アジアの眼〈65〉
「人間は建築を作る、 そして建築も人間を作る」
――エリート建築家 ユ・ヒョンジュン

あるアートフェアに出かけた韓国ソウルの出張に合わせて、インスタグラムで急遽連絡して建築家のユ・ヒョンジュン氏と取材の約束が取れた。そして、ソウル行きの日程は一日早まった。

ユ氏とは10数年前に上海で会ったことがある。同済大学で若手建築家のグループ展があり、友人に誘われて見に行った。そこから長い時間が過ぎたが、彼は現在かなり著名な建築家になっていた。

Photo by joon

ユ・ヒョンジュン氏は、韓国ソウル生まれで延世大学の建築学科で建築を専攻するが、その後MITとハーバード大学で建築学を学ぶことになる。ハーバード大学を卒業後、世界的な建築家リチャード・マイヤー建築事務所に入社する。その後、MIT建築研究院及びMIT交換教授(2010年)を経て、現在は弘益大学建築学部教授であり、株式会社ユ・ヒョンジュン建築事務所(Hyunjoon Yoo Architects)を創立し、運営している。

また、『モダニズム:東西文化のハイブリット』(2008年)、『現代建築の流れ』(2009年)、『52912』(2011年)、『都市は何をもって活きるか』(2015年)、『失敗しないマイホームの作り方』(2018年)、『どこで生きるべきか』(2018年)、『あなたの星座は何ですか?』(2019年)、『空間が作る空間』(2020年)、『空間の未来』(2021年)、『ユ・ヒョンジュンの人文建築紀行』(2023年)等の著書を多数執筆している。

著作の一部はすでに英語や中国語に翻訳され海外で出版されている。その中でも『モダニズム:東西文化のハイブリット』は韓国文化部優秀学術図書に選定されている。

Photo by joon

弘益大学の人気教養授業「韓国建築の流れ」は、韓国政府KMOOCプロジェクトに選ばれ、動画撮影され、複数の言語に翻訳されている。

それ以外にも、テレビ番組KBS「名犬万里」「偶然大人」「20世紀少年の探索生活」、tvNの長寿番組【アルツ新雑シリーズ2】等に出演し、『朝鮮日報』の「都市物語」、『中央サンデイ』の「ユ・ヒョンジュンの都市と建築」、『毎日経済』の「I🖤建築」という連載コラムを持っている。これらのコラムは長期連載され、書籍化されている。これらの文章を通してユ氏は、一般の人々に建築の知識をわかりやすく解説しており、人気を博している。

取材時に印象深かったのは、建築事務所の本棚に、2017年シカゴアテナウム建築賞、ドイツデザイン・アワード、アジア建築家協会建築賞、アジアスケイプアワード、ソウル市建築賞、2013年今年の建築B E S T7、2013 キム・スグン建築賞プレビュー賞、CNNが選ぶ15 Seoul’s Architectural Wonders,2010 大韓民国空間文化大賞大統領賞、2009年若手建築家賞等、30以上のトロフィーがずらっと並べられていたことだった。

Commercial ©ユ・ヒョンジュン建築事務所

そして、GMC講演「存在の意味」では、韓国の学校建築の問題に言及し、学校の天井の低さ、刑務所の塀のような高い壁、自然が遮断された学校建築空間の弊害を指摘した。その建築が画一的な学校教育を改善し、刑務所の作りと管理方法にそっくりだと述べた。それは社会的に賛否両論の物議を醸し、大きな論議を呼んだが、教育の問題にメスを入れ、優秀な学生よりも普通に感性の豊かな学生たちを育て上げた方が大事だと強調した。

取材して日本に帰ってきた頃には、ユ氏のYouTube「シャルロックヒョンジュン」がフォロワー100万人を超え、今は102万に達している。それがアカウント開設一年というのだから正直驚きだ。ニューヨーク、ローマ、パリ、ドバイ、東京など世界中の都市を回りながら建築をわかりやすく説明していくことで、一般の人々の審美眼を呼び起こす大事な役割を果たしている。インスタグラムのフォロワー数も8万人を超えている。

Detached House ©ユ・ヒョンジュン建築事務所

都市と建築の関係でいうと、ヨーロッパの狭い路地とかが人や馬が行き交うためのデザインであることに対し、アメリカの都市計画は車社会のためのデザインであるために、道路の車線が多く広すぎるので、歩きやすい街ではない。ソウルの明洞、ガロス通り(ギル)等に比べ、テヘランロードも明らかに歩きたい街ではないこと等、実例を挙げて説明している。上海では、浦西のフランス租界地のプラタナスがトンネルを作る街並みが人のためにデザインされた街だとすれば、浦東の街並みは車中心のアメリカ型だと言える。

個人的には日本のアニメが好きで、「黒子のバスケ」や「ハイキュー」が気にいっているらしい。

著書やYou Tubeでは、建築家ルイス・カーンや安藤忠雄の建築に言及している.ル・コルビュジエについても彼の視点で詳しく解説されていて、建築の歴史がわかりやすく勉強になる。

Retail & Residence ©ユ・ヒョンジュン建築事務所

講演では、ウィンストン・チャーチルの話した名言「人が建築を作り、建物が人を作る」という言葉を引用し、賛同している。

建築作品は米国滞在中に作ったものと、韓国帰国後にデザインした建物がある。忙しく活躍している彼は、多くの違う仕事をしているようでもどこかで繋がっていて、いい循環になっているという。

4人家族のパターンが半数を占めていた構造に変化が生じ、今では一人暮らしの人が3割を占めている都市部の暮らしのスタイル。少子化や過疎化が進む学校では、もっと広々とした学校建築の改革が必要だと彼は主張する。著書のサイン本を何冊かいただいているので、少しづつ読む予定だ。

洪欣

東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。ダブルスクールで文化服装学院デザイン課程の修士号取得。その後パリに留学した経験を持つ。デザイナー兼現代美術家、画廊経営者、作家としてマルチに活躍。アジアを世界に発信する文化人。