人民元の上昇は中小企業の苦境を招き、短期に米ドルに代わる可能性は皆無
ドル、ユーロの崩壊で見えてきた人民元の国際通貨力

今週、世界経済は欧州債務危機の靄(もや)に包まれた。ギリシャ国債のデフォルトリスク増大の影響を受けて、ユーロ圏のその他の主要通貨に対する為替レートが数日間連続で大幅に下落。投資家は安定した通貨であるスイスフラン買いに躍起となり、“安全通貨”を求めるムードが急速に市場に蔓延した。

ある外国メディアは、人民元は投資家が今回の債務危機から逃れる「安全な逃避場所」であるとさえ書いた。しかし、激しく沸き起こった経済危機に対して、中国経済は無傷でいられるのか。国際資本が虎視眈々と狙っている中、人民元はその影響を避けて一人勝ちできるのだろうか。

債務危機が人民元の高騰を加速

「人民元の上昇が加速する流れの外的要因は米ドルの弱体化だ」。中央財形大学応用金融学部の韓復齢主任は、このように語った。

米国議会が規定の債務上限額を14兆3千億ドルに引き上げる法案を可決したとはいえ、長期的には米ドルの下落の趨勢は後戻りすることはない。米ドルの為替レート水準は、超低金利や量的緩和などにもよるが、本質的には米国経済が本当に回復できるのか否かにかかっている。

「人民元が上昇することは決して望ましいことではない」。首都経済貿易大学金融学院の謝太峰副学院長はこのように述べ、

「現在米ドル、ユーロが価値を下げ、人民元が上昇しているのは表面的には良好に見えるが、注意しなければならないのは、人民元が引き続き上昇する可能性があることだ。これは大量のホットマネーの流入、外貨準備の増加、インフレにつながり、人民元のさらなる上昇を刺激して、悪循環を生じさせる」と語った。

中国の二大輸出市場である米国と欧州連合の経済の弱体化は、彼らの消費水準を低下させる。そして、加工貿易が主体の中国の対外輸出は、さらに大きな壁に突き当たることになる。

謝太峰氏は「人民元の上昇は米国債の危機をもたらし経済損失につながってしまう。わが国の輸出型中小企業は現在、物価、賃金、原材料価格の上昇という多重苦に直面しており、これらの企業が生き残るのはますます難しくなっている」とも述べている。

期待される人民元の国際化

実のところ、中国の3兆2千億ドルの外貨準備のうち、半分近くは米ドル資産で、米国債だけでも既に1兆1600億ドルに達している。人民元の米ドルに対する絶え間ない上昇は、中国の巨額な米ドル資産の実際価値が縮小することを意味している。他国の状況に左右される困難な状況から完全に抜け出すためには、人民元の国際化が避けて通れない。

この点について、中国人民銀行貨幣政策委員会の李稲葵委員は、今年夏のダボス会議のフォーラムでの発言で次のように指摘している。

「人民元の国際化は中国の国際貿易コストと融資コストを下げ、国際的にはシニョレッジ(通貨発行益)を生み出すだけでなく、中国経済のすべての局面に対して重大な戦略的意義を持っている」。

しかし、人民元の国際化への道はそれほど平坦ではなく、国際化によって生じるリスクは中国経済の仕組みと管理制度にとって試練となるだろう。

国務院発展研究センター金融研究所の夏斌所長は次のように述べている。

「人民元の国際化は、貨幣機能が作用する地域と分野が拡大することを意味し、中国の貨幣政策に一定の影響をもたらすだろう。さらに、資本勘定と資本市場の対外開放問題に係わってくるのは避けられないだろう。リスクを軽減するための鍵は、国内の金融市場を出来るだけ早く市場化することだ」。

夏斌所長はまた、「人民元の地域化を加速し、人民元を国外に流通させる方法を考えるべきだ。そして、国外の人民元がその他の自由に換金可能な通貨と同様に、貯蓄や貸付、決済、資産管理、投資、為替のリスク回避など、すべての業務で使えるようにし、人民元による取引と市場を形成することが重要だ。同時に、国外の組織や一般人が、中国政府の認める両替のチャンネルを通じて中国経済の発展がもたらす利益を享受できるようにしなければならない」と考えている。

危機の始まりには勝者はいない

現在は危機の始まりであり勝者はだれもいない。欧米の発展国であれ新興国であれ、債務危機に直面してはどの国も影響を受けており、中国も危機の渦中でまさに試練を受けている。

謝太峰氏は「ギリシャの債務危機はユーロを脅かしている。なぜなら、ギリシャは通貨に関して主権を失ってしまっているからだ。もしヨーロッパの国々がギリシャを援助せず、ギリシャが持ちこたえられなければユーロ圏を離脱するだろう。また、イタリア、スペインも同様の債務問題に直面しており、ユーロがフランスとドイツの2カ国だけに依存する状況は望ましくない。もしユーロが消滅すれば、米ドルはその地位をさらに強め、米ドルに対抗できる通貨が失われてしまう」と考えている。

しかし、人民元の米ドル、ユーロに対するレートが堅調なことから、国際世論の人民元に対する関心が再び高まり、今回の債務危機における最大の勝者は人民元だという議論が声高に論じられている。中には、人民元を米ドル、ユーロに次ぐ「世界第三の基軸通貨」にしようという極端な意見さえある。

この見方について、謝太峰氏は断固として反駁し、次のように述べている。

「人民元の現在の国際的な位置づけは、自ら望んだ結果ではない。それは中国の経済、科学技術や金融の実力に関わるものであり、現在の米ドルの地位に取って代わることは短期的には不可能だ。中国のGDP総額が日本を越えたといっても、為替レートの上昇による要因が大部分を占めている。しかも、中国の1人当たりのGDPは非常に劣っている。経済の急速な発展は、環境と健康を犠牲にして得たものであり、GDPは増えたものの質は低いままだ。それゆえに、人民元の最終的な位置づけは、実力に基づいて語られなければならない」。