「有人月探査」が宇宙経済の新時代を切り開く
暮らしにどんな変化があるか

有人宇宙船「神舟15号」を搭載したキャリアロケット「長征2号F遥15」は11月29日夜、正確に予定の軌道に入った。これは中国の有人宇宙飛行プロジェクトにおける今年6回目の飛行任務であり、宇宙ステーションの建設スケジュールにおける最後の飛行任務でもある。そして今、中国には有人月探査実施の条件が備わった。

宇宙探査と月探査はこれまでずっと各国が先を争うようにして進めてきた分野であり、宇宙経済市場のポテンシャルは極めて大きい。宇宙環境、宇宙資源、宇宙エネルギーの開発利用などの分野では、経済の面で新たな競争の場となり、人々の生活のさまざまな面に影響をもたらすことが予想される。

「宇宙経済」とは何か

宇宙経済の本質とは、宇宙科学技術レベルと業界発展動向の効果的なマッチングとモデル革新だ。

宇宙経済には、宇宙での活動によって創出される製品、サービス、市場および宇宙活動によって形成される関連産業が含まれ、宇宙情報サービスが今後かなり長きにわたって宇宙経済の主業務になるとみられている。

宇宙経済には、宇宙技術・製品、宇宙応用、宇宙科学の3大分野で形成される関連産業のほか、宇宙進出、宇宙探査、宇宙資源の採取などから派生した技術、産業、経済効果も含まれる。

現在、宇宙経済はまだ成長の初期段階にある。

 

到来しつつある

宇宙経済の時代

宇宙経済を発展させ、宇宙資源の開発利用権を獲得するのが、世界各国、とりわけ宇宙大国がひたすら追い求める目標だ。

宇宙技術のイノベーションが宇宙経済の発展を誘導するという原則に基づき、宇宙環境、宇宙資源、宇宙エネルギーの開発利用などの分野で新興産業の形成を誘導し、宇宙文化産業を発展させ、未来の価値を絶えず創出し、新しい製品とサービス形態を創り出し、新たな経済成長源を形成することが目指されている。

米宇宙技術投資プラットフォームのスペースキャピタルが発表した最新の報告書によると、過去10年間に、宇宙経済関連企業1694社が株式投資による資金を合計約2529億ドル(約34兆5700億円)獲得した。

宇宙経済の成長は、世界でベンチャー投資が著しく増加していることによる部分が大きい。予見可能な未来には、衛星インターネットと宇宙旅行が宇宙経済の発展を推進することになるという。

 

宇宙経済の背後にある

大きな市場

宇宙経済の背後には、絶えず豊富になり、整いつつある産業技術チェーンの存在がある。

複数の調査機関がそろって「宇宙経済市場のポテンシャルは極めて大きい」との見方を打ち出し、市場の価値を9260億ドル(約126兆5842億円)から2兆7000億ドル(369兆円)、年間成長率を4.3-9.5%と見積もる。

たとえばスイスのUBSは2021年5月に発表した予測で、30年までに、富豪たちによって牽引される商業ベース宇宙旅行市場の規模は30億ドル(約4101億円)に達するとした。

欧州の調査会社は、宇宙経済の規模は16年の2850億ドル(約38兆9595億円)から30年には6420億ドル(約87兆7614億円)まで増加するとした。米国のモルガン・スタンレーはさらに一歩進んで、40年までに宇宙経済の規模は1兆ドル(約136兆7000億円)を突破すると予測した。

同じく米国のバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチは、45年までに世界の宇宙産業の規模は2兆7000億ドル(約375兆9250億円)に達するというさらに大胆な予測を打ち出した。

 

人々の暮らしにどう新しい

シーンをもたらすのか

アポロ計画を例にすると、この計画によって米国では液体燃料ロケット、マイクロ波レーダー、遠隔作業、無線誘導など数多くのハイテク産業クラスターが生まれた。

その後、同計画のうち人工知能(AI)、ロボット、遠隔作業など多くの技術成果が民間用に転用され、科学技術と工業の全体的な発展と繁栄を促進した。

人々が日常の買い物で非常によく利用するバーコードは、宇宙航空技術から生まれた傑作の一つだ。初めは米国がアポロ計画での数え切れないほど大量の部品をコントロールするために開発されたものだった。

インスタントラーメンの具材に使用される乾燥野菜も宇宙食によく使われるフリーズドライ食品であり、この技術もアポロ計画で初めて実際に応用された。

北京師範大学政府管理研究院の宋向清副院長はさらに踏み込んで、「宇宙育種を例にすると、宇宙で新たな生物種を育てて研究開発することが可能で、その種を地球に持ち帰ると、生産量や品質に変化が起こり、一般の人々の飲食構造や食料安全保障などの分野で重要な意義を持ち、人々の日常生活を改善する可能性がある」と説明した。

 

人類の医療・ヘルスケア

事業の発展と変革を促す

海南ボアオ医療科技有限公司の鄧之東社長は、「宇宙経済は人類の医療・ヘルスケア事業の発展と変革を促す可能性もある。宇宙は今、人類が健康、長寿、疾病などで抱えてきた多くの難問を打ち破る全く新しい分野になりつつある。同時に、宇宙医学は将来の宇宙探査・開発、さらには宇宙への定住などの重要プロジェクトを進める上での前提と保障でもあり、1兆元(約20兆円)単位の宇宙経済を動かす重要な支点になる」と述べた。

医療産業と一般の人々の健康は密接に関連し、宇宙科学技術の民間利用はより多くの患者に恩恵をもたらすことになる。

「一帯一路」(the Belt and Road)ならびに「健康シルクロード」ヘルスケア産業博覧会で、中国の宇宙飛行士のために開発された「宇宙医療技術」が初めてお目見えした。

元々は宇宙飛行士が頭を低くして眠る実験を行なうための訓練ツールだったものが、セルフ式多機能介護ベッドに応用され、患者の下肢リハビリ訓練をサポートできるようになった。

農文旅産業振興研究院の常務副院長を務めるデジタル分野専門家の袁帥氏は、「将来的には、宇宙資源の開発と利用、宇宙探査科学技術成果の転化が、暮らしの中のヘルスケア、飲食、衣服、移動交通、医療、公共安全、環境保護などの分野に変化をもたらすかもしれない」と述べた。

宇宙経済はまだ特殊な経済形態であり、参入のハードルが高く、稀少性があるとともに、応用シーンが幅広く、応用の価値が大きく、極めて大きな開発の可能性と発展のポテンシャルを備えている。