末松 義規 衆議院議員
アジアで第三次世界大戦を引き起こさせないために

立憲民主党の末松義規衆議院議員は、外交官だった当時、湾岸戦争への日本の外交対応に危機意識を持ったことが転機となって政治家に転身。東日本大震災時には、政権与党として、初代復興副大臣・総理補佐官等を歴任するなど、「常に世界を見据えて行動を起こす政治家」として現在も活躍している。先ごろ、衆議院議員会館を訪問し、中日経済の重要性、アフターコロナのインバウンド政策、今後の中日関係の在り方などについて伺った。

 

中国は歴史的に

大恩ある大切な国

―― 先生は大学時代に中国語を学ばれています。中国との関わりについて教えてください。

末松 母方の祖父が満州鉄道に勤めていた関係で、母は満州・新京(現在の吉林省長春市)で生まれました。そこで15、6歳までいたのですが、日本の敗戦時にソ連軍が攻めてきました。ソ連軍の最前線は、刑務所に入っていた犯罪者が主流だったと聞いており乱暴狼藉を働いたわけです。それで私の母方の祖母が乱暴されかけたのですが、あくまでも抵抗したため、ソ連兵に銃殺されました。それを見た母親は、顔を炭で黒く塗り、頭を坊主にして、少年のような格好で命からがら逃げ回る中、ようやく日本に引き揚げてきました。

母親が日本に帰ってきて一番ショックだったのは、トイレが水洗でなかったことだそうです。当時の新京は、世界最高水準の技術を駆使したモデル都市でしたので、水洗トイレと洋式便器が普及していました。日本より数十年早い進歩に驚かされます。

こうした中国との縁もあり、私自身、中国大陸に非常に関心があったので、大学の第二外国語は中国語を選びました。日中辞典の編纂で有名な折敷瀬興(おりしきせ・あきら)先生から学んだのですが、先生は「これから日中関係は厳しくなる。そのときにこそ、日中の架け橋に末松君がなってほしい」とおっしゃられたことが印象に残っています。

私は元々『三国志』の曹操ファンなのですが、若い頃、軍事戦略の不朽の名著『孫子』文書に曹操自身が注釈をつけた曹操独自の兵法書(軍の動かし方や勝利の要諦などを記述)を読むと、彼が相当な勉強家だったことがうかがえます。

『孫子』は、アメリカの軍事アカデミーでも教科書になっているほどで、古今東西の軍事戦略研究に影響を与えています。日本においてもいわゆる「孫子の兵法」は、古くは戦国武将に、そして現代では知識人や経営者に大きな影響を与えています。

いろんな意味で日本は、軍事、文化、教養など、中国のさまざまな思想の恩恵を受けていますので、まさに中国は、歴史的に日本にとって大恩ある大切な国だと思っています。

 

日中経済は共存共栄の関係

―― 日本にとって中国は最大の貿易相手国であり、中国にとって日本は米国に次ぐ2番目の貿易相手国です。両国経済の重要性についてどのようにお考えですか。

末松 二国間の貿易はお互いの国が共存共栄でやっていくことが一番重要だと思います。日本はかなりの割合で中国から食料を輸入しています。もしも両国が戦争状態にでもなったら、中国からの食料輸入がすべて途絶えます。そうすると日本は他の国々から食料を調達しないといけません。これは簡単なことではありません。同時に中国も日本市場を失うことになります。要は、日本と中国が良好な関係であれば、何も問題はないわけです。

サプライチェーンの問題も重要です。実は、長引くコロナ禍で、日本で新築の家が売れなくなった時期があります。なぜかというと、トイレ部品を中国から輸入していたからです。その部品が途絶えトイレがない状態では家は売れないというわけです(笑!)

昨年来、半導体不足で自動車や家電、デジタル機器の生産が遅延しているという報道がありますが、身近な自転車屋さんでも中国から部品が入ってこなかったために、販売に大変な苦労をしたという話を聞いています。

また、コロナ禍で日本の薬が中国で売れています。薬に限らず、日本製品は非常に品質が良く信頼性が高いので、富裕層だけでなく、質の高い製品を買い求める中国の方々は多いわけですが、爆買いしていただければ日本としても喜ばしいことです。

様々な点において、日中経済は共存共栄関係にあり、この事実がとても重要だと考えています。

 

インバウンドの回復は

交流促進の観点から、

とても大切

―― コロナ禍の長期化によって、日本の観光産業は大きな打撃を受けていますが、アフターコロナのインバウンド回復について、どのようにお考えですか。

 末松 コロナ禍以前は中国からの観光客のおかげで、日本の観光地は非常に潤っていました。2019年当時、訪日外国人観光客数は3000万人を超え、そのうち中国人観光客が958万人で、全体の約3分の1でした。これは非常にすばらしいことです。

中国の方々は日本の製品をたくさん購入して大変喜ばれていますが、買い物や食事など、いろんな場面でお金を落としていただくことは、日本にとっても大変ありがたいことです。

今、中国人は本当にリッチになりました。私の友人である拓殖大学の教授が話していましたが、ゼミ生はほとんど中国人留学生だそうです。昔は国費の留学生だけでしたが、現在では経済発展した結果、私費の留学生がずいぶん増えました。

留学生の皆さんが勉学に励むのはもちろんですが、時には観光地を訪れるなど、日本の素晴らしさをいろんな形で、知識も含めて吸収できるところはどんどん吸収していただいて、自国に帰ってそれを生かしてもらえればいいと思います。そうすればまた、多くの中国の方々が、日本を訪れることにもつながっていくのではないでしょうか。

インバウンドの本格的な回復は、単に経済面だけではなく、友好関係を育むためにも、両国の国民が自由に往来して交流を促進できるよう一日も早いコロナ禍の収束を願っています。

―― 先生は中国に行かれたことがありますか。

末松 北京を始め桂林や西安、雲南省の水の都・麗江(リージャン)など、中国へは何回も行きました。母親の生まれ故郷・長春にも行きましたが、そのときに驚いたのは、日本のお城のような建物が残っていたことです。それはかつての関東軍の司令部跡でしたが、今でも取り壊されず使われていることが印象的でした。

また、新疆ウイグル自治区のウルムチなどを観光したことがあります。三蔵法師が命がけで通ったことで有名な火焰山へ行きました。気温は61度。炎天下の道で見られるいわゆる「逃げ水」(砂地や舗装道路で、前方に水たまりがあるかのように見え、近づくとその先に移っていく蜃気楼現象の一種)というのがありますが、山全体がそんな感じで、ものすごく暑く、そのまま3分いたら焦げてしまう感じがしました。

そこで食事をしたのですが、日本の「うどん」のようなものが出てきたので、「これは日本で『うどん』というものだ」と言うと、彼らはびっくりして、「これは『ウドゥン』だ」と言うのです。そのとき、はっと気付いたのですが、「ウドゥン」といわれたものがシルクロードを通って日本に来て「うどん」になったのだと思い、実に興味深いことだと思いました。

 

文化は政治を超える

―― 最近、中国のアニメが日本の若者に人気です。先生はマンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟の一員ですが、日本と中国のアニメをどのように見ていますか。

末松 私はこの50年間、手塚治虫氏や宮崎駿氏以外の漫画はほとんど見たことはありませんでした。宮崎駿氏の『千と千尋の神隠し』は、日本だけでなく海外でも高い評価を得ているすばらしいアニメですが、その興行収入をさらに超えたのが『鬼滅の刃』でした。

『千と千尋』を超えるアニメってどんなものだろうと思って見たのですが、大したものだと驚きました。それ以来、アニメファンになってしまいました。今の日本のアニメは、魔法の世界や異世界などのパラレルワールドがメインになっていて、リアルワールドの設定が少なくなってきているのが特徴と言えます。

一方で、中国を素材にした中国人制作のアニメも日本で人気が出て来ており、どれもクオリティが高いと思います。双方共にアジアという点で共通の文化を感じます。私も、以前は『三国志』や『項羽と劉邦』など、中国のテレビ番組もよく見ていました。

言語・思想・習慣の違いや人種の壁などを乗り越えて、世界の人々が共感できるアニメの力に驚かされます。まさに文化は政治を越えるパワフルなものだと感じます。

 

日本の安全保障にとって

中国も米国も

共に最も大切な国

―― 本年は中日平和友好条約締結45周年の記念すべき年ですが、長引くコロナ禍で、両国間の交流は細くなり祝賀ムードも高まっていません。今後の中日関係の構築についてどのようにお考えですか。

 末松 昨年11月29日の衆議院予算委員会での質疑の際に、私は岸田総理に対して、「日本として、台湾の独立は支持しない!」ということをはっきり言うべきだと指摘しました。日本の政治家として、あくまでも日本人の暮らしと誇りを守り、日本の国土と安全を守るために、想定され得る最悪の事態を避けなければならないとの観点からの発言でした。

対中関係の構築については、米国が中国を覇権争いで敵視し始めていることを非常に懸念しています。日本の安全保障にとって、中国は極めて大切な国であり、米国も同様に極めて大切な国です。その両国が万が一戦争になれば、まさに悪夢の現実化です。あらゆる知恵を総動員して、このような最悪な事態を何とか避けないといけません。

いずれにせよ、もともと日本には遣隋使や遣唐使に象徴されるように、中国を師と仰いできた歴史があります。

日本と中国との良好な関係は、両国のみならず世界にとって死活的に重大なものです。

アジアで第三次世界大戦を引き起こさせないためにも、日本・中国・米国の政治家は、緊張緩和に向けてあらゆる知恵を出していく重大な責任があります!