陳暁茹 株式会社仲和サービス 社長
銀座を舞台に活躍する華人女性企業家

言語明瞭、果敢、親近感を覚える笑顔――キャリア・ウーマンの理想像とは、こういったものであろうか。現実に、こんな女性は存在するのか。春の日の午後、われわれは、東京・銀座に株式会社仲和サービスを訪ね、創業者である陳暁茹社長を取材した。取材を進めるほどに、その疑問に対する答えは明らかになっていった。

日本で新境地を拓く

十六年前、陳暁茹は高待遇の仕事を辞めて家族と共に来日した。経営学を修めた優等生は、これまでのキャリアを捨て、短期間のうちに言葉の壁を乗り越えて法政大学に進学し、大学院で国際政治を学んだ。

大学卒業後は、新宿にある創業数十年の不動産会社に就職した。経営者は不動産事業に半世紀以上従事してきた高齢の男性で、主に投資型不動産の分析・売買を行っていた。女性でありながら、男性主導の日本の不動産業界で活躍のチャンスを得られたのは、経営者が多様性を認め、陳暁茹の秀でた能力を見出してくれたからである。自身を不動産事業に導いてくれた、師であり友とも言うべきこの日本人経営者に、彼女は今でも深く感謝している。

起業し、

華麗な転身を果たす

2014年、新たな命が陳暁茹の生活を一変させた。働く女性と新米ママという二足の草鞋を履くことになったのだ。しばらく仕事から離れていた彼女は、日々を無駄に過ごすことを良しとせず、不動産宅建士の教材を手に、休養しながら試験に備えた。そして、子どもと宅建士の資格を同時に手に入れ、より一層仕事に精を出した。

2017年、再び不動産業界の第一線に復帰した陳暁茹は独立・起業を決断し、株式会社仲和サービス(以下:仲和サービス)を設立した。長年蓄積してきた人脈と経験を活かし、創業間もなくして、多くのオフィスビルの取引を成立させて頭角を現した。彼女をこの業界に導いてくれた日本人の老社長は、陳暁茹の能力と人柄をかって、すすんで顧客を紹介してくれた。周囲も中国から来たこのキャリア・ウーマンに讃辞を贈った。

創業6年目の2022年、仲和サービスは、オフィスを世界有数のオフィス街である東京・銀座に移転した。豊富な資金、ハイエンドなロジスティクス、ビジネスエリートが毎日ここで出逢い、行き交い、常に新たな価値を生み出す。「仲和サービスを私のもう一人の子どもと考えるなら、小学校に上がったというところでしょうか」。陳暁茹はユーモアたっぷりに話す。

豊富な経験と確かな

サービスで信用を勝ち取る

銀座で商売を続けていくのは容易ではない。13年間、陳暁茹は東京中に足を運んで実務経験を積み、努力を怠ることなく「千里眼」を磨いてきた。如何なる物件も短時間で長所と短所を見極め、適正に価格査定を行う。

「信用は、豊富な経験と確かなサービスから生まれます」。陳暁茹は顧客と信頼関係を築くコツをそう説く。居住するのか投資するのかで、着眼点もスタンスも大きく異なる。居住用不動産物件は、顧客のニーズに応じて問題を解決することが求められ、投資用不動産物件は、投資物件の費用対効果とその後の資産管理、価格変動、転売の問題にも注意を払う必要がある。したがって、仲介者は、顧客が理想的な投資物件を選び合理的な資産配分ができるよう、不動産及び投資に関する知識に精通していなければならない。

投資用不動産に力点を置く仲和サービスは、1回限りの短絡的な取引に終わらせることなく、顧客との関係を継続的なウィンウィンの協力関係と見なし、長期的なサポートとサービスを提供する。仲和サービスはほとんど広告に頼ることなく、顧客の口コミによって、多くの富裕層の顧客を獲得している。

ある台湾出身の母娘は、陳暁茹のビジネススキルと情熱に感銘し、投資計画を彼女に委ねてきた。10数年の間に、相次いで6棟のビルを扱い、60億円近い取引を成立させた。中でも、東京・港区の好立地にあるオフィスビルには、同時に3組の強力なバイヤーが入札した。速やかな決断が勝利を引き寄せる。陳暁茹に絶対の信頼を寄せる母娘は、日本に駆け付けることができない状況下、全権を陳暁茹に委ね、機先を制した。確かな専門知識とクライアントの絶大な協力によって、1カ月のうちに融資、契約、名義変更の手続きを完了した。外国人が設立した不動産会社が、海外投資家のために、オフィスビルの取引を平穏かつスムーズに完了させたことに、日本の売り手も銀行も感嘆の声を上げた。

銀座に進出し、新たなステージへ進めば、新たな課題に直面する。陳暁茹は自身の肩に、より大きな責任とプレッシャーがのしかかるであろうことは分かっていた。彼女は市場での長年の実務経験を通して、海外の不動産投資の最大のペインポイントを熟知している。顧客のニーズの変化に対応するため、仲和サービスは不動産管理部を新設して専門人材を配置し、成約後のサービスのさらなる向上を図った。仲和サービスはさらに、不動産と資産を一手に掌握する理念を大胆に打ち出し、税務・法務相談のワンストップ不動産管理モデルを新たに導入した。最近では、顧客のニーズに呼応して、経験豊富な行政書士と提携し、投資経営ビザの代理業務を始めた。仲和サービスは不動産投資相談、仲介、運営管理、顧客サービスを包括的に取り扱う不動産会社へと成長を遂げていった。

長期的ビジョンに立ち

投機ではなく投資を

不動産業に参入した当初から、不動産投資の分析に注力してきた陳暁茹は、日本の不動産業の発展を多角的視点から見ている。華僑華人の海外不動産投資先は、すでにアジアに回帰しており、中でも日本とシンガポールが人気である。

陳暁茹は、日本の不動産取り引きは投機ではなく投資であり、長期的ビジョンに立ち、客観的に物件の価値と価格を評価すべきと考えている。一部の投資家は、高頻度の取引で、短期的な価格変動によって利益を得ようとするが、おそらくこのやり方は、都市化が急速に進む国や地域では利益を上げることができても、バブル経済を経験した日本においては、不動産取引は手堅い資産運用であり、「ファストマネー」はなかなか得られない。それどころか、最近では、安定した賃貸収益率によって日本の不動産人気は急上昇している。

不動産投資は、他の投資行動と比較して、安定性、耐性があり、リスクヘッジが図れる、付加価値が期待できるなどの利点をもつ中長期的経済活動である。硬直的需要に牽引され、日本の不動産市場は依然として健全性と安全性を維持している。陳暁茹は、現在の東京周辺の不動産価格の上昇傾向は続くと見ている。

 

ウィンウィンの関係は

「利他」の心から

先ごろ逝去した稻盛和夫氏は、陳暁茹が最も尊敬する実業家であり、氏の著書『心。』を座右の書としている。氏の成功の人生は、「利他」の心と切り離すことはできない。仕事をする上で、陳暁茹自身も従業員も「利他」の心を大事にしている。不動産投資はコストがかかり、サイクルも長く、仲介者の責任は重大である。居住用物件であれ投資用物件であれ、仲和サービスは常に顧客の立場に立って行動する。

マンションとは異なり、戸建て住宅の購入に当たっては、立地条件、増改築の制限、地盤等の要素を考慮する必要がある。そのため、不動産会社には法令法規、地質、建材等多方面にわたる知識が必要とされる。専門知識に通暁する陳暁茹は、情報の重要性を知悉するがゆえに、自らの経験をより多くの同業者と共有したいと考えている。

日本華僑不動産協会が設立されて間もなく、仲和サービスは協会に加入し、協会が主催する諸活動にも積極的に参画している。協会の設立によって、華人同業者の資源は効率的に整理統合され、市場は規範化され、華人不動産業者の社会的地位は向上した。これらも「利他」の心の体現と言えるだろう。

 

女性のための

プラットフォームを構築

インタビューが佳境に入ると、陳暁茹は今は亡き母親のことを語ってくれた。「母はキャリアウーマンとして成功を収め、人びとの信頼を勝ち取りました。常に尽きることのない情熱と忍耐で、人びとの問題の解決に尽力しました」。母親の無私の精神は、陳暁茹にしっかりと受け継がれている。陳暁茹は、社会にあっては創業者として社会的責任を担い、家庭にあっては辛抱強く良き母としての役割を果たしている。

日本で女性の社会進出が言われて久しいが、職場における女性の地位は依然として低いままだ。陳暁茹は幸運にも自身の才能を開花させる機会に恵まれたが、多くの日本の女性は、依然として様々な障害に直面している。陳暁茹は現在、在日女性華人のための対話、交流、協力のプラットフォームの構築に取り組んでいる。彼女は、母親のように周囲の信頼を勝ち取り、多くの女性が価値ある人生を歩めるようサポートしていきたいと考えている。

 

取材後記

胡潤研究院が発表した「世界女性起業家富豪ランキング2022」において、上位5位までを華人女性が占めた。粘り強さ、自立心、洞察力といった華人女性の美徳がコンクリートジャングルに鮮やかな彩を添えている。陳暁茹は、家庭と仕事を切り盛りし、女性の少ない不動産業界に乗り出し、桜の国で中国人女性の魅力を開花させた。彼女の物語を、より多くの人びとに知らしめるべきであろう。