アジアの眼〈68〉
「僕は椅子をデザインしているわけではなく、方法論を研究しているのだ」
―デジタルアーティスト 張周捷

11月に入ったというのに、まだ暑い日が続いている。上海で何度も取材の約束をしたのに、日程が合わなかった張周捷氏にやっと会えた感じだった。開館準備で汚い格好をしていたので、急いで着替えて取材地に向かった。クールに改造されていたアートヴィレッジは、旧工場跡地で上海の有名なアーティストたちがカッコよく一棟ずつ使っているイメージで、その中でもダントツ彼のアトリエはすごいスケールだった。

アトリエ提供

張氏のアトリエはデジタル実験室という名前で、1階は加工作業室、2階が事務所兼開発チーム、3階と4階がサンプル・ルームのカッコいいアトリエだ。

彼はデジタルアーティストとデザイナーで、同済大学設計創意学院の副教授、中国美術大学デザイン学科の客員教授でもあり、自分の名前を冠したデジタル実験室を創設し、Endless Formの創設者。艾工場A Iアートセンターの発起人でもある。

イギリスのサンマーチンのアートとデザイン学院で学んだ彼は、帰国後2010年に自分名義の実験室を創設して以来、ずっとデジタル領域の先駆者、実践者であり続けた。彼の作品は鮮明な独立性、実験性と未来性に富んでいる。彼の作品は、デジタルの言語環境下で常に進化を遂げ続けている。中国古来の道教の原理や精神から多くを学ぶ彼は、進化論の著者ダーウィンからEndless Formのヒントを得ており、生物学にも相当詳しい知識のアップデートをずっと続ける人だ。

photo by Yucca

椅子がトレードマークゆえ、椅子デザイナーだと誤解されがちだが、彼はパブリック・アートや立体作品及びインスタレーション作品も数多く手掛ける人である。

彼は若くして国際的な美術館・博物館、画廊及び個人コレクションに注目され、Wall Paper、The New York Times、Vogueなど多くの主流メデイアに注目されてきた。2014年には、アメリカのビジネス誌『Fast Company』により「中国商業年度創意ベスト100人」に選出されると同時に、フォーブスが選ぶ「2021年中国商業価値A I設計ベスト10」に選ばれている。2022には胡潤百富人気華人デザイナーに、インテリア系雑誌『理想家』では年度デザイナー賞を受賞、デジタルアート作品「Endless Form」は雑誌『財富』の中国人ベスト・デザイナーに選出された。今年に入っては2022-2023 EDIDA中国区デザイン大賞、年度デザイナーに選ばれるなど、2006年より世界中から数多くの賞を受賞している。ここに全て記すことは省略するが、いろいろな仕事を抱えて疲れたなあとしょげていた自分に、目力が強く力説する彼には正直激励され、エネルギーをチャージされた気がする。

暗夜シリーズ アトリエ提供

 

コロナについて聞いてみた。自分にとって2番目の危機感溢れる逆境での貴重な体験だと言う。イギリス留学時代の体験から多くを学んだこと、それ以来今回のコロナ禍は究極的に多くのことを考えさせられた体験だったとポジティブな答えが返ってきた。

ただし、アフター・コロナに出かけた世界のイベントは様々な意味で現実的すぎた感は否めないと言う。確かに3年間のコロナ禍は多くを変えた。そして退化した世界を私も様々な場面で体験する。

致幻シリーズ アトリエ提供

10年以上の模索と実験を通して常に時代の一歩先を走るデジタルアートの先駆者として、彼のアバンギャルド性は止まることを知らない。

その理由は大量の読書から来ていると思われる。マクロ経済の勉強、生物学の勉強、経営学の勉強など、読書を通して常に知識のアップデートをする中で、「悟り」が大事だと教わった恩師に感謝していると語る。同時に、「職人」精神という「技術」よりも神性を人性に転換していく過程が作品の制作過程であり、自身の作品の3段階説を説明してくれた。

第1段階は、2010年から2016年

第2段階は、2017年から2018年

第3段階は、2022年から~現在

今は、コロナ前と比べ作品の価格が4分の1になった。エディションが多くなったわけではなく、制作方法が改善され、技術もアップし、さらに進化を遂げたのが理由だという。

世の中には、二つのオンリーワンがある。その一つが世界のオンリーワン、もう一つが自分自身のオンリーワンである。世界のオンリーワンより、常に自分を凌駕し、進化し続けることこそが難しいし大事である。

自分を常に超越するためには、ただ一つ読書を続ける必要があるという。どんな本を読んでいるか尋ねたら照れ笑いしながら読書のジャンルを言ってくれた。読書が好きな人の本を語る時の嬉しい表情だった。

シリーズ群像 アトリエ提供

時代ごとに異なる様々なチャンス、認知能力はどんな時代でも生存し続ける糧であり、それにより楽しいことを続け、判断能力も賢明になるだろうと思われる。

中国国内の重要な美術館での数多くの展示会に出展し、マイアミバーセル、デザイン上海、021、ウエスト・バンドなどのアート・フェア及びミラノサローネなどデザイン系のイベントにも出展されている。ニューヨークデザインウィーク、モントリオールのデザインサミット、シドニーの博物館、パリ、ヘルシンキ、ドバイ、ロンドンなど活躍の場は広い。世界は彼を受け入れている。デジタルアート領域とA I領域での研究成果は、今も製品化されて普通の人たちの日常生活に入っていくようになっている。

世界を舞台に活躍し続け、探究と研究を怠らない彼の才能と努力に励まされた午後だった。走り続けるには理由などいらない。

洪欣

東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。ダブルスクールで文化服装学院デザイン課程の修士号取得。その後パリに留学した経験を持つ。デザイナー兼現代美術家、画廊経営者、作家としてマルチに活躍。アジアを世界に発信する文化人。