photo by Wakatsuki Hiroki
西麻布にある「KOHSHIN SATOH」ブランドのアトリエを訪問し、ファッションデザイナーの佐藤孝信氏(kohshin Satoh、以下、孝信と略す)を取材した。
80年代にジャズ・トランペットの巨匠マイルス・デイヴィスが愛してやまなかったブランドで広く知られている。パリでのギャラリー展示会を控えた孝信は、セーターに付いた糸くずをコロコロで取りながらアトリエの作業場から現れた。
アトリエ提供
1975年に創立した孝信のファッションブランド、アーストンボラージュは、1983年に東京コレクションに参加した。日本のメンズ・デザイナーの第一人者として海外からも高い評価を受け、マイルスやアメリカポップ・アーティストのアンデイ・ウォーホルといった世界のスーパースターたちに愛用された。マイルスが惚れ込み、グラミー賞授賞式の衣装も含め、晩年に亡くなるまでの6年間、(プライベートの衣装も含めて)全ての衣裳を任されていた。1986−87A/W シーズンはパリコレクション、1987年S/Sシーズンはニューヨークコレクションにそれぞれ参加した。
80年代、少年隊の東山紀之たちの舞台衣装や氷室京介、玉置浩二等の芸能人にも愛用され、話題を呼んだ。そのメンズデザイナーズブームが去ったあとも生き残ったデザイナーズブランドは珍しい。
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孝信のファッションは、既存の概念やモード界の常識を打ち破るような自由奔放で新鮮なデザインによって注目を集め、東京コレクションに参加した1983年から脚光を浴び、メンズデザイナーズブランドブームを引き起こし、牽引役になった。海外のコレクションの参加も加わり、名実ともに世界的デザイナーとしての地位を得た。
80年代、ニューヨークのコレクションではマイルスやアンデイ・ウォーホルがモデルとしてステージに登場して盛り上げるなど、一世を風靡した。
国立新美術館で開催された「ファッション イン ジャパン1945−2020――流行と社会」にも写真の形で大きく取り上げられるなど、日本のファッション史に残るデザイナーの一人だ。コロナ禍の中(緊急事態宣言中)、会期変更や予約制という変化の中でも頑張って展示会を見に行った記憶が新しい。
2008年 のリーマンショック、2011年の3.11、そして3年間足止めされてソーシャル・ディスタンスを意識してきたわれわれにとって、常日頃マスクをつけた生活の中で、SHEINやユニクロ、ZARA等、ファストフアッション市場がどんどん大きくなっていく世の中だ。
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貧富の格差が大きく、戦争で高騰する物価上昇に比べ給与の引き上げは限界があり、実質賃金が下げ幅を大きくしている。国立新美術館での展覧会では、モンペからKAWAIIまで、戦後の日本のファッション史を辿っており、コロナ禍の理由で2020年に計画していた東京オリンピック関連大企画展が、実際には一年間延期され、2021年6月9日から9月6日まで開催された。
この展覧会では、服飾史の脈絡をたどり、特に戦後の日本が復興から高度成長期を経て、ポストバブルというバブル崩壊後の近年までの日本のファッションを多元的な角度から俯瞰しようと試みている。いわば、戦後日本のファッションの黎明期から最先端のテクノロジーに至るまでの社会的背景を通観しようとしたと言える。
流行の発信者であるデザイナーたちから発信される服やスタイルだけではなく、その受け手である消費者の動向という双方向からの視点での考察という展示構成であり、80年代のアイコンである孝信の服は、写真の形式で一つの壁に80年代ニューヨークでの彼の足跡を見せてくれた。
アトリエ提供
2013年春には表参道にデザイナーズブランド「KOSHIN SATOH」の旗艦店「arrston volaju(アーストンボラージュ)」をオープン。スチール・ステンレスなどの金属作品を手掛けるアーティスト・宜本伸之とコラボし、黒を基調にした店内は、ブランドイメージの「破壊と創造」を軸に仕上げて話題を呼んだ。
パリを拠点に活動してきたブランドだが、設立40周年を迎え10年ぶりに東京コレクションでショーを開催した。今尚ワールドワイドな舞台で常に新しいものを生み出し続けるKOHSHIN SATOHは、2016年に新たな挑戦としてウェブ領域に進出している。
2006年にはかつて北京でベントレ主催のショーに出てトップ・ショーを受賞している。
近年では、コロナ禍ではあるがパリのギャラリースペースでの発表を年に2回開催している。
パリで展開しているギャラリーでの展示を上海にも展開できたらいいと想像してみる。
2015年9月29日、マイルスの24回目の命日に、アーストンボラージュ1987年のファッションショーとマイルスのプライベート・ショットを撮った写真家シライ・ススの写真展が開催されている。
photo by Wakatsuki Hiroki
私自身孝信のファンで、ドバイで開催されるアートドバイの現場で着る服を入手できた。大事にしたい。そして、デザイナーズブランドは、やはりその価値をわかる人の手に渡るべきだ。作品もそうであり、人だってそうだ。価値のわかる人のそばにいないなら一人になりなさい、という母の人生哲学はやはり正しかった。そして、自分はそれに反した暮し方をしていないか反省してみる。
洪欣
東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。ダブルスクールで文化服装学院デザイン課程の修士号取得。その後パリに留学した経験を持つ。デザイナー兼現代美術家、画廊経営者、作家としてマルチに活躍。アジアを世界に発信する文化人。
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