茅台酒の投資ブームが冷め始めた

2010年の秋季オークションでは茅台(マオタイ)酒の年代物が信じられないほどの高値をつけ、会場を沸かせた。それから1年。その後も狂ったように価格の上昇が続き、アルコール度数53度の飛天ブランドの茅台酒はいまだに高値をつけている。

だが、全体的にみると茅台酒の年代物の投資・収集ブームは徐々に冷め始めている。業界関係者は、投機的取引の要因を取り除いた適正な売買価格が戻りつつあると指摘。投機的売買を行う投機家に対し、「むやみに手を出さず、冷静さを失わないように」と呼びかけている。

 

年代物の価格が一部下落

 2010年から数年物の茅台酒の価格が急騰し、年代物もオークションで100万元(約1200万円)を超える落札額を連発してきたが、今年はその勢いがだいぶ収まってきている。年代物の茅台酒がオークションで100万元を超えることも少なくなり、スタート価格が35万元(約430万円)のものが取引不成立に終わるという事態も起きている。

 「白酒の査定額も下がり始めています」と話すのは北京の「華夏典当行(質屋業)」で芸術品の査定をしている胡平(フー・ピン)氏。茅台酒の年代物の価格も今年に入ってから下がり始めたため、同社も査定額を落としたという。同社は質入れとオークションを同時に行い、貸付額の返済をオークションで得た金で賄うことができるという新しいシステムを開発、採用している。

 胡氏によると、「茅台酒の年代物」といっても2種類あり、市場の在庫量が比較的多い1983年~1986年ないしは1990年前後のものと50年代~70年代のものに分かれる。後者は希少なため、オークションでの高値はいまだに続いており、質屋業界でもほぼ入手不可能。巷で「価格が下がり始めている」と言われているのは前者の年代のものになる。

 胡氏はまた、「1983年~1986年の茅台酒を例にとると、昨年はごく普通のものでも1万5000元(約18万4000円)前後から2万5000元~3万元にまで上がったが、今年は50年代~70年代物やセット物しかオークションに出てこないのでは。その価格も2万5000元~3万元にとどまるとみられる」と指摘。質屋業界もこうした傾向の影響を受け、昨年は査定額が8000元に達したものでも今年は4000元前後に抑えていると語った。

 

異常な高騰がなぜ安定したのか?

 あれほど高騰していた茅台酒の年代物はなぜ、この数年で一気に値を戻したのか?

コンサルティング会社「中投顧問」で食品業界の研究をしている梁銘宣(リアン・ミンシュエン)研究員は「茅台酒の年代物は生産から出荷まで5年ほどかかり、その工程も複雑。希少性は明らかです。これに加え、長い間寝かせると味に深みが出るという性質が、その希少価値をさらに高めています」と分析する。これが長期投資の対象にうってつけだと投資家が目をつけた。市場でこれを求めるのは富裕層が大半で、消費市場も安定。そこへ遊休資本が大量に流れ込み、投資ブームが巻き起こった。

 業界関係者によると、最近の茅台酒の落札価格は正常な範囲へとかなり値を戻しているが、これは市場の成熟に伴い、買う方も売る方も白酒の投資・収集価値を冷静に判断できるようになったためだという。茅台酒は年代や重量、見た目などが投資家の判断材料になっており、落札価格を決定する大きな要因となっている。

 これに対し、胡氏は「かなりの期間寝かせた高値の年代物はほとんど見られなくなった。もともと少なかったが、この1年、オークションに頻繁に出されてさらに減少した。我を忘れていた投資家たちもようやく冷静さを取り戻し、高額のものに手を出さなくなった。様々な要因が合わさって年代物の茅台酒の価格が自然に下がってきている」と指摘する。

 

再び大きな価格高騰はない

 業界関係者によると、茅台酒が白酒市場をリードする形が短期間で変わることはない。茅台酒の投資潜在力は依然として高いという。だが、海外の成熟したワインの投資環境と比べれば、中国の白酒の投資環境はまだ初歩段階。ルートは整っておらず、現金化の方法も限られており、問題も多い。白酒市場のこうした資本の集中現象には一定のリスクがはらんでいるため、投機的売買を行う投機家はむやみに手を出さず、冷静さを保つことが大切だ。

 今後の動向について、胡氏は「茅台酒の50~60年代物はもうほとんど残っておらず、見た目が良いものとなればさらに少なくなる。これらは今後も価格は高騰を続けるだろう。一方、80年代物は在庫が比較的多いため、再び大きく高騰することはない。だが、ずっと寝かせておけば価値が上がる可能性はある」と指摘する。

 これに対し、梁研究員は「茅台酒には固定ファンが多い。しばらくは年代物の価格高騰が続くのでは。だが、投機的取引による狂ったような高騰は起こらない」との見方を示す。

 さて、高い人気を誇る飛天ブランドの茅台酒は市場価格の上昇を繰り返しており、投資・収集の対象としてどうなのか気になるところ。これに対し、胡氏は「数年物は普通の商品と変わらない。在庫もかなりある、投資・収集の価値を判断するのは難しいが、慎重に考えた方が良い」とアドバイスしている。