケティングがブランドにもたらすメリットとは何であろうか。

業界関係者は、有名ブランドがコラボ商品を打ち出すのは、単一化した消費構造を打破するための有益な試みであると分析する。クロスボーダーマーケティングによって「1+1>2」を実現し、ブランドに新たな活力を与え、購買層を拡大し、企業経営の多様性を高めることができる。

しかし、われわれはクロスボーダーマーケティングが一時的なブームで終わらないよう理性的に注視していく必要がある。また、すべてのコラボ商品が成功を収めているわけではない。

広東省食品安全保障促進会の朱丹蓬副会長は、有名ブランドとインフルエンサーコマースとのコラボレーションは諸刃の剣だと警告する。共同ブランディングはブランドの注目度を高め、優れたクロスボーダーマーケティングは有名ブランドに新たな価値をもたらし、ブランド文化を伝え、ブランドイメージを再形成する。一方で、短命に終わる有名ブランドのコラボ商品も少なくない。若者を如何に惹きつけて放さないかが、有名ブランドの共同ブランディングが直面する最大の課題である。